「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第24巻「パルバンの戦い」

前のページ

70.魔法軍団・2

 「セイロス、あいつが飛ばされていったぞ」

 とギーが言いました。紫の魔法使いの攻撃を食らったランジュールは、もうどこにも姿が見当たりません。

 空飛ぶ馬の手綱を握ったセイロスは、そっけなく答えました。

「心配いらん。奴ならそのうちにまた戻ってくるだろう。それに飛竜部隊はディーラに到達した。飛竜の世話役という奴の役目は終了だ」

「そういうことなら、あんな奴はもう二度と戻ってこなくていいんだがな」

 とギーはまたぶつぶつと不満を洩らします。

 

 その間も、魔法軍団と飛竜部隊の戦闘は続いていました。

 城壁から魔法がひっきりなしに飛んでくるので、イシアード兵は飛竜で逃げ回るしかありませんでした。攻撃の隙を突いて接近する兵士もいますが、上空から落とした火袋は守りの障壁にぶつかって燃え上がり、そのまま消えてしまいました。ロムド側に被害を及ぼすことができません。

「どうする、セイロス? 守りが堅すぎて手も足も出ないぞ」

 とギーが尋ねると、セイロスは真剣な目で城壁の敵を眺めながら言いました。

「連中が見当たらん」

「連中? またあの金の石の勇者とかいう奴らを気にしてるのか。もしかしたら、ここにいないのかもしれないぞ。身代わりを立てて全然別な場所にいたことが、前にもあっただろう」

 ギーは非常に鋭い読みをしていたのですが、セイロスは慎重なままでした。

「奴は侮れないのだ。いると思えばいない、いないと思えばいる。常にこちらの予想の裏をかいてくる。ただひとつ確実に言えるのは、連中のやることには必ず意味があるということだ。まだ我々の前に姿を見せずにいるのは、我々を倒すための作戦だろう」

 セイロスが考え込んでしまったので、ギーは肩をすくめました。

「考えすぎだぞ、セイロス。今までの戦いと同じように、この都も一気に焼き払えばいいんだ」

「いや、まずは様子を見る」

 とセイロスは言うと、腰から黒い大剣を引き抜きました。ここにいろ、とギーに言い残すと、空飛ぶ馬の横腹を蹴って駆け出します――。

 

 

「セイロスが出てきましたぞ! 仕掛けてくるつもりだ!」

 と守りの塔で青の魔法使いが言いました。

「黒い破壊魔法か? 防がんと――!」

 と深緑の魔法使いがとっさに新たな魔法を使おうとすると、白の魔法使いが言いました。

「焦るな。奴からはまだ強力な闇魔法が感じられない。それより奴を近づけるな」

「承知」

 武僧が、ぐっと彼方のセイロスをにらむと、彼の杖から青い光が飛び出しました。セイロスめがけて飛んでいきます。

 けれども、それは命中する前に黒い光とぶつかり、空中で破裂しました。どぉぉん、と地響きを伴う音が響き渡ります。

「どれ、わしもじゃ!」

 と老人が杖を掲げると、女神官も同時に杖を上げました。緑と白の光が二つの塔からほとばしり、ひとつになってセイロスへ向かいますが、やはり途中で魔弾に防がれてしまいました。どどどぉぉん、と再び音が響き渡り、都全体がびりびりと震えます。

 四方八方に飛び散り降り注いでくる光のシャワーの中を、セイロスは馬で駆け抜けていきました。城壁から魔法軍団の魔法も飛んできますが、攻撃はことごとく砕かれてしまいます。

 

 ついにセイロスは街壁の上を飛び越え、都の上空へやってきました。都をすっぽりと包む光の半球に間近まで迫ると、白い光の障壁を剣でなぎ払います。

 とたんに、どん、とまた爆発が起きました。大量の光のかけらが飛び散り、火花の滝のように都に降りかかっていきます。

「きゃぁっ!」

 守りの塔の中でいきなり悲鳴を上げて吹き飛んだのは女神官でした。塔の石壁にたたきつけられて倒れます。

「大丈夫ですか、白!?」

「白、しっかりせい!」

 武僧と老人が驚いて呼びかけると、すぐに返事がありました。

「大丈夫だ……! だが、障壁に穴を開けられた! 防いでくれ!」

 女神官は石畳の床に手をついて起き上がろうとして、なかなか立ち上がれずにいました。額からは血が流れ出しています。

 同じ部屋にいた魔法使いが駆け寄っていくのを見て、武僧と老人はすぐ上空の敵へ目を戻しました。

 セイロスの下にはまだ光の障壁がありますが、白い光の膜に大穴が開けられていました。セイロス自身はそこをくぐらずに、上空の飛竜部隊へ呼びかけています。

「行け! 敵の都を襲撃しろ!」

 たちまち何十という飛竜が障壁の穴をくぐり始めました。上空の高い場所なので、城壁で守っている魔法軍団の魔法はほとんど届きません。

「去年のサータマン戦と同じ状況じゃ!」

 と老人が歯ぎしりすると、武僧が答えました。

「同じではありませんぞ。こちらだって、何もせずに過ごしてきたわけではないのですから――」

 

 そのことばが終わらないうちに、都の中から強い光の弾がいくつも飛び出してきました。光の筋を描きながら空を駆け上り、都に侵入してきた飛竜へ向かっていきます。

 飛竜はあわてて散開しましたが、光の弾はその後を追いかけました。飛竜に命中して、背中の兵士を吹き飛ばします。

 やったぁ! と都の中から歓声が上がったので、武僧はどなるように言いました。

「敵は次々侵入してくるぞ! 喜んでいないで都を守れ!」

 都のあちこちには小さな石造りの塔が建てられていて、部下の魔法使いたちが配置されていたのです。塔は高射魔砲という新しい魔法の道具でした。魔法使いたちの魔力を光の弾にして、より高い場所へ撃ち出すことができます。

「セイロスが魔砲を狙っとるぞ!」

 と老人は言って杖を振りました。とたんに、穴が開いた光の障壁の下に深緑の光の膜が生まれ、セイロスが撃ち出した魔弾を砕きます。

 光の膜を支えながら、老人はまた言いました。

「青、穴をふさぐんじゃ! これ以上、飛竜を都に入れちゃいかん!」

「承知!」

 と武僧も自分の杖を振り上げました。とたんに光の半球を作る青い光が動き出し、白い光の上に重なっていきました。セイロスが切り裂いて作った穴をおおっていきます。

 すると、セイロスが東の塔をにらみつけました。青い光がそこから発生していることを見抜いたのです。特大の魔弾が東の塔めがけて飛び出します。

 魔弾は深緑の光の膜を貫き、ばしん、と激しい音と火花を散らしました。衝撃で今度は老人が床にたたきつけられます。

「深緑!」

 と武僧は叫び、青ざめました。魔弾は彼を狙ってくるのですが、障壁の穴を修復するのに手一杯で迎撃ができなかったのです。部下たちが撃ち出す魔砲も、魔弾の威力にかなわずに砕けていきます。魔弾が東の塔に迫ります――。

 

 すると、南の塔から白い光の弾が飛び出しました。

 大きな弧を描きながら空中を飛び、セイロスの黒い魔弾に横から命中します。

 魔弾はその場で爆発して、四方八方に火花と光を飛び散らせました。ずずずん、と地響きがして、塔も城も激しく揺れます。

 武僧は、ほっとしながら南の塔へ呼びかけました。

「もう大丈夫ですか、白?」

 白い光の弾を撃ち出したのは女神官だったのです。

 武僧の目には、また杖を握って立つ彼女の姿が見えていました。自分で癒やしたのでしょう。頭の傷もすっかり消えています。

「もちろんだ。深緑は大丈夫か?」

 と女神官が言うと、老人も北の塔の中で立ち上がりました。

「ほい、腰を打ったが大丈夫じゃよ。青と協力してセイロスを遠ざけるから、白は早く穴をふさぐんじゃ」

「わかっている」

 女神官が杖を掲げると、都の障壁の穴が狭まり始めました。穴をおおっていた青い光と、穴の下で防壁になっていた深緑の光は、渦を巻いてひとつになり、向きを変えて穴の外へ飛び出していきます。

 そこには空飛ぶ馬に乗ったセイロスがいました。光の攻撃を避けて姿を消します。

 その間に白い障壁の穴は完全にふさがりました。もう外から飛竜が入り込むことはできません。

 

 

 セイロスは、はるか上空に再び姿を現すと、都を見下ろしながら言いました。

「魔法使いどもが盛大に抵抗してくるな。だが、すでに飛竜が何十頭も入り込んだ。さあ、どう出てくる、フルート? 早く姿を見せてみろ」

 ロムドの魔法使いたちがどれほど抵抗しても、彼が警戒している相手は、やはりフルートだけなのでした――。

素材提供素材サイト「スターダスト」へのリンク