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第24巻「パルバンの戦い」

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41.陰謀

 大変見苦しい場面をお目にかけました、とユギルが詫びたので、ロムド王は頭を振りました。

「我々こそ謝らねばならん。他人には見られたくない場面であったであろう――。ユギルの古い知り合いの女性だというので、先日聞かされた、そなたの奥方なのではないかと思ってしまったのだ。実は助かっていて、そなたに会いに来たのではないかとな。母親のほうだとは想像もしていなかった」

 すると、ユギルはまた苦笑しました。それまでずっと浮かべていた皮肉な表情を消して、慈しむような目で王を見つめます。

「陛下、わたくしは占者でございます。ユーアや他の仲間たちが捕らえられてどのような運命をたどったか、わたくしには手に取るようにわかったのです。ユーアたちは亡くなりました。わたくしの占いが何かの間違いで、運命の指の間をすり抜けて生き延びてくれていれば良いと――彼らを守り切れなかったわたくしを恨んでいてもかまわないから、生き続けてくれていれば、と今でも考えるのでございますが、起きてしまった過去を変えることは不可能なのです」

 そう言って、ユギルはまた頭を下げました。長い輝く銀髪がその表情を隠してしまいます――。

 

 王が何も言えなくなって黙り込むと、代わりにリーンズ宰相が口を開きました。

「このようなところで金の話を持ち出すのは大変失礼なのですが、あえてさせていただきます。ユギル殿は母君に金貨百五十枚を支払うと言われましたが、その約束には少々不安を感じます。そのお金で母君から自由を得るおつもりかもしれませんが、先方はユギル殿から口止め料をゆすり取ったつもりでいることでしょう。出自を陛下に知られたくないために、大金を支払ったのだと」

「だが、陛下は最初からユギル殿の正体をご承知だ。そんなことでゆすることはできん。母君にとっては大きな誤算だろうな」

 とゴーリスが言うと、宰相は心配そうに答えました。

「もちろん陛下にはそんなことは意外なことでもなんでもございません。ですが、あの方が城内で騒ぎ立てれば、城に集まる方々に余計な噂を吹き込んでしまいます。城下は大騒ぎになってしまうでしょう。しかも、経験から言って、あの手の要求が一度きりで終わった試しはありません。ユギル殿が金貨百五十枚を渡せば、あの方はもっとたくさんの金がほしくなって、また無心に来ることでしょう。そこでさらに金を渡せば、もっと金を要求してきます。ユギル殿はすでに返すべき金をあの方にすっかりお返しになった。それでもう良いことにすればよろしいと思います。あの方がそれでしつこく意義を唱えたら、私のほうで手を回して対処いたします」

 普段温和な宰相にしては、かなり強い提案でしたが、ユギルは静かに首を振りました。

「ご配慮ありがとうございます、宰相殿。ですが、ご心配には及びません。あの人と話している最中から、わたくしの占いの力が回復してまいりました。どうやら、この再会の予感がわたくしの心をずっと乱していたようでございます。まことに未熟なことでございました……。わたくしには、金貨を受け取った後のあの人の人生が見えました。情けをかけて一度だけ警告いたしましたが、あの人は聞き入れませんでした。どれほど正確に占って告げたとしても、それを聞く耳を持ってもらえなければ、占いは役には立ちません。あの人は自分の人生を自分で選び取ったのです。彼女がわたくしの前に現れることは、二度とございません」

 冷静な顔できっぱりと言い切る占者に、宰相もロムド王もゴーリスもことばを失いました。ユギルの母親に訪れる未来が、彼らにもわかってしまったのです。この後、大金を狙う強盗に襲われるか、先ほどの男と分け前のことで仲間割れするのか──。いずれにしろ、彼女はユギルから手に入れた金が元で命を落とすのです。言い知れない戦慄が彼らの背中を走り抜けます。

 

 すると、ユギルは無表情だった顔に急に真剣な表情を浮かべました。王たちへ一歩進み出て言います。

「今お話ししたとおり、あの人と会っている間に占いの力が戻ってまいりましたが、あの人の遠い背後に、陰謀の影が見えました。あの人自身はそうとは知りませんが、この訪問は敵によって仕組まれたことでございます。わたくしへ生みの母をぶつけてわたくしを動揺させ、さらに、陛下のわたくしへの信頼を失わせようとしたのです」

 ロムド王はため息をつきました。

「ユギルの過去を知って、わしがユギルを信頼しなくなると考えたか。愚かな話だ」

 リーンズ宰相は頭を振りました。

「陛下には愚かな話でも、一般的な話からすれば、ごく当然なことです。それで、ユギル殿――そのような陰謀を企んだのは何者ですか? ユギル殿の母君を見つけ出し、はるばるこのロムドへ送り込んでくるとは、かなり手の込んだ策略です。あのセイロスのしわざですか?」

「セイロスも無縁ではないでしょう。ですが、今回の一件の首謀者は、サータマン王でございます。わたくしの母と一緒にいた男の背後に、かの王の象徴が見えておりましたので。あの男はサータマン王によってつけられた用心棒でございます。せっかくの有用な駒(こま)を我々に始末されることを警戒したのでしょう」

「人は自分の尺度で他人を測るものだな」

 とゴーリスが言い捨てます。

 

 ユギルは母親と用心棒が出ていった扉を見ながら言い続けました。

「わたくしはただちに城に戻って占いを始めたいと思います。占盤がないので正確には申し上げられませんが、大きな戦闘の予兆がすぐそこまで迫っております。これほど近く強くなっていたのに、今まで感じることができなかったとは――。口惜しいことですが、サータマン王の企みは一部成功していたと言わざるを得ません」

 ロムド王はたちまち厳しい顔つきになりました。

「戦はどこで起きるのだ? やはり東か?」

「では、エスタ国で戦闘が?」

 とリーンズ宰相も聞き返すと、ユギルは色違いの目で空中を見据えながら答えました。

「正確な状況は城に戻り、占盤を使ってからにいたしますが、予兆が非常に強いので、方角と場所だけは申し上げることができます。敵が現れるのは東の方角。そして、激戦が起きるのは、他でもないこのディーラでございます」

 彼方から響くような声で、ユギルはそう予言しました――。

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