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第24巻「パルバンの戦い」

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7.同行

 ペルラが一緒に闇大陸へついていく、と言い出したので、一行は驚きました。

 フルートが真剣な顔で言います。

「無理なんだよ、ペルラ。そこは結界に閉じ込めらているし、光と闇の激戦があった場所だから、きっと今も呪われている。危険すぎるんだよ」

 すると、ペルラはシードッグの上で腰に両手を当て、豊かな胸を突き出してフルートをにらみつけました。

「あたしを誰だと思ってるの、フルート? 海王の三つ子といえば東の大海ではちょっと有名な戦士なのよ。どんな場所でも怖くなんてないわ。陸上でも平気よ」

 それを聞いて、ゼンは顔をしかめました。

「ったく。海の王族はみんな同じようなことを言いやがるな。単純だし血の気が多すぎるぞ」

「それ、ゼンにだけは言われたくないよ」

 とメールが言い返します。

 フルートは困惑しながら説得を続けていました。

「ペルラ、本当に危険なんだったら。いくら君が海の王女でも、デビルドラゴンが残していった闇の呪いにはきっと勝てない。しかも、別空間の場所なんだから、海王たちの助けも及ばないんだよ」

「でも、そこにあなたたちは行くんでしょう?」

「うん。ぼくたちは金の石の勇者の一行だからね。これはぼくたちの役目なんだ――。じゃあね、ペルラ、シィ。クリスやザフたちによろしく伝えてくれ。闇大陸から帰ってきたら、またゆっくり話そう」

 ペルラを説得するのは難しそうだと察して、フルートは半ば強制的に話を打ち切りました。まだひどく不満そうな顔をしている彼女へもう一度、じゃあ、と挨拶すると、仲間たちに合図をします。

「行こう。レオン、案内を頼む」

「ああ」

 とレオンとビーラーは先に立って飛び始めました。嫌みな少女から離れられるのを喜んでいるのが、ありありとわかります。

「じゃあな」

「また会いに来るからね」

 とゼンとメールも言ってルルと飛び始めました。その後にフルートとポポロが乗ったポチが続きます。ポポロはフルートの腰に腕を回し、体をぴったりとフルートに寄せていました。見るからに信頼を感じさせる姿です。

 ペルラはぎゅっと唇を歪めました。遠ざかり始めた一行を見ながら、足を踏み鳴らすようにシードッグの頭を蹴ります。

「なにしてるのよ、シィ! 早く追いかけて!」

「えっ、まさか本当についていくつもり、ペルラ?」

 とシィは驚きました。

「あたりまえじゃない! 早く! 彼らが見えなくなっちゃうわ!」

「無理よ。あたしは海しかペルラを運べないんだもの。陸に上がったら、変身もできなくなっちゃうのよ」

 シィは心配して渋りましたが、ペルラは気持ちを変えませんでした。

「陸の上まで運べ、なんて言ってないじゃない! ちゃんと歩くわよ! いいから急いで追いかけて! 早く!」

 ペルラにまた蹴られて、シィはしかたなく泳ぎ始めました。ペルラを乗せた頭は海上に出したまま、フルートたちの後を追いかけます。

 

 海の上を飛んでいたポチが、後ろを見て言いました。

「ワン、ペルラとシィがついてきますよ」

「もう、しつこいわね! 振り切っちゃいましょうよ!」

 とルルは腹を立てましたが、ビーラーが首を振りました。

「闇大陸の入り口までもうすぐなんだ。早く飛んだら通り過ぎてしまうよ」

 ポポロは自分の手を見ながら言いました。

「魔法であたしたちを見えないようにしたほうがいいかしら。見えなくなれば、追いかけられなくなるわよね……」

「うぅん、それもダメかも。ここは海に近すぎるからさ」

「海の上で魔法を使うと、渦王に気づかれるぜ。ポポロくらいでかい魔法なら、なおさらだ」

 とメールとゼンが言います。

 フルートは振り向いてペルラとシィを見ていましたが、自分たちを追いかけるように吹く風に、透き通った女性たちがいるのを見て、これは振り切れない、と判断しました。ペルラは風の精のシルフィードたちと友だちで、彼らの声を聞くことができるのです。全員に停止を命じます。

「やっぱり彼女を連れていくのか? やめたほうがいいと、ぼくは思うぞ」

 とレオンが言いました。また不機嫌になってきています。

 フルートは溜息をつきました。

「ぼくもそう思うよ。でも、しょうがないだろう。このまま彼女が一緒に来たら、きっとぼくたちの居場所が渦王にわかる。ぼくたちが闇大陸に行こうとするのを、渦王に阻止されそうな気がするんだ」

 

 そこで彼らはペルラたちが追いついてくるのを待ちました。声が聞こえるくらい近づいたところで、フルートが話しかけます。

「ペルラ、この先は絶対に危険だから、ぼくたちとしては君に引き返してほしいと思ってる。でも、君がどうしても一緒に来たいと言うなら、しかたないから連れていってあげるよ。だから、約束してくれ。ぼくたちの言うことは絶対に聞くこと。それから、ぼくたちのそばから離れないこと。闇大陸で何が起きるか、何が待ち構えているのか、ぼくたちにもわからないんだ。勝手な行動を取られると、君だけでなく、他の仲間たちまで危険になるんだ」

 フルートに強く言われて、ペルラはたじろぎました。同時にまた頬を赤く染めてしまいます。真剣に話すフルートは、相変わらず優しい顔立ちをしていますが、もう少女のようには見えませんでした。厳しいまなざしと表情が、彼をぐっと大人に見せて、凜々しささえ漂わせていたのです。

「う、うん……わかったわ。ありがとう……」

 ペルラはそう答えると、恥ずかしそうにうつむいてしまいました。上目遣いに、そっとまたフルートを見上げます。

 けれども、フルートはそんな彼女のまなざしには気づきませんでした。風の犬たちに向かって尋ねます。

「ペルラたちを空に引き上げなくちゃ、闇大陸の入り口はくぐれないだろう。彼女たちを乗せられそうかい?」

 すると、ルルが即座に言いました。

「私は無理よ! ペルラもシィも私とは特に仲がいいわけじゃないんだから!」

「ぼくも無理だな。今会ったばかりで、風の背中に乗せられるはずはない」

 とビーラーも言いました。風の犬は友だちしか乗せることができないのです。

「ワン、ぼくならなんとか乗せられるかもしれないけど――」

 とポチは言いかけましたが、とたんに背中の毛を逆立てました。ルルから猛烈な嫉妬と怒りの匂いが押し寄せてきたからです。

「ワン、や、やっぱり無理かも……」

 と首をすくめてしまいます。

 メールがペルラに話しかけました。

「ねえさぁ、やっぱり一緒に行くのは無理そうだよ? それでもついてきたいのかい?」

「あたりまえよ! 心配しないで。あたしだって魔法くらい使えるんだから! 空中に入り口があるって言うなら、シィと一緒にそこまで飛び上がってみせるわよ!」

 ペルラはまた胸を張っていましたが、レオンは頭でも痛むように額を抑えてしまいました。

「馬鹿なことを言わないでくれよ。闇大陸の入り口には強烈な魔法がかけられてるんだ。生半可(なまはんか)な魔法で入ろうとすれば、たちまち全身ばらばらにされて、跡形もなく消滅するぞ」

「まあ! 生半可な魔法ってなによ!? あたしは海王の娘よ! 海の魔力だって、他の海の民よりずっと強いのよ!!」

 とペルラはむきになって言い張りました。やっぱり引き返す気配はありません。

 

 フルートはまた溜息をつきました。レオンに向かって尋ねます。

「彼女たちを一緒に連れていく、適当な魔法はないかな?」

 天空の国の少年は、気の進まない様子で答えました。

「それなら、シードッグを風の犬に変えればいいだろう。それなら問題もなくなるはずだ」

「ワン、シィを風の犬に変えるんですか?」

「風の首輪もなしに、そんなことができるの!?」

 とポチとルルは驚きました。風の犬に変身するための首輪は、天空王から授けられるもののはずです。

 レオンは片方の肩をすくめました。

「完全な変身は無理だろうけどな。元々シードッグの祖先は天空の国の風の犬だから、風の犬とは非常に近い存在なんだ。海を行く代わりに空を進めるようにすることは、きっと可能だ」

 そう言ってから、自分の中に何かを探すように目を閉じ、すぐにまた目を開けて手をシィに向けました。

「レワーカニヌイノゼカーヨヌイノミーウ!」

 呪文と共に銀の星が散ります。

 すると、海の中からシィの体が浮き上がりました。頭と体の前半分は巨大なぶち犬ですが、後足はなく、体の後ろ半分は大きな魚の尾になったシードッグです。それがみるみる透き通り、体の中に白い霧が流れ始めます。

 魚の尾も輪郭が薄れ始めますが、完全に消えることはありませんでした。本物の風の犬は体の後ろ半分がユラサイの竜のように長く延びて空と同化しているのですが、シィはそんなふうにはなりません。透き通った魚の尾を持ったまま、空に浮いています。

「まあ、風の首輪がないから、こんなところが限界だな。でも、これで空は飛べるはずだぞ」

 とレオンが言ったので、シィは空中でそっと尾を動かしてみました。とたんに巨大な体が前に進みました。頭の上にはペルラを乗せたままです。

「空を飛ぶって言うより、空を泳ぐって感じだな」

 とビーラーが言いましたが、ペルラはつんと答えました。

「いいじゃない。これで一緒に行けるんだから。さあ、行きましょう。その闇大陸っていうのはどこにあるのよ?」

「君が仕切るな。リーダーはフルートだぞ」

 とレオンはぶつぶつ言いました。ペルラが一緒に来ることになってしまったので、ひどく不機嫌な顔です。

「とにかく出発だ。闇大陸の入り口へ行くぞ」

 フルートの合図で、一行はまた空を飛び始めました。シィも大きな尾を動かして一生懸命ついていきます。

 彼らの下に広がる大海原は、吹き抜ける風に波を立て、太陽を何億というかけらにしてきらめかせていました――。

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