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第24巻「パルバンの戦い」

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2.出発

 レオンとビーラーは、フルートたちが竜の宝の手がかりを求めて天空の国へ行ったときに出会った相手でした。レオンは天空城の魔法学校でも屈指の優等生、ビーラーはその飼い犬です。最初は互いにいけ好かない相手だと思っていたのですが、天空の国を乗っ取ろうとしていた副校長のリューラと戦う中で、いつの間にか友だちになっていました。ちなみに、ビーラーはポチの父方の従兄弟(いとこ)です。

 その彼らが突然ロムド城の部屋に現れたので、フルートたちはびっくりしました。

「レオン、どうしてここに……?」

「ワン、鏡から飛び出してきたんですか? ビーラーなら風の犬に変身して空から降りてこられるのに」

 とフルートやポチが言うと、天空の国の少年は口を尖らせて、ひどく不満そうな顔になりました。

「言っただろう。君たちが全然ぼくらを呼ばなかったからだよ。確かに、ビーラーは天空王様から風の首輪をいただいたから、ぼくを乗せて空を飛べるようになったけれど、世界の取り決めで、ぼくたちは呼ばれない限り地上に降りることはできないんだ。まったく。いくら待っても君たちがぼくたちを呼ばないから、こんな方法をとることになったんだぞ」

「鏡に姿を映して、無理やりフルートたちに呼ばせたのね。規則違反ぎりぎりじゃないの」

 とルルはあきれましたが、フルートのほうは真顔になりました。

「そんな方法をとってまで、どうしてぼくたちに会いたかったんだ? 天空の国で何かあったのか?」

 セイロスの行方はわかりません。ひょっとして天空の国に現れたのではないか、と心配になったのです。

 レオンは首を振りました。

「おかげさまで、天空の国はあれからずっと平穏無事だよ。天空王様もずっと天空城にいらっしゃるしな。そうじゃなくて、君たちに知らせたいことがあったんだ」

「知らせたいこと?」

 と勇者の一行は聞き返しました。レオンは何の前触れもなく現れているので、どんな話をするつもりなのか、見当がつきません。

 すると、レオンは手招きをしてフルートたちを呼び集め、声を潜めてこう言いました。

「君たちが知りたいと言っていたことだ。闇大陸の場所がわかったんだよ――」

 

 ええええ!??

 勇者の一行は仰天して叫ぼうとしましたが、その声は口から飛びだしてきませんでした。レオンがすかさず呪文を唱えたからです。

「レマーダ」

 銀の星が飛び散り、一同の叫び声が立ち消えてしまいます。

 相変わらず声を潜めたまま、レオンは話し続けました。

「大声を出すな。城の魔法使いがこの部屋を外から監視しているからな。大声を出せば聞きつけられるぞ――。今言った通りだ。ぼくは第二次戦争の最終決戦があった闇大陸の場所を見つけた。君たちは今でもそこに行きたいんだろう? ぼくとビーラーで案内してやるよ」

 勇者の一行は呆然としました。闇大陸の場所を知るために渦王を問いただしに行こう、と話していたのは、つい今しがたのことです。あまりのタイミングに、すぐには反応できません。

 けれども、フルートだけは慎重な声になって尋ねました。

「その提案はすごく嬉しいよ。でも、ぼくたちが闇大陸の場所を探していることを、どうして知ってるんだ? 前に君に話したことはなかったよな?」

 レオンはつまらなそうに肩をすくめました。

「君たちが闇の竜を倒すために具体的な何かを探していたのは、見ていればわかったさ。君たちが図書館から借りた概論には、闇大陸の戦いの項を何度も読んだ痕が残っていたから、闇大陸を探しているんだろうってのも、すぐに見当がついた。でも、結局闇の竜は地上で人間となって復活してしまったし、君たちはずっと激しく戦い続けている。だから、きっと君たちは今でも闇大陸に手がかりを探しているんだろうと思って、ぼくなりに探してみたのさ」

「それで見つけることができたのね? どうやったの?」

 とポポロがますます驚くと、レオンはまた肩をすくめました。

「闇大陸が西の大海にあったことは記録に残っている。それが今は見当たらないってことは、間違いなく結界に封じられたってことだ。だから、第二次戦争の前と後の西の大海を見比べて、新しく結界が生まれた場所を探したんだ。そこに闇大陸が隠されている可能性が高かったからな」

 へぇぇ、と勇者の一行は感心しました。

「おまえ頭いいな、レオン」

 とゼンが誉めると、足元からビーラーがうなりました。

「当然だろう。レオンは次期天空王と言われている天才だぞ! それに、口で言うのは簡単だが、実際に調べて見つけ出すのはものすごく大変だったんだからな! 海に落ちた1本の針を見つけるより難しいことなんだって、レオンは──」

 すると、取りすました自信家に見えていたレオンが、顔を赤らめてさえぎりました。

「よせ、ビーラー。ぼくはまだまだ半人前なんだよ」

 天空の国でフルートたちと一緒に戦ったときに、彼は謙虚を学んだのです。

 

「ねぇさぁ、それで闇大陸はいったいどこにあったわけ? あたいは西の大海で生まれ育ってるけどさ、そんな大陸のことは全然知らなかったんだよ」

 とメールが言いました。彼女は西の大海の王女です。

 レオンは両手を広げて見せました。

「今話しただろう? 魔法で封じられていたから、存在が誰にもわからなかったんだ──。いや、実際には何人かは知っていたはずだな。闇大陸を隠している結界には、光の魔法だけじゃなく、海の魔法もユラサイの術も、それ以外の魔法も使われていて、特に海の魔法が強力だった。おそらく、光の陣営の魔法使いたちが力を合わせて闇大陸を封じた後、代々の海の王が結界を維持してきたんだろう」

「やっぱり渦王が隠してやがったのか」

 とゼンは渋い顔になり、父上ったら! とメールは憤りました。

 ルルが身を乗り出します。

「ねえ、その闇大陸はどこにあるの? 西の大海には陸がほとんどなくて、海原が広がってるだけだわ。あそこのどのあたりに隠されていたの?」

 すると、レオンはぱちりと指を鳴らしました。とたんに銀の星が散り、彼らの間の空中に半ば透き通った地図が浮かび上がってきました。キースや白の魔法使いも時々使う魔法ですが、レオンは天空の国の魔法使いなので、映し出された地図は空から本物の海や陸を見下ろしたように正確でした。

「闇大陸はこのあたりだ。西の大海の南東部のど真ん中――本当に海しかない場所だ」

 レオンが指さした位置を見て、フルートは眉をひそめました。

「渦王の島のちょうど南東の方角だな。こんなところにあったのか」

「ワン、ぼくたちは闇大陸を探してトムラムスト諸島までは飛んだけど、トムラムストのもっと西側だったんですね。トムラムストから引き返さないで、もっと先へ行けば見つかったんだ」

 とポチが残念がると、レオンは大真面目な顔で首を振りました。

「すぐそばまで行っても真上を通っても、絶対気がつかない。結界に隠されているのは闇大陸の入り口だけだ。闇大陸本体は完全に別空間に移されてしまっているからな」

「いろんな種類の魔法で何重にも隠されているのね。ポポロの魔法は二回しか使えないから、確かに、レオンの魔法がないと闇大陸までたどり着けそうにないわ」

 とルルが言ったので、ビーラーが自分のことのように得意そうに尻尾を振ります。

 

「さあ、それじゃさっそく出発しよう。闇大陸に行ったら、竜の宝を見つけ出して消滅させなくちゃいけないんだ。ぐずぐずしている暇はないだろう」

 とレオンに呼びかけられて、一行は、よし! と動き出そうとして、また驚きました。

「レオン、今なんて言った……? 闇大陸には竜の宝があるって言ったのか!?」

「ワン、ぼくたち、竜の宝のこともまだレオンに話していませんでしたよね。どうしてそれを?」

 天空の国の少年はまた肩をすくめ返しました。

「天空城の泉は見たいものを見せてくれるからな。君たちがこれまでどんなふうに闇の竜と戦ってきたのかも、どこで誰を守ってきたのかも、全部見たよ。竜の宝のことも、それで知ったんだ」

 勇者の一行は顔を見合わせました。

「本当に全部……? あたしも泉はよくのぞいたけど、過去までは見たことがなかったわ」

 とポポロが言うと、レオンは微妙な顔で笑いました。

「それは君に良識があるからさ。過去は個人の経験だ。その中には秘密にしていたいことだってあるだろうし、それを勝手にのぞくのは失礼なことだと思っているから、泉も映さないんだよ。でも、ぼくはそこまで見ないと、君たちを手伝えないと思ったからな──」

 レオン、と勇者の一行は言いました。一見すまして見える魔法使いの少年が、彼らの知らないところで、彼らのために一生懸命努力してくれたことを感じ取ったのです。

 すると、レオンは照れ隠しするように繰り返しました。

「さあ、本当に出発しよう。ぐずぐずしてると誰かが来るぞ」

 言いながら空中の地図を消し、自分たちのせいでめちゃくちゃになった部屋をに呪文を唱えます。とたんに風で吹き飛んだものが宙を飛んで戻ってきて、元の場所に収まりました。毛布やシーツや枕、カーテン、家具……テーブルと一緒に、食べかけだった食料も戻ってきます。

「おっと、食いものは確保しねえとな」

 ゼンはあわてて荷袋に食料を詰め込み始めましたが、他の仲間たちは特に準備することはありませんでした。彼らは猿神グルの戦いから戻ってきたばかりだったので、戦支度も荷物もまだ解いていなかったのです。少女たちがバッグを肩からさげ、フルートが兜をかぶり直せば、それでもう準備は完了でした。

「よぉし、こっちもいいぞ」

 とゼンが食料でふくらんだ袋を担いだので、フルートは全員に言いました。

「よし、出発だ。行き先は闇大陸。レオン、ビーラー、案内をよろしく頼むよ」

「任せてくれ」

 とレオンは答えると、部屋の窓に向かってまた呪文を唱えました。

「ケラーヒクキオオー!」

 たちまち窓が音を立てて大きく開きます。

 レオンがビーラーの首輪をつかんで背中にまたがると、ビーラーはたちまち風の犬になって窓から飛び出しました。その後ろに、ゼンとメールを乗せたルルと、フルートとポポロを乗せたポチが、やはり風の犬の姿で続きます。

 一行は空高く舞い上がり、城の上で向きを変えると、東へ飛び始めました――。

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