「青さん!!」
メールとポポロは、突然現れた人物を見て歓声を上げました。
「青の魔法使い!」
とセシルも言います。
すると武僧の魔法使いは苦笑いの顔になりました。
「約束通り勇者殿たちに会いに来てみれば、森の中で激戦が始まっておりました。いやはや。数百騎もの大軍とセイロスからなる部隊を、たったこれだけの人数で止めようとなさるとは、勇者殿たちもセシル様も無謀ですぞ。しかも、空には魔獣を連れたランジュールまでいるではありませんか」
そう言いながらこぶだらけの杖を掲げると、青い光が広がって、空中にいたセイロスとランジュールを押し返しました。ただ、フルートやポチ、影の大猿のグルはその場所から動きません。
青の魔法使いは目を丸くしました。
「私の魔法が効かないとは、あの魔獣は何者ですかな?」
「グルです――グル教の主神の猿神なんです! セイロスとランジュールに操られてます!」
とフルートは空中から答えました。グルが大蛇や虎、狼やヒヒといった動物に似た怪物を次々くり出してくるので、それをかわして倒すのに必死になっています。動物はフルートが炎の剣で切ると燃えていきましたが、グルだけは影の姿なので、幾度切りつけても炎に包まれることはありません。
「グルですと?」
と青の魔法使いは真剣な表情に変わりました。空飛ぶ馬で舞い戻ってきたセイロスをにらみつけて言います。
「人々が神と崇め(あがめ)心のよりどころとしているものを、歪めて怪物にするとは実に悪質だ――! 彼らの神を操ることで、信じる者たちまで操ろうとしているのか!」
すると、セイロスは冷ややかに言い返しました。
「疾風部隊はもう私の部下だ。操っているわけではない。我々の邪魔をするというのであれば、貴様も黄泉の門へ送り込んでやろう」
同時にセイロスはランジュールへ合図を送りました。とたんに遠くへ飛ばされていたランジュールもグルのすぐ横に戻ってきました。
「はいはぁい! たとえロムド城の四大魔法使いでも、さっちゃんには勝てないもんねぇ。なにしろ、さっちゃんはグルの神様で、魔法の種類が違うからさぁ――。さぁ、さっちゃん、もっと大暴れしよぉかぁ。敵はお坊さんがひとり増えただけだから、勇者くんと一緒に片づけちゃおう」
うぉぉぉ!!!
影の大猿が声をあげました。付近の森が振動でびりびりと震えます。
すると、その声に銀鼠と灰鼠が目を覚ましました。自分たちがゼンに抱えられているので驚き、近くに青の魔法使いが立っているのを見てまた驚きます。
「青様!」
「どうしてここに――!?」
「銀鼠も灰鼠も勇者殿たちと協力して善戦していたようだな。ご苦労」
と青の魔法使いは言いました。部隊が違うので直接の上司ではないのですが、魔法軍団の長として二人をねぎらいます。
そこへ地面からアギレーの槍が突き出してきました。稲妻が次々飛び出しながら青の魔法使いへ迫ってきます。
「危ない、青様!!」
姉弟は前に飛び出しました。二人揃ってナナカマドの杖を向けると、稲妻の槍が砕けて消えていきます。
青の魔法使いは満足そうにうなずきました。
「さすがは元祖グル教のしもべたちだな。グルの魔法にはめっぽう強い」
「俺たちもずいぶん助けられたぜ」
とゼンが言っているところへ、空からポチとフルートが舞い降りてきました。
「ルル!」
フルートがペンダントを向けると、魔石が輝いてたちまちルルの傷が治っていきます。
ルルはすぐに飛び起きると、ごぉっと音を立ててまた変身しました。ポチが飛びついて風の体を絡めます。
「ワン、大丈夫でしたか、ルル?」
「ええ、もう平気よ」
とルルは言うと、すぐにゼンを背中に乗せて空に舞い上がりました。一度押し返された疾風部隊が、再び進軍を始めていたからです。
銀鼠と灰鼠も森の中から絨毯を呼ぶと、それに乗って飛び上がりました。青の魔法使いは自分の魔法で空中に浮きます。
その足元を馬と人の大軍が通り抜けていきました。石畳の道を北へ駆けていきます。
「連中はミコンへ行くつもりだな。そうはさせん」
と青の魔法使いがまた魔法を繰りだそうとすると、頭上から巨大な鳥が襲いかかってきました。またグルの魔法です。銀鼠と灰鼠が防ごうとすると、今度はセイロスの魔弾が降ってきます。
すると、青の魔法使いと銀鼠灰鼠の前にフルートが飛び込んできました。金の石の光を広げてセイロスの攻撃を防ぎます。
その間に姉弟はグルに攻撃をくり出しました。
「来たれ、アーラーン!」
すると、炎が犬のような形になって鳥を焼き尽くし、そのまま影の猿の中に絡みつきました。グルをその場所から動けないようにします。
「よくやった」
と青の魔法使いは言うと、こぶだらけの杖を道へ向けました。気合いと共に魔法をくり出します。
すると、疾風部隊の行く手で地面が大きく崩れ、道の上に裂け目ができました。みるみる広がって深い谷に変わります。
「なんの」
セイロスがにらみつけると、谷の上に広い石橋が現れました。疾風部隊は橋の上を駆け抜けて、なんなく谷を越えてしまいます。
部隊の後を管狐で追いかけていたセシルたちが、空中のゼンとルルを呼びました。下りてきた彼らに言います。
「このままでは、いつまでたってもフルートはグルをソルフ・トゥートへ誘導することができないぞ。なんとしても疾風部隊を止めなくては」
「どうにかしてセイロスを抑えらんないかい? あいつが邪魔するから、疾風部隊を止められないんだよ」
「あいつに近づくとルルをやられちまうんだよ」
とゼンはうなるように言って、空をにらみました。セイロスは空飛ぶ馬を操って空中を縦横無尽に駆け回っています。ゼン自身は魔法が効かないので、取っ組み合いになればセイロスにも勝てる気がするのですが、そこまでの間にルルを攻撃されてしまうのです。
セイロスを防ぐことができるのは、フルートが持っている金の石だけでした。セイロスがいる限り、フルートはこの場所を離れることができません。
すると、メールの後ろに座っていたポポロが急に声をあげました。
「来たわ!」
一同は、どきりとしました。
「敵? それとも味方?」
とルルが聞き返します。
ポポロは石畳が延びていく北を指さしました。おおいかぶさっていた木をセイロスが魔法で消滅させたので、道はずっと先のほうまで見通しがききました。小さな尾根になった向こうから現れて駆け下ってくる集団が見えます。
「あれはなんだ!? 軍隊か!?」
とセシルが聞き返すと、ゼンが目をこらして言いました。
「騎馬隊だ。全員が白い服を着て青いマントをしてやがるぞ。鎧は着てねえ」
「それって――!」
とメールも声をあげます。
空中にいる一行も、山の上から下りてくる部隊に気がつきました。青の魔法使いがうなずきます。
「ようやく来ましたな。さすがにミコンからここまでは遠い」
「あれれぇ、あっちから来るのって、もしかしてぇ」
とランジュールも言いました。アーラーンの炎を振り切ったグルが、うなりながらそちらを振り向きます。
フルートとポチにも、近づいてくる部隊がようやく見分けられるようになりました。青いマントをひるがえす白い騎兵隊です。
「ワン、ミコンの聖騎士団だ!」
とポチが叫び、フルートは顔色を変えました――。