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第23巻「猿神グルの戦い」

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59.妨害

 フルートはポチの上で炎の剣を抜きました。

 目の前にはセイロスと疾風部隊がいました。ポチが風の体で道をふさいでいるので、さすがに先へ進むことができなくなっています。

 すると、セイロスも自分の剣を抜きました。やはり大剣で黒い色をしていますが、フルートの炎の剣と違って、赤い石ははめ込まれていません。それをゆっくりフルートへ向けながら、背後の部隊に言います。

「先へ行け。私はこいつを片づけてから行く」

 とたんに、セイロスを乗せていた馬が高くいななきました。みるみるその背中から翼が突き出してきます。純白の体に白い翼ならばペガサスですが、セイロスの馬は灰色で、現れてきたのはコウモリのような黒い羽根でした。

 上空からそれを見ていたルルとゼンが言いました。

「やだ、ザカラス城の空飛ぶ馬じゃない!」

「てめぇ、そんなもんに乗ってやがったのか!」

 それを聞きつけたのは、後方で姉弟と戦っていたランジュールでした。空中で振り向いて肩をすくめます。

「ボクはヒンヒンちゃんを出したくなかったんだけど、セイロスくんが自分の馬に使うって言い張って聞かなかったんだよねぇ。セイロスくぅん、ボクのヒンヒンちゃんを傷つけたりしないでよねぇ――」

 うぉぉぉ!!!

 ランジュールの横で影の大猿が腕を振っていました。とたんに腕の先がちぎれて大きな甲虫になり、姉弟に襲いかかっていきます。

「アーラーン!」

 と銀鼠がまた杖を振ると、炎が甲虫を包みました。そのまま焼き尽くしてしまいます。

「アーラーンが――普段の何倍もの力を発揮している――なんとか防げるかな――」

 と銀鼠は言いました。次々降ってくる稲妻を空飛ぶ絨毯でかわしながらなので、声が切れぎれになっています。

 

 空飛ぶ馬が翼を打ち合わせて空に舞い上がったので、疾風部隊からどよめきが上がりました。空中にいるフルートへ向かっていく様子を、ぽかんと見送ります。

 すると、隊長のひとりがどなりました。

「我々の目的地は異教徒どもの総本山だ! こんなところでぐずぐずしていては疾風部隊の名折れだぞ!」

「そうだ! 行くぞ!」

 と他の隊長たちも駆け出したので、部下の兵士たちは我に返りました。頭上ではセイロスとフルートの一騎討ちが始まろうとしていましたが、それを無視して前進を始めます。

 ところが、その行く手に、今度はルルに乗ったゼンが降りてきました。

「てめぇらをミコンに行かせるわけにはいかねえんだよ。あきらめやがれ」

 と言いながらルルから飛び降りてきます。

 兵士たちはいっせいに笑いました。五百騎の兵士と五百頭の替え馬からなる軍勢の前に、ゼンはたったひとりで下り立ったのです。踏みつぶしてくれ、と言っているのも同然でした。

「とんでもない阿呆がいるぞ! 望み通り踏んでやれ!」

 と隊長がまた言って駆け出し、兵士たちがそれに続きました。疾走する蹄の音が石畳に響きます。

 すると、ゼンはひょいと道の横の森に飛び込みました。やおら近くの木をつかむと、そぉれ! と引き抜いてしまいます。

 疾風部隊は仰天してまた立ち止まりました。ゼンがつかんでいるのは、大人が二人がかりでやっと腕を回せるほど太い木でした。それをまるで雑草でも抜くように、根っこから引き抜いてしまったのです。思わず後ずさってしまいます。

「そうそう。そうやって下がってろ!」

 とゼンは言うと、抜いた木を頭上でぐわぁんと振り回し、勢いをつけてから放り出しました。

 ずしぃん。

 地響きと共に木は道の上に落ちて横倒しになりました。太い幹や枝が行く手をふさいでしまいます。

 そこへルルが飛んできて言いました。

「ゼン、高さが足りないんじゃないの? 馬が飛び越えそうよ」

「そうか? じゃあ、もう一丁行くか」

 ゼンはまた手近な木をつかむと、気合いと共に引き抜き、先に倒した木の上へ放り投げました。さらにもう一本抜いて、だめ押しのように積み重ねます。それだけのことをしても、ゼンは息ひとつ乱していません。

 疾風部隊はますます後ずさります。

 そこへ、後方からセシルとメールとポポロを乗せた管狐が追いついてきました。

 メールが両手を上げて呼びかけます。

「花たち! 敵を刺してやりな!」

 すると、森の中で雨のような音が湧き上がり、色とりどりの花が飛びだしてきました。花びらを蜂の羽根のように震わせながらやってきて、疾風部隊に襲いかかります。

 花は兵士に飛びつくと茎を伸ばして、鋭い先端を鎧の隙間に突き立てました。馬に取り憑いた花は馬の皮膚に茎を突き刺します。たちまちそこここで悲鳴やいななきが上がり、大混乱が始まりました。馬が暴れ出して乗り手を放り出し、落馬した兵士たちは花を払い落とそうと地面を転げ回ります。

 管狐の上でレイピアを握っていたセシルは、剣を鞘に戻しました。この様子ならば自分が戦いに出なくても良さそうだ、と判断したのです。

 ポポロも魔法の準備をしていた手を下ろしました。こちらはほっとした顔で自分の手を握りしめます。

 

 そんな様子を空中から見下ろして、セイロスは舌打ちしました。ポチに乗ったフルートをいまいましくにらみつけます。

「よくよく目障りな奴だな。幾度私の邪魔をすれば気がすむのだ」

「おまえが世界征服なんて馬鹿なことをあきらめるまでだ」

 とフルートは答えました。その両手は炎の剣を握りしめています。

 ふん、とセイロスは笑いました。

「無駄な努力だな。私がこの世界の王になることは、願い石によって約束されている。願い石に願ったことは必ず実現するのだ」

「自分自身の破滅と引き替えにね」

 とフルートは言い返しました。願い石の力の恐ろしさは、フルート自身がよく知っています。

 セイロスはまた冷ややかに笑いました。

「私は破滅はせん。確かに私と闇の竜はひとつになったが、私はこうして二千年たった今でも健全でいる。闇の竜の力と私の才気を使うことで、私は願い石の定めも越えるのだ」

 それを聞いたフルートは、ふと、これまで戦って倒してきた魔王たちを思い出しました。ゴブリン魔王、オオカミ魔王、レィミ・ノワール、仮面魔王、ミコンの大司祭長、眼鏡の魔王……。彼らは性格も種族さえも違っていたのに、口を揃えたように「自分はデビルドラゴンの力を利用するのだ。絶対に破滅はしない」と言っていました。世界征服をもくろんでいたのも共通です。このセイロスがデビルドラゴンになったから、彼の考え方がそのまま魔王たちにも宿っていたんだ、とフルートは考えます。

 すると、空飛ぶ馬がばさりと羽ばたいて迫ってきました。セイロスが大剣で切りつけてきます。

 がぎぃっ。

 フルートはとっさに炎の剣でそれを受け止めました。ポチが全力で前へ飛んだので、押し返されて空飛ぶ馬がバランスを崩します。その隙にポチは身をかわし、道の横の森に飛び込みました。セイロスが後を追ってきたので、木立の間をすり抜けて飛び始めます。

 フルートは剣を握った手を押さえていました。セイロスの攻撃があまりに強力だったので、受け止めた手がしびれてしまったのです。すぐには剣を構え直せません。

 ポチは木立の間を右へ左へ飛んで、セイロスの魔法攻撃をかわしました。森の木々がセイロスの魔弾を食らって倒れてきますが、うまくそれをすり抜けていきます。

 フルートはしびれが消えるのを待ちながら、ポチに言いました。

「どうにかしてセイロスに苦戦させよう――。そうすれば、セイロスはまたランジュールにぼくたちの相手を命じる。そのチャンスを利用して、グルをソルフ・トゥートへ連れていくんだ」

 この状況でもフルートはまだ最初の作戦を実行しようとしているのでした。フルート……とポチが驚きます。

 そこへまた魔法を食らった木が音を立てて倒れてきました。セイロスが彼らの後を追ってくるのが、木立の間に見えます。

「上に出よう、ポチ。そこでセイロスと戦うんだ」

 フルートはそう言うと、梢の向こうに見える空を見上げました――。

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