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第23巻「猿神グルの戦い」

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第17章 始動

49.始動・1

 「三人一組だ、急げ!」

「二人は必ず斧を持てよ!」

「夜も作業をするからランプも忘れるな!」

 フルートから作戦を聞かされたシュイーゴの男たちは、そんなことを言いながら小さな集団に分かれていきました。やがて二十七組のグループができあがります。

 一人だけグループに加わらなかったシュイーゴの僧侶が、フルートに話しかけました。

「勇者殿のおっしゃる通り、全員が三人一組に分かれました。最低二人は斧を持っています。これで森の中へ行って木を切れというのですな?」

 フルートはうなずきました。

「そうです。さっき言った通り、森の中へはメールが花鳥で運びます。メールが地上に降ろしたら、そこで木を切り始めてください。あまり大きいと切り倒すのに時間がかかるので、一抱えくらいの適当な太さのものを、地上一メートルくらいのところで切るんです。切り終わったら、メールが飛んで行った方向に向かって四十歩移動して、また別の木を切ります。そうやって、明日の朝までにできるだけ多くの木を切り倒すんです」

 

 すると、そこへポチとルルが別々の方角から飛び戻ってきました。フルートの前で犬に戻って言います。

「ワン、ここから一キロくらい東の国境に銀鼠さんが立ちましたよ」

「一キロ西の国境には灰鼠さんが立ったわ。みんなが来たら、すぐに祈りを始めてくれるって」

「よし。そうすれば国境を見落とすことはないな――。皆さんにもう一度言いますが、あなたたちはこれからサータマンの国境を越えてミコン側の森に入ります。国境を越えて向こうに行くのは平気ですが、向こうからこっちへ戻ってくるのは厳禁です。魔法がかけられているので、サータマンに入ったとたん稲妻にやられてしまうんです。皆さんは銀鼠さんのいる場所から国境を越えたら、その場で待っていてください。メールが皆さんを花鳥で順番に森の中へ運びます。繰り返しますが、絶対に国境を越えて戻ってきたりしないでください。稲妻を防ぐ方法がないんです」

 心配して念を押すフルートの横で、ゼンもメールに言っていました。

「いいか、みんなを森ん中に下ろし終わっても、絶対にこっちに戻ってくるんじゃねえぞ。国境を越えたとたん稲妻にどかん! だからな」

「もう。心配性だね、ゼンは。銀鼠さんがいる場所から灰鼠さんがいる場所まで、みんなを下ろしながらぐるっと飛んだら、あとは灰鼠さんのそばでちゃんと待機してるから、大丈夫だよ」

 とメールが口を尖らせます。

 

 そんな彼らから少し離れた地面の上には、先ほど作戦を説明するためにフルートが描いた図が残っていました。横一直線に伸びる国境の東西に目印があり、東の目印の横には「銀」、西の目印の横には「灰」と姉弟を示す文字が書かれています。東の「銀」から西の「灰」へは半円の弧のような線が延びていて、国境の北側に半円形が張り出すような形になっていました。半円の中央を通るように南から北へ伸びている線は、シュイーゴの砦を通ってミコンの都へ至る長い道です。

 小猿の姿のヨが地面に座って熱心にその図を眺めていました。隣では小枝を手にしたゾが図を示して話しています。

「ここが国境、これが道。道のここにあるのがシュイーゴで、ずっと先の方にあるのがミコンだゾ。セイロスたちはこの道を通ってミコンに攻めていくから、それを通せんぼする作戦なんだゾ」

 すると、ヨが首をひねりました。

「フルートたちは国境でセイロスたちを通せんぼするのかヨ? セイロスたちが国境を飛び越えたらどうするんだヨ?」

 聞き返されて、ゾはたちまち答えに詰まりました。先ほどフルートが皆に説明した様子を猿真似していただけで、作戦を理解しているわけではなかったのです。

 え、とか、うー、とかゾがうなっていると、近くで話を聞いていたセシルが苦笑いしながらやってきました。

「国境でセイロスたちを邪魔するわけではない。この国境はサータマンから外へ出るにはまったく問題ないからな。フルートたちはこの先の、この半円の部分でセイロスたちの動きを止めるつもりでいるんだ」

 二匹の小猿はいっせいに首をかしげました。セシルを見上げながら尋ねます。

「だからみんなで木を切るのかヨ?」

「木で柵を作って通せんぼするのか? でも、柵なんてオレたちならすぐ乗り越えちゃうゾ」

 セシルはまた苦笑しました。

「おまえたちは猿だから自由に出入りできるだろう。だが、セイロスや疾風部隊を乗せた馬は越えられなくなる。フルートはそれを狙って、囲い込み作戦をしようとしているんだ」

 二匹はまた考え込みました。教えられたことを理解しようと、腕組みしてじっとまた図を見つめます。

 すると、フルートが呼びかけてきました。

「セシル、ちょっと来てくれないか――!」

「今行く!」

 とセシルが駆けていったので、後にはゾとヨだけが残されます。

 

 国境線と十文字に交わるミコンへの一本道と、道の東側から北へ弓なりに延びて道の西側で再び国境とつながる囲い込みの線を眺めて、またヨが言いました。

「これ、すごく広い場所のような気がするヨ。広すぎると、間がつながらなくて柵ができないヨ?」

「ポポロがいるゾ。魔法で柵にするつもりかもしれないゾ」

「それなら、最初からポポロの魔法で柵を作ればいいんだヨ。そのほうが早いのに、どうして魔法を使わないんだヨ?」

「わからないゾ。さっき、フルートが何か説明してたけど、難しすぎてオレたちにはわからなかったんだゾ」

「そうだったヨ。オレたちには難しすぎたヨ」

 二匹はもう一度セシルが説明に来てくれないかと期待しましたが、セシルはフルートと打ち合わせをしていて、とてもそんな余裕はなさそうでした。猿の姿のゴブリンたちは、なんとなく自分たちだけが役立たずになったような気がしてしょげてしまいました。長い尻尾がしょんぼりと地面に垂れます。

 すると、そこへ鷹のグーリーが飛んできました。今までフルートたちのすぐそばの枝に留まっていたのですが、ゾとヨの頭上まで来て、ピィピィと鳴きます。

 二匹はたちまち飛び上がりました。

「フルートはオレたちのことも呼んでるのかヨ!? オレたちにも役目があるって言ってるのかヨ!?」

「オレたち、がんばるゾ! フルートの言う通り、なんでもするんだゾ!」

 張り切る二匹を背中に乗せて、グーリーはフルートの元へ飛び戻って行きました――。

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