シュイーゴの男たちが突然現れて「手伝いに来ました」と言ったので、フルートたちは驚いてしまいました。
彼らとは初対面だったセシルが目を丸くして尋ねます。
「彼らはシュイーゴの住人なのか? 今までどこにいたんだ?」
「こちらの麗人はどなたですか?」
とシュイーゴの僧侶も尋ねてきたので、メールが二人に向かって言いました。
「シュイーゴの人たちは町を焼き討ちされる前に逃げ出して、森の中に隠れてるんだよ。こっちはセシル。ロムド皇太子のオリバンの婚約者だよ」
セシルが思いがけず身分ある人物だったので、おお、と男たちの間から驚きの声が上がります。
フルートは真剣な表情になると、シュイーゴの人々へ言いました。
「手助けに来ていただけたのは嬉しいです。でも、セイロスはシュイーゴに砦を築いて疾風部隊を駐屯させています。完全装備の軍隊でなければ、とても対抗できない相手なんです」
シュイーゴの男たちは、手に手に斧や鎌を持っているだけで、着ているものは普通の作業着、身を守る兜や盾さえないありさまでした。セイロスの軍勢に向かっていっても、たちまちやられてしまうのは目に見えていたのです。
ところが、僧侶は言いました。
「確かに我々の装備は不充分でしょう。町ごと家を焼かれてしまったので、こんなものしか準備できませんでしたから。ですが、ノワラはわしたちに『行け』と告げたのです。わしたちにもできることがある、とノワラが言うのですから、きっと何かしらお役に立てるでしょう――。昔々、時のサータマン王に故国を滅ぼされてこの場所に追いやられたとき、このあたりは何もない深い森の中でした。しかも、春になれば決まって山から大水が来る。そこを住人一丸となって切り開き、牧場や畑を作り、洪水さえも利用して豊かな町を作り上げてきたのです。シュイーゴはわしたちの町であり、神々に残された数少ない聖地でもあります。ここを守ってグルを救い出せ、とノワラはわしたちに告げたのですから、わしたちはそれに従うのです」
僧侶の声は穏やかでしたが、その中に強い決意がありました。後ろに集まる男たちもいっせいにうなずきます。
フルートは何も言えなくなりました。その脳裏に浮かんでいたのは、ロムドの大西部に住む故郷の人々でした。敵が押し寄せてきたとき、彼らも手に手に鎌や熊手を握って戦いに駆けつけてきたのです。自分たちの町や村を守るために――。
けれども、ゼンのほうはもっと現実的でした。
「意気込みは立派だけどよ、どうやって戦うつもりだ? 向こうは軍隊だし、しかも馬に乗ってやがる。何もできねえうちに蹴散らされて終わりだぞ。せめて弓矢がありゃあ、なんとかできると思うんだがよ――」
ゼンは大きなエルフの弓と矢を背負っていますが、シュイーゴの住人の中に弓矢を持っている者は二、三人しかいませんでした。しかも、どれも飛距離が短い短弓です。
「こいつじゃ敵に近づかねえと矢を撃てねえ。危険すぎて使えねえな」
とゼンが苦い顔になると、ポチも言いました。
「ワン、ここのすぐ北側には、例の国境があるんですよ。間違って越えてしまったら戻ってこられなくなるから、そういう意味でも危険ですよね」
どう考えてもシュイーゴの住人は実戦の役に立ちそうにはありません。
ところが、そのとたん、フルートがはっとした顔になりました。口元に手を当て、じっと何かを考え始めます。
おっ、と仲間たちはフルートに注目しました。ついにリーダーが何かを思いついたのです。
フルートはしばらく考え込んでから、僧侶に尋ねました。
「シュイーゴの人たちはここに何人来ていますか?」
「わしを含めて八十二名です、勇者殿。わしはこの通りの歳ですが、ほとんどは若くて力がある連中です」
と僧侶は答えました。その後ろでシュイーゴの男たちが期待に目を輝かせています。
フルートはさらに考え、ひとりごとのように言いました。
「四人一組なら二十組、三人一組なら二十七組か。三人一組でいいな……。メール、君の花鳥では一度に何人くらい運べる?」
急に質問されて、メールはちょっととまどいました。
「え、シュイーゴの人たちを乗せろっていうのかい? そうだなぁ。今は森の中にも花がたくさん咲いてるから、一度に二十人くらいは運べると思うけど」
「よし、充分だ」
とフルートは言いましたが、何に対して充分なのか仲間たちにはわかりません。
「どうするつもり……?」
「まさか本気でセイロスの軍隊にこの人たちをぶつけるつもり? 無茶よ」
とポポロとルルが心配します。
フルートは顔を上げました。
「そんなことはしない。シュイーゴの人たちに協力してもらって、ランジュールとグル神をセイロス軍から引き離すんだよ。セイロスの動きは速いから、全員で協力しながら、できるだけ素早くやらなくちゃいけない。今から作戦を話す。みんな集まってくれ」
フルートに呼ばれて仲間たちは周りに集まりました。シュイーゴの住人もそれを取り囲んだので、何重もの人の輪ができあがります。
「作戦だゾ! 作戦だゾ!」
「フルートは今度はどんな作戦を思いついたんだヨ!?」
とゾとヨが猿の姿で騒いで、人々から驚かれたりもします。
「静かに」
とフルートは二匹をたしなめると、注目する人々を見回し、おもむろに作戦を話し始めました――。