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第23巻「猿神グルの戦い」

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47.思案

 「駄目だ。セイロスの野郎、基地を完全に完成させやがってる。軍隊ももう駐屯してるぞ」

 偵察から戻ってきたゼンが、仲間たちにそう報告しました。

「ワン、砦の中の様子は外からは見えなかったけど、中からたくさんの馬の鳴き声や人の気配が伝わってきました。騎馬隊が駐屯しているんだと思いますよ」

 と一緒に偵察に行ったポチも言います。

 ここはシュイーゴの町に近い森の中でした。フルートたちはセイロスの先回りをするために大急ぎで飛んで来たのですが、彼らが到着したときには石壁と柵に囲まれた砦が焼け跡の上にできあがっていたのです。

「私たちがシュイーゴに来たのは一昨日よ? あのときには焼け野原で何もなかったのに、なんでこんなに短時間で砦が作れるの?」

 とルルが不思議がると、フルートが答えました。

「きっとセイロスのしわざだ。魔法で砦を作り上げたんだよ。ゾとヨたちは森の中でセイロスと出会っているし、かなり積極的に動き回っているようだな」

 そのまま腕組みして考え込んでしまいます。

 セシルは心配顔になりました。

「セイロスは自分の軍勢を魔法で遠隔地に移動させることがある。この砦の軍隊もそうやって呼び集めたのだろうか? だとしたら、まだまだ大軍がここに集結することになるぞ」

 すると、ポポロが首を横に振りました。

「ううん、そうじゃないと思うわ……。セシルが言ってるのは二人の軍師の戦いのときのことよね? あのとき、セイロスは荒野に残っていた闇の灰を使って、軍隊を移動させるための出口を開いたの。でも、このあたりに闇の灰は降ってないわ。セイロスに闇の出口を開くことはできないはずよ」

「サータマンには疾風部隊っていうすごく速い騎馬隊がいるじゃないか。そいつらが駆けつけてきたんだよ、きっと」

 とメールが言いました。鋭い読みです。

 少年少女の一行が大人顔負けの話し合いをしているので、銀鼠と灰鼠の姉弟は久しぶりにあきれた顔をしています。

 

 ゼンはフルートを見ました。

「俺たちはセイロスの先回りに失敗しちまった。この感じだと、連中は間もなくミコンに攻撃を始めるぞ。これからどうする?」

「私たちはソルフ・トゥートの遺跡にランジュールとグル神を連れていかなくちゃいけないんでしょう? 進軍が始まっちゃったら、ランジュールだけおびき出すのは難しくなるわよ」

 とルルも言います。

 とたんに小猿の姿のゾとヨが飛び跳ね始めました。

「オレたちが砦の中を調べてきてもいいゾ!」

「そうだヨ! オレたちはゴブリンだから、どこにでも入っていけるヨ!」

「馬鹿言うんじゃないよ! そんなことしたらセイロスに捕まっちゃうじゃないのさ!」

 とメールが声を張り上げ、グーリーもピィィ、と鋭く鳴きました。やはり「とんでもない!」と言ったのです。

 しょんぼりしたゾとヨにフルートは言いました。

「ゼンが言う通り、敵はもうすぐあの砦を出発する。砦の中に偵察に行っても、あまり役に立たないんだよ。彼らがミコンに到達する前に、なんとかしてランジュールとグル神を軍隊から引き離さなくちゃいけないんだけれど――」

 フルートが再び考え込んでしまったので、仲間たちも黙りました。リーダーが作戦を思いつくのをじっと待ちます。

 

 すると、銀鼠が提案してきました。

「ミコンには四大魔法使いの青様がおいでよ。まずは青様と連絡を取って、敵の襲撃をミコンに知らせるべきだわ」

「敵はミコンまで山道を登っていくことになる。ミコンの魔法使いたちの協力を得て襲撃すれば、途中でグルを奪い返すこともできると思うぞ」

 と灰鼠も言います。

 ふむ、とセシルは感心しました。

「確かに、ここからミコンの都までは一本道だ。ミコンの魔法使いたちならば、途中に潜んで敵の進軍を阻止することが可能だな」

 ところが、ポポロがまた首を振りました。

「ランジュールが連れているのはグル神よ。グルの魔法は光の魔法使いには防げないから、進軍を阻止することはできないわ……」

「ワン、そのためにセイロスはグル神を奪ったんですよ」

 とポチも言います。

「でも、ミコンには本当に大勢の魔法使いがいるのよ! 青様だっているし!」

「全員が力を合わせれば、グルとセイロスを止めることも可能なはずだ!」

 と姉弟が言い張ったので、ゼンは渋い顔になりました。

「で、ものすごい魔法戦争をミコンでやらかそうってのか? 俺は魔法のことはわからねえけどよ、んなことしたらマジでやばいことが起きそうな気がするぞ」

「そうね。激しい戦いは闇を呼びやすいわ。このミコン山脈は光の領域だけど、血みどろの大戦争が起きたら、光にほころびが生じて闇が侵入するかもしれないわね」

 とルルも言ったので、他の者たちも考え込んでしまいます。

 フルートが何か思いつくことだけが頼りでしたが、フルートは腕組みしたまま、まだ考え続けていました。名案はなかなか浮かんでこないようです――。

 

 そのとき、急にグーリーがピィと声をあげました。

 ゾとヨも飛び上がって振り向きます。

「誰か来るゾ!」

「足音がたくさん聞こえるヨ!」

 大勢の足音!? と一同はいっせいに緊張しました。グーリーたちが見ているのは砦とは正反対の方角でしたが、敵の援軍がやって来たのかもしれない、と身構えます。

 すると、彼らにも足音が聞こえてきました。犬たちが耳をそばだて、空気の匂いをかいで言います。

「ワン、軍隊じゃないみたいだ。防具や武器の音がほとんどしないし、馬の匂いもしない」

「でも、まっすぐ近づいてくるわよ。こっちは銀鼠さんたちの魔法で姿が見えなくなってるのに」

 ポポロは足音のほうへ遠い目を向けて、とまどった顔になりました。

「何も見えないわ。あっちも姿を隠しているのよ……」

 一同はますます緊張すると、それぞれ武器を手に油断なく身構えました。足音はすぐ近くまで迫ってきます。何十人もの集団のようです。

 

 すると、がさがさと藪(やぶ)をかき分ける音がして、老人の声がしました。

「そこにおいでですね、勇者の皆様方!? わしたちです! 武器をしまってください!」

 フルートたちは驚きました。

「その声――!」

「シュイーゴの坊さんか!?」

 すると、藪の中から人々が姿を現しました。先頭は白髪頭に丸い帽子をかぶり、薄紫の衣に濃い紫のマントをはおったシュイーゴの僧侶。その後ろに大勢の男たちがぞろぞろと続きます。彼らはシュイーゴの隠れ里で出会った人たちでした。大人の男性ばかりで、女性や子どもはいません。

 彼らが肩に斧や農作業用の大鎌を担いでいたので、フルートたちは目を丸くしました。まるでこれからどこかに仕事に行くような格好です。

「皆さん、どうしたんですか、こんなところに?」

 とフルートが尋ねると、シュイーゴの僧侶は両手を合わせて一礼しました。

「ノワラのお告げがあったのですよ。悪しき者たちがシュイーゴに陣取ったから、勇者たちと協力して追い払うように、と。手伝いにまいりました、勇者殿。なんでもわしたちに命じてください」

 僧侶はそう言うと、顔のしわの中に目を消して笑いました――。

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