「そうか、ロムド城でそんなことが……」
セシルからここまでのいきさつを聞かされて、フルートはそう言いました。そのまま口元に手を当てて考え込んでしまいます。
彼らは話をするついでに軽い食事を取っていました。ゼンが全員に熱い黒茶を配りながら言います。
「ったく。ゾもヨもグーリーも軽率だぞ。サータマンにはセイロスがいるんだからよ、見つかってとっ捕まったら、ただじゃすまねえだろうが」
「ワン、でも、そのおかげでアリアンは少しだけサータマンを透視できたし、サータマンにセイロスがいるっていう証拠もつかめたんですよ。まったく無駄だったわけじゃないんだ」
と犬の姿に戻ったポチが言うと、セシルがうなずきました。
「オリバンはサータマンとセイロスがミコンを攻撃すると確信した。ワルラ将軍の部隊はすでにミコンに向けて出発していたんだが、追ってミコンへ出撃するように、ゴーラントス卿の部隊にも命じたんだ」
「いよいよミコンとサータマンの間で聖戦が始まっちゃうわけ? あたいたち、それは絶対阻止したいと思ってるんだけどなぁ」
とメールが心配そうに言うと、セシルが聞き返してきました。
「そのためにこんな場所にいたのか? シュイーゴには行かなかったのか?」
「行ったわよ。そこでグルの像が襲ってくるなんて事件があったものだから、原因を確かめにソルフ・トゥートって寺院の跡をめざしているところなの」
「セイロスはグル神を操ってるみたいなのよ。それを止めなくちゃいけないの……」
とルルとポポロが答えます。
セシルは、やれやれ、と頭を振りました。
「おまえたちがサータマンに深入りしているんじゃないか、というオリバンの予想は当たったな――。だが、そうなると、グーリーたちはおまえたちを見つけられなくなる。シュイーゴに行っても、おまえたちはそこにはいないわけだからな」
「妃殿下、シュイーゴはもう元の場所には存在しないのです。サータマン王の焼き討ちに遭って、すっかり焼けてしまいました。住人たちは無事なのですが、結界の中に避難しているので、普通の方法で彼らに出会うこともできません」
と銀鼠が話します。
すると、考え込んでいたフルートが口を開きました。
「今ここでグーリーやゾやヨを探しに行くことはできない。セイロスはグル神を操って何かしようと企んでいる。ミコンとの戦いと無関係じゃないだろう。一刻も早くソルフ・トゥートを見つけて、グル神がどうなっているか確かめなくちゃいけないんだ」
重い口調でした。
「だが、あいつらはどうするつもりだ? このままサータマンをうろうろさせておくってぇのか? 危険だろうが」
とゼンが非難するように言うと、フルートはいっそう真剣な顔になりました。
「ぼくたちと出会うほうが、もっと危険なんだよ。ゾやヨたちはきっとぼくたちについてきたがるだろう。でも、ぼくたちの行く先では、セイロスが待ち構えているかもしれないんだから」
あ、そうか……と仲間たちは納得しました。ゾやヨやグーリーがセイロスと出会ってしまったら、闇のものの彼らは間違いなく捕まってしまうでしょう。
「あいつらの運の強さに任せるしかねえのか」
とゼンは頭をかきむしり、メールは溜息をつきました。
「あたいたちが見つからなくて、ロムドに戻ってくれるといいんだけどなぁ」
ルルはセシルを見ました。
「セシルはどうするの? このままグーリーたちを探し続けるつもり?」
「いや、あてがないので、とりあえずおまえたちを探していたんだ。グーリーたちが来るかもしれないと思ったからな。私はおまえたちと同行しよう。もし本当に彼らが現れたら、邪魔にならないように私が面倒を見る」
「それがいいかもしれないわ。セイロスから離れれば、支配されなくなるはずだもの……」
とポポロが言います。
フルートは座っていた地面から立ち上がりました。
「そうとなったら、さっそく出発しよう! メール、君が花で作った風の犬にセシルを乗せられるな? 全員で遺跡まで飛んでいくぞ!」
おう! と一行も立ち上がりました。そばでうずくまっていた大狐は、弾けて五匹の小狐になると、セシルの腰の筒に戻っていきます。
「花たち、セシルはあたいの大切な友だちなんだよ。絶対落としたりしちゃダメだからね」
とメールは花でできた風の犬に言い聞かせました。その甲斐あってか、花の犬はセシルを乗せてふわりと空に舞い上がります。
フルートとポポロを乗せたポチ、ゼンとメールを乗せたルル、銀鼠と灰鼠の姉弟を乗せた絨毯も空に浮かびます。
「出発!」
というフルートの号令で、一行は再び飛び始めました。目的地は森の中に沈む大寺院の遺跡です。
西へ西へ。
三匹の風の犬と空飛ぶ絨毯は、ジャングルのような森の中をひたすら飛んで行きました――。