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第23巻「猿神グルの戦い」

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第12章 侵入

34.和解

 フルートとポポロが連れだって仲間の元へ戻ると、腕組みして立つゼンやメールの横で、銀鼠と灰鼠の姉弟が身をすくめるようにして座っていました。フルートの姿を見ると、いっそう肩をすぼめて小さくなります。

 ゼンがフルートへ言いました。

「こいつらにはしっかり言い聞かせておいたぞ。ったく、城で暇をもてあましてる貴族どもの噂を真に受けやがってよ」

「フルートにはポポロって恋人がいるってことも、ちゃぁんと教えといたからね」

 とメールも言ったので、フルートとポポロは思わず赤くなりました。特にフルートは、先ほど森の中でポポロからキスされたことを思い出して、耳まで真っ赤になってしまいます。

 けれども、ポポロのほうはフルートの腕にしがみついたまま、逆に前に出てきました。銀鼠たちに向かって言います。

「そうです、あたしがフルートの恋人なんです……! フルートは確かにすごく優しい顔をしてるし、性格もとても優しいけど、誰よりも男らしいんです! だから、あたしはフルートが大好きで……!」

 必死の表情でそんなことを話すポポロに、姉弟だけでなく、ゼンやメール、ポチやルルもあっけにとられてしまいました。普段の彼女からは想像もできない積極さです。

「ポ、ポポロ、もういいよ」

 フルートはあわてて止めましたが、ポポロは話しやめませんでした。恋人の腕をますます強く抱きしめながら言い続けます。

「フルートはこの姿のせいで、嫌な想いもいっぱいしてきました! だけど、だからこそフルートはすごく優しいんです! 人は思いもよらないことに傷つくんだってことを知ってるから……! あたしは彼の容姿も大好きです。だから、それをからかったり、変な噂の種にしたりしないでください!」

 そう言い切った次の瞬間、ポポロの目から大粒の涙がこぼれ落ちました。次々あふれ出して頬の上を伝っていきます。ここまで張り詰めてきた気持ちが解けて、涙が止まらなくなってしまったのです。

 声をあげて泣き出した彼女を、フルートはまた抱きしめました。髪に頬を押し当てて、ごめん、と言います。

「いつまでもつまらないことを気にしていてごめん……。もっと強くなるから。何を言われても動じないくらい、心の強い人間になっていくから……」

 それに対してポポロが何かを言ったようでしたが、声はくぐもってしまって、聞き取ることはできませんでした。

 

 すると、銀鼠が溜息をつきました。

「好きな人のためには必死なのね。なんだか心底うらやましいんだけど」

「だから姉さんも身の丈に合った彼氏を見つければいいんだよ。ユギル様なんかに憧れてないでさ」

 と弟の灰鼠が言ったので、銀鼠はかっと赤くなりました。

「なによ! 人の恋愛に口出さないでちょうだい! あたしより先に恋人を作ったからって威張っちゃって!」

 また口論が始まりそうになりますが、すぐに弟が身を引きました。

「よそう、姉さん。あんまり怒ると本当に幸せが逃げるかもしれないから。それより、ぼくたちはまだ言うべきことを言ってないよな」

「そうね」

 姉弟は神妙な表情に戻ると、居住まいを正してフルートとポポロへ頭を下げました。

「とんでもなく失礼なことを言ってしまって、本当に悪かったと思ってるわ。ごめんなさいね」

「目の前で彼氏を侮辱されて、気分が悪かっただろう? ごめんよ」

 思いがけなく謝罪をされて、フルートは驚きました。ポポロも思わず泣き顔を上げて振り向きます。

 へっ、とゼンが笑いました。

「そうそう、そうやって素直にすりゃいいんだよ。年上だろうがなんだろうが、今は俺たちは同じチームなんだからよ」

「生意気」

 と銀鼠は反射的に言い返し、すぐに苦笑いの顔になりました。肩をすくめて両手を広げます。

「そうね、あたしたちも、もうちょっと素直になるほうが良さそうね……。そのお嬢ちゃんほど素直になるのは難しいけど、もう少しは、ね」

「えぇ? 素直な姉さんなんて想像できないな。気持ち悪いよ」

 灰鼠が本気でそんなことを言ったので、なんですって!? と銀鼠がまた怒り、勇者の一行はつい笑ってしまいました。ゼン、メール、ポチ、ルル――フルートとポポロもつられて声をあげて笑っています。

 それに気がついて、銀鼠も、ふん、と笑い顔になりました。灰鼠は、やれやれという表情をします。

 

 夜更けの森の中。

 一行は和やかな気持ちに充たされて眠りにつき、様々なことがあった長い一日をようやく終わりにしました――。

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