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第23巻「猿神グルの戦い」

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第2章 役割分担

4.役割分担

 セイロスはサータマンに行ったんじゃないか、とフルートが唐突に言いだしたので、王の執務室に集まった人々は驚きました。

 キースが確かめるように言います。

「そういえば、以前セイロスはサータマン王と手を組むんじゃないか、って話し合ったことがあったな? それかい?」

 フルートはうなずきました。

「サータマン王はデビルドラゴンがまだ影の竜だった頃から、何度も協力してロムドを攻めてきた。今回また手を結んでも、全然不思議じゃない。それに、サータマンの東と西にはテトとメイの国があって、どちらも今はサータマンが攻め込むのには絶好の状況にある。それなのに、あえて一番攻めにくく見えるミコンに戦いを挑むのは不自然だ」

 テト国はデビルドラゴンに操られたグルール・ガウスのせいで、都を守るテト川が改修中、メイ国もセイロスに操られた出兵のせいで、国内の混乱がまだ収まってはいないのです、

 ワルラ将軍が言いました。

「敵が不自然な動きを見せたときには必ず陰に企みがある、というのが戦場での鉄則です。いくら宗教目的であっても、今このタイミングでサータマンがミコンに攻めていくのは、確かに不自然。サータマンには何か勝算と隠れた目的がある、ということになりますな」

 ふむ、とオリバンは腕組みしました。

「それがセイロスだ、とフルートは言うのだな。確かに怪しい。しかも、ミコンは我々の国とサータマンの間にあって、サータマンの勢力から我々を守ってくれている防壁だ。ミコンがサータマンの手に落ちれば、我々同盟軍は非常に厳しい状況になる」

「ミコンはサータマンになど敗れません! あそこは神の国に最も近い聖なる都なのです!」

 と白の魔法使いが思わず憤慨すると、深緑の魔法使いが鋭く目を光らせました。

「じゃが、セイロスならミコンも討ち破るかもしれん」

 たちまち執務室の中は沈黙になります。

 

 ロムド王が重々しく口を開きました。

「敵がサータマンだけ、あるいはセイロスだけであれば、ミコンも自力で都を守れるかもしれん。だが、両者が手を結んだとなれば、戦闘力は一気に何倍にもふくれあがるだろう。ミコンに危険が迫っている。同盟国の危機を見過ごすわけにはいかん。そうであろう、フルート?」

 急に王から名指しされてフルートがびっくりすると、オリバンが言いました。

「何を驚いている、フルート。おまえは光の同盟軍の総司令官なのだぞ。敵の陣営にセイロスがいるとなれば、おまえが作戦をたてて指示を出すのは当然のことだ」

 フルートは頭をかきました。

「すみません。ぼくはそっちとは別の方面の計画を立て始めていました。えぇと……まず、ミコンに危険が迫っていることを知らせてください。それから、実際にサータマンが軍隊を動かす気配を見せたら、ただちに援軍を送れるように、軍隊に出撃の準備をさせます。具体的な指示については、陛下にお任せします」

「では、青の魔法使いがミコンへ飛び、大司祭長にユギルの占いの結果を知らせたうえで、ミコンに留まってロムドとの連絡係を務めよ。ワルラ将軍はミコンへの援軍の編成と準備だ」

 とロムド王が命じたので、青の魔法使いとワルラ将軍は「御意」と頭を下げました。すぐに武僧が姿を消し、将軍も大股で執務室を出て行きます。

「さて、わしらも魔法軍団から出撃要員を選抜しなくちゃならんかの?」

 と深緑の魔法使いが言ったので、白の魔法使いはうなずきました。

「そうだな。今回は光の魔法を主体にした部隊を編成しよう。深緑は青に替わって青の部隊からもメンバーを選出しろ」

「光の魔法が得意な連中は、白と青の部隊に多からのう。どれ、さっそく取りかかるか」

 老魔法使いと女神官も共に執務室から消えていきました。残る四大魔法使いは、子どものような体に黒い肌と猫の瞳の、赤の魔法使いひとりだけになります。

 すると、ずっと黙っていたアリアンが、一歩前に出て言いました。

「陛下、私は鏡でサータマンの様子を探ってみようと思います。サータマンが出兵を企んでいるとしたら、国内に何かしらあわただしい動きが見られるはずですから」

 闇の娘の彼女は、鏡を使って非常に正確に離れた場所を透視することができるのです。

 それを聞いて、キースも言いました。

「じゃあ、ぼくは彼女の護衛役だ。セイロスに見つかったら、闇の一族のぼくたちはセイロスに操られてしまう。そうなる前につながりを断てるように、魔法で備えておくよ。大丈夫。もう闇の力に捕まるようなドジは踏まないから」

 キースは端正な顔でひょうきんにウィンクをして、アリアンと一緒に部屋を出ていきました。その腕はアリアンの肩に回されています。彼らは今はもう婚約者として公認の仲なのです。

 

 それを見送ってから、ゼンがフルートを小突きました。

「おい、俺たちは何をするんだよ? この前の戦いみたいに、ぎりぎりまで城で待ちぼうけなんてのは、もう御免だぞ」

 すると、メールも身を乗り出しました。

「そうさ! フルートは総司令官だからって言われて、ずいぶん待たされたもんね! あたいは待つのが大嫌いなんだ! 今度もあんなことしなくちゃいけないんなら、フルートだけが城に残りなよ!」

「そんな! ぼくにだけ留守番しろって言うのか!?」

 とフルートが反論したので、ゴーリスが渋い顔になりました。

「こら、総司令官が勝手にどこかへ行ってどうする。総司令官がいなくなるということは、全軍に命令を下す人間がいなくなるということなんだぞ。それでどうやって勝つつもりだ」

 彼の本名はゴーラントスですが、ゴーリスと名を変えて十年もの間、西部の田舎町で暮らしていたので、ことばづかいも態度も庶民のようにざっくばらんです。しかも、フルートの剣の師匠でもあるので、フルートに対してはいつも教え諭すような調子になります。

 すると、フルートは口を尖らせて言い返しました。

「それならいい方法があるさ。総司令官の権限で総指揮官を指名すればいいんだ」

「総指揮官……?」

「総司令官と何が違うの?」

 とポポロとルルが聞き返すと、ポチが説明しました。

「ワン、そのあたりの名称は国によって違うんだけど、ロムドにおいての総指揮官っていうのは、総司令官の代理をする人なんです。たとえば、ワルラ将軍はロムド軍の総司令官だけど、ワルラ将軍が何かの事情で命令が下せないときには、別の人に総司令官の任務を任せることができます。それが総指揮官なんです」

 へぇ……と仲間たちは感心して、すぐに聞き返しました。

「それで、誰を総指揮官にするの?」

「ロムド王か?」

「陛下は城から離れるわけにいかないよ。総指揮官はオリバンだ。その補佐官にはセシルになってもらう」

 とフルートが答えたので、オリバンは驚いて怒り出しました。

「馬鹿者! 何故、私がおまえの代わりに総指揮官にならなくてはならんのだ!?」

「わ、私もだ! 私はメイ人だぞ!? メイはついこの間まで同盟に反発していたのだから、同盟軍の総指揮官補佐を務められるような立場ではない!」

 とセシルも言いましたが、こちらはかなりうろたえています。

 フルートは鋭く答えました。

「だって、オリバンだってそんなふうに考えたじゃないか。以前、第二師団や第五師団と五人抜きをしたときに、オリバンとぼくで戦って勝ったほうが総司令官になるって話をした。あのときにはぼくが勝って総司令官になったけれど、ぼくが負けていたら、オリバンは総司令官の権限でぼくを総指揮官に任命するつもりでいたんだろう? セシルから聞いたよ」

「セシル!」

 オリバンは今度は婚約者をどなりつけ、彼女のほうは首をすくめました。

「だ、だって……まさか、こんなふうに仕返しされるとは……」

 

 フルートは言い続けました。

「セシルだって、将来はロムド王妃になる人間だ。オリバンを補佐して全然不思議はない。だから、オリバンがぼくの代理の総指揮官、セシルは総指揮官補佐だ。これでぼくたちは自由に動ける」

 ひゃっほう!! と勇者の一行は歓声を上げました。自分たちの好きなように行動できるというので、互いに手をたたき合って喜びます。

 オリバンのほうは、司令官の役目を押しつけられて、真っ赤になって怒っていました。

「馬鹿者! そんな命令が聞けると思うのか!? 断じて承知せんぞ!」

 フルートはまた言い返しました。

「命令には従ってもらうよ。なにしろ、ぼくは六人の王たちから選ばれた総司令官だからな」

 ここぞとばかりに権威を振りかざされて、オリバンは絶句しました。セシルも何も言えなくなってしまいます。フルートが言う通り、総司令官の命令は絶対で、逆らうことはできなかったのです。

 すると、トウガリが痩せた脚を折り曲げて膝をつき、おどけた様子でフルートへ腕を伸ばしました。

「この勝負は勇者殿の勝利とあいなりました! この瞬間から、同盟軍の全指揮権は総指揮官のオリバン殿下のものぉ! ――で、おまえらは単独行動で何をしようっていうんだ?」

 道化の声からぶっきらぼうな間者の声へ、一瞬で声音を変えて、トウガリが尋ねました。

 仲間やロムド王たちも、フルートに注目します。

 すると、フルートは真剣な顔になりました。ひと言ひと言確かめるように、こう言います。

「サータマンです。サータマンがどんな様子になっているのか、直接行って、確かめてきます」

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