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第22巻「二人の軍師の戦い」

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第33章 ガタン攻防戦・4

97.攻撃

 「とうとう決着の時が来たようだな、フルート」

 とセイロスはオリバンたちに向かって言いました。勇者の一行に化けている彼らを、本物と思っているのです。

 フルートの姿になったオリバンは、剣を構えて言い返しました。

「ここガタンはロムド国の街! 他の街や村もすべてロムド国王十四世によって統治されている領地だ! おまえたちが我がものにできるような場所ではない! ただちに立ち去れ!」

 ふん、とセイロスは鼻で笑いました。

「要の国であったところを勝手に占領した盗人が、偉そうに何を言う。ここは私の国、ガタンは私の街だ。ただちに返してもらおう!」

 話が終わらないうちに黒い魔弾が飛びました。崩れた外壁の前に立つオリバンたちを直撃しますが、白金の壁が広がってそれを防ぎます。

 ふん、とセイロスはまた言いました。

「聖守護石が守っているか。だが、以前より威力が弱いようだな」

 すると、杖を低く構えていた白の魔法使いが、オリバンたちに、そっと言いました。

「守備は私が。金の石にはかなわないかもしれませんが、できるだけ金の石の守りに似せてみます――」

 そこへまた魔弾が飛んできたので、光の障壁でさえぎります。

 

「ロ!」

 と赤の魔法使いが杖をかざすと、赤い稲妻が生まれました。セイロスには防げないムヴアの術ですが、命中する前にセイロスは馬ごと消えました。次の瞬間、もっと右手の場所に現れて笑います。

「攻撃がのろいぞ、ムヴアの魔法使い! 貴様の攻撃など遅すぎて蝿(はえ)が留まるわ!」

 赤の魔法使いは猫の目を光らせてまた魔法を撃ち出しましたが、それもかわされてしまいました。セイロスは今度は正面左手に姿を現します。

「ウォォ!」

 とゼンに化けた雪男も矢を撃ち始めました。こちらはチャストを狙ったのですが、とっさに軍師が飛びのいたので、その後ろの馬に命中していきました。たちまち数頭の馬が凍りついて倒れます。

 チャストは眉をひそめました。

「相変わらず妙な魔法の矢だな。どこかで氷の魔法を新たに組み込んだのか?」

 そこへまた矢が飛んできたので、馬を走らせてかわします。

 すると、部隊長のひとりが叫びました。

「軍師殿、お下がりください! 狙われています!」

 軍師を守ろうと数十人の兵士がいっせいに駆け出しますが、それが逆にチャストの動きを邪魔しました。馬と共に二の足を踏んだ軍師へ氷の矢が飛びます。

 ごぅっ!

 いきなり突風のような音が響いて、チャストの頭上に炎の渦が広がりました。氷の矢を呑み込んで消えてしまいます。

 炎の魔法でチャストを守ったのはセイロスでした。魔法でチャストの隣に現れると、冷ややかに言います。

「軍師が前線から下がることは許さん。おまえはこのために召し上げられたのだ」

 まるで主君のようなその言い方に、チャストは一瞬むっとしましたが、すぐに冷静に答えました。

「無論、下がるつもりなどありません。それより、勇者たち以外の場所を狙って攻撃してください。ポポロという娘に魔法を使いきらせるのです」

 セイロスは、ほう、と表情を変えました。

「連中にまず切り札を切らせようというのか。なるほどな」

 そこへギーが駆けつけてきましたが、彼にはセイロスと軍師の会話の意味がわかりませんでした。きょとんとした顔をしています。

 

「奴と軍師が話している。何かしかけてくるぞ」

 水路の向こうの様子を見ながら、オリバンが言いました。

「花の精霊を送り込んでみましょうか? 何を話しているかわかるかもしれません」

 と精霊使いの娘が答えますが、白の魔法使いは首を振りました。

「勇者殿の不在が知れたら、奴は一気に攻撃してくるだろう。こちらの正体がばれるような行動は厳禁だ」

 赤いお下げ髪に緑の宝石の瞳、星をちりばめた黒い長衣――姿形はポポロでも、口調はあまりにも凜々しい女神官です。

 その時、なんの前触れもなく、セイロスから魔弾が飛びました。彼は呪文や動作なしでも強力な魔法が発動できるのです。どぉん、と大きな音と煙を上げて破裂したのは、彼らがいる場所よりもっと北寄りの街壁でした。地面と壁が揺れ、細かい破片が飛んできます。

「門の向こう側を破壊されたぞ!」

 とオリバンがどなりました。風が砂埃を運び去り、門の北側の壁に大穴が現れたのです。

「魔法軍団、ふさげ!」

 と白の魔法使いは叫びました。彼女自身は、ここにいる一行を守っているので、動くことができません。

 すぐに北側の穴も光の魔法でふさがれましたが、その時には次の魔弾が飛んでいました。今度は門の上の櫓に当たって、屋根や壁が吹き飛びます。

「ギンネズ、ハイネズ!」

 と赤の魔法使いが叫びました。

「薄紅、大丈夫か!?」

 と白の魔法使いも部下を呼びます。

 すると、半分だけ残った櫓の上に、元祖グル教の姉弟と薄紅の長衣の美女が顔を出しました。

「我々は無事です、隊長!」

「でも、あたしの魔力ではとてもかないません! どういたしましょう……!?」

 美女は泣き声になっていました。彼女も光の魔法使いですが、セイロスの闇攻撃が強力すぎて、とても防ぎきれなかったのです。

「早く下がれ!」

 と女神官が言ったところへ、また魔弾が飛んできました。今度は櫓のど真ん中を直撃です。櫓の上の魔法使いたちは逃げる暇がありません。

「せぃっ!」

 女神官は杖を高く振りかざしました。白い障壁が広がり、魔弾を受け止めて砕きます。

 その間にグル教の姉弟と美女は櫓から消えました。門の内側へ避難したのです――。

 

「ポポロが魔法を使いました。残る魔法はあとひとつです」

 とチャストがセイロスへ言いました。

 セイロスはうなずきましたが、そこへ赤い稲妻が飛んできたので、とっさにかわして敵をにらみました。

「ムヴアの魔法使いめ。何度私に逆らうつもりだ。まず貴様から片付けてやろう」

 と特大の魔弾を黒い槍の形に変えます。

 赤の魔法使いは飛びのこうとして、ぎょっとしたように足元を見ました。赤い長衣の裾が地面の影から離れなくなっていたのです。

 セイロスが、にやりとしました。

「影縫いの魔法だ。もう逃げられんぞ。あの世へいけ!」

 闇の槍が赤の魔法使いへ飛びました。ムヴアの魔法使いは動けません。

「赤!」

 白の魔法使いが杖を掲げました。再び白い障壁が現われて広がります。

 闇の槍は障壁に激突して砕けました。同時に障壁も壊れ、爆風となって周囲に広がります。

 風が吹きすぎると、チャストは顔を上げました。水路の向こうを指さして言います。

「これで二度目! ポポロは魔法を使いきりましたぞ!」

「そのようだな」

 とセイロスは答え、いきなり馬の上から姿を消しました。次の瞬間、水路の向こう側にいる勇者の一行の前に現れます。

 仰天する勇者たちへ、セイロスは言いました。

「何をそんなに驚く。こんな水路が私の侵入を阻めるとでも思っていたのか?」

「おのれ――世界を破壊しようとする悪竜め! 私が相手をしてやる!」

 とオリバンが剣を構えました。そのすぐ後ろに白の魔法使いと精霊使いの娘が立ち、雪男が氷の矢をつがえます。赤の魔法使いは地面に手を当てて影縫いの魔法を解除してから、跳ね起きて身構えました。

「一対五か。それも面白いだろう」

 とセイロスが言ったときです。

 街のずっと北の方から、わぁぁぁ、と叫び声が聞こえてきました。大勢が鬨(とき)の声をあげたのです。西の門の前にいる人々には何が起きたのかわかりませんでしたが、チャストが気づいて叫びました。

「北の水路に橋がかかったのだ! 街へ侵入できるぞ! 行け!」

 北側の荒野で組み立てられていた橋が、ついに水路の上に渡されたのでした。

 軍師のことばに、メイ軍がいっせいに動き出しました――。

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