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第22巻「二人の軍師の戦い」

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96.西の門

 ガタンの街壁の内側では、西の門が見える場所にオリバンと白の魔法使いと精霊使いの娘の三人が集まっていました。

 彼らは今もまだフルートとポポロとメールの姿でした。ゼンになった雪男だけは、赤の魔法使いと一緒に南側の壁の上で警戒に当たっています。

 ひっきりなしに魔弾がぶつかり、激しく門を揺すぶる様子に、オリバンは言いました。

「攻撃がまったく衰えん。とんでもない魔法使いだな、奴は」

「セイロスの力の源は、この世界に存在する闇の想いです。いくら使っても底をつくことがないのかもしれません。さすがの魔法軍団もいささか疲れてきたようです。それに……」

 と白の魔法使いは心配そうに門のほうを眺めました。そこでは三十人近い魔法軍団が光の魔法で門と周囲の壁を守っていたのです。外から魔弾が激突するたびに、魔法使いたちは衝撃をくらって顔を歪めています。

 精霊使いの娘がやきもきしながら言いました。

「街の北側では橋ができあがった、と花の精が言っています。今度のはかなりしっかりした橋のようだし、北側の水路を守っているのは青緑ひとりだけです。あたしが応援に回ってはいけませんか?」

「だめだ!」

「ならん!」

 と白の魔法使いとオリバンは同時に言い、女神官が先に続けました。

「どういうわけか、先ほどから急に奴の攻撃が強まっている。水路に橋がかかって敵が乗り込んでくる前に、ここが破られる可能性のほうが高いのだ。我々はここから動くわけにはいかない」

「北と南の壁の上には正規兵が守備に回った。彼らに任せろ」

 とオリバンも言います。

 

 また、どぉん、と魔弾が門に炸裂しました。とたんに門が一瞬押し開けられ、隙間から外の景色がのぞきます。何万という兵士を率いた紫の戦士が、馬にまたがり、こちらへ手を伸ばしています――。

「ふさげ!」

「負けるな!」

 内側に立つ魔法使いたちがいっせいに魔法をくり出しました。門を押し戻して、光の魔法で内張りします。が、次の瞬間、また強烈な爆発が起きて、さっきよりもっと大きく門が開きました。

「はっ!」

 白の魔法使いは杖を掲げました。とたんに、ばん、と門が勢いよく閉じ、その後の爆発にもびくともしなくなります。

「さすがは白さ――いえ、ポポロ様」

 と精霊使いの娘が言ったので、女神官が訂正しました。

「ポポロ、だ。勇者殿たちは互いに『様』はつけない」

「それを言うならば、ポポロもフルートを勇者殿などと言ったりはしないぞ。だが、今はそれどころではないな。奴の攻撃がいっそう強力になっているのが、私にもわかった。奴の魔力が強くなっているのか?」

 とオリバンが言いました。その手は無意識のうちに腰の剣を探っていますが、そこに武器はありませんでした。オリバンは今、フルートになっているので、剣は二本とも後ろに背負っていたのです。黒い炎の剣と銀のノーマルソードに見えていますが、その正体はオリバンが普段から愛用している大剣と聖なる剣でした。

 そこへまた魔弾が激突しました。どぉぉん。地響きがして数人の魔法使いがいっせいに吹き飛ばされます。彼らの守備魔法が力負けしてしまったのです。

「立て! 守備の手を緩めるな!」

 と白の魔法使いは彼らの間を走って言いました。門のすぐ前に立って、また杖をかざします。

「光の主神、ユリスナイよ! ここは正義の街! 闇の敵の侵入を禁じたまえ!」

 声と共に杖を横に向けると、光の棒が生まれ、飛んで行って門の内側に取りつきました。光の魔法で門にかんぬきをかけたのです。外では魔弾の攻撃が続いていますが、門はどっしりと動かなくなります。

 

「大丈夫か?」

 とオリバンは白の魔法使いに尋ねました。小柄なポポロの姿の彼女が、息を弾ませ、驚くほど大量の汗をかいていたからです。強力な魔法は女神官の体にも大きな負担をかけたのに違いありません。

「部下たちが――私の魔法に自分の魔法を重ね始めました。これで当分は持ちこたえるはずです。ただ、この場所は非常に危険になってきました。殿下――フルートは街中にお下がりください。ここは私と魔法軍団で――」

 ところが、その時また街の外で激しい爆発が起きました。今度は門ではなく、そのすぐ南側の石壁が激しく揺れ、次の瞬間こっぱみじんに砕けます。魔弾が門ではなく壁を直撃したのです。石が飛び散り、猛烈な土煙がわき起こります。

「隊長!」

「殿下、ご無事ですか!?」

 魔法軍団があわてふためく中、強い風が吹いて土煙を運び去りました。後には逆三角形の穴が空いた石壁と、その向こうに広がる荒野の景色が現れます。セイロスの魔弾が、ついに街の壁を崩してしまったのです。あたり一面に石や岩が飛び散っています。

 けれども、オリバンや精霊使いの娘は、白の魔法使いが張る光の障壁に守られて無事でいました。娘が壁の穴を指さして言います。

「敵がこちらへ突撃してきます!」

 馬にまたがったセイロスが、メイ軍を率いて突撃を始めていたのです。たちまち蹄の音が迫ってきます。

「連中は水路を越えるつもりだ!」

 とオリバンは叫びました。水路が壁のすぐ際を流れていたために、敵はこれまで水路を飛び越せなかったのですが、壁が崩れたので、そこから街の中に飛び込もうとしているのです。

「そうはさせない!」

 と白の魔法使いは杖を握って駆け出しました。崩れた壁を飛び越えて街の外に出ていきます。ところが、オリバンと精霊使いの娘も一緒に飛び出して来たので、女神官は驚きました。

「だめです! あなた方は中に――」

 とたんにオリバンがどなりました。

「私はフルートだ! ここで中に隠れているわけにはいかん! 魔法軍団、壁の穴をふさげ! 連中を中に入れるな!」

 どんな姿をしていても、オリバンの命令には絶対的な力がありました。魔法軍団は三人が外に出たのであわてていましたが、命令を受けて、ただちに壁を魔法でふさぎました。敵は中へ飛び込むことができなくなりますが、同時にオリバンたち三人も街へ戻ることができなくなってしまいます。

 

「無茶です、で――フルート!」

 魔法で街に送り返そうとする女神官を、オリバンは片手で止め、もう一方の手で剣を引き抜きました。銀に光るロングソードに見えますが、正体は闇を切り裂く聖なる剣です。

「今は私がこの戦場の総司令官だ。私の命令に従え――。この状況でポポロだけが出てフルートが出てこなければ、敵に怪しまれる。我々は金の石の勇者の一行だ。それらしくふるまえ」

「わかりました」

 と答えたのは、女神官ではなく精霊使いの娘でした。両手を掲げて呼びかけると、花びらの羽を持つ花の精霊たちが集まってきます。

 そこへさらに二人の人物が姿を現しました。ゼンの姿の雪男と赤の魔法使いです。音と騒ぎでこちらの状況を知って、南の壁の上から飛んできたのでした。

「コ、レラ、ル!」

 と赤の魔法使いが猫の瞳を光らせて言います。ここは我々で守ろう、と言っているのです。

 ウー、と雪男がうなずきます。

 敵は、外壁の穴をふさがれてしまったので、突撃をやめていました。無理に飛び越せば、壁や障壁に激突してしまうからです。

 紫水晶の防具を着たセイロスが、二本角の兜をかぶったギーをかたわらに置き、一万数千のメイ兵を従えて立っていました。後方からは軍師のチャストも馬で駆けてきます。

「とうとう決着の時が来たようだな、フルート」

 水路をはさんでオリバンたちと向き合いながら、セイロスはそう言いました――。

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