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第22巻「二人の軍師の戦い」

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第29章 朝日

85.看病

 メイ女王を連れてメイ城を飛び立ったフルートたちは、王都ジュカを飛び出し、東の郊外にある森に下りました。女王はすっかり弱っていたので、それ以上遠くへ飛べなかったのです。

 幸い、夜更けの森に来るような人はいなかったので、一行はすぐに女王の手当にかかりました。

 メールが森の木々に呼びかけて大量の木の葉を集め、フルートがその上に女王を寝かせます。

「まず女王に何か飲ませてやれよ。その唇の様子だと、水もろくに飲んできてねえ感じだぞ」

 とゼンが言ったので、ポポロは急いで自分の水筒を取り出しました。

「少しずつだぞ。長いこと飲み食いしねえでいた後は、体が水や食い物を受け付けられなくなってるからな」

 とゼンがまた注意しました。ゼン自身は木の枝を集め、火をおこして料理を始めています。作っているのは具がほとんど入らない、薄い粥(かゆ)のようなスープです。

 鍋の横でそれを眺めながら、ポチが尻尾を振りました。

「ワン、ぼくが黒い霧の中で迷子になって飢え死にしそうになったときにも、ゼンはこんなスープを作ってくれましたよね。あれ、体中にしみこむような気がして、おいしかったっけなぁ」

「ああ、俺たちが初めて会ったときだな。おまえは何日も食ってなかったし、まだ本当にチビだったから、えらく気をつかったんだぞ」

 ゼンはそんな話をしながら、てきぱきと料理を作っていきます。

 

 一方、ポポロはメイ女王に慎重に水を飲ませていました。口元からあふれた水は、メールが拭いてやります。

 やがて、女王は深い息をしました。

「もう良い……おかげで気分がようなってきた」

「よかった」

 フルートたちは、ほっとしました。女王は、空腹もさることながら、脱水症状で危険な状態になっていたのです。

 ルルが女王の体に鼻面を押しつけて言いました。

「体が冷えてるわね。暖めなくちゃ。ポチ、こっちに来て。一緒に女王を暖めましょう」

「ワン、わかった」

 二匹の犬が木の葉のベッドに潜り込んで女王に身を寄せ、体温で女王を暖め始めます。

 かいがいしく看病をする勇者の一行に、メイ女王は苦笑を浮かべました。

「まったく……そなたたちは不思議じゃな。わらわなど死ぬのが当然、と見捨てるのが普通であろうに」

「しょうがないさ。フルートが絶対にそんなことをさせないんだから」

 とメールが肩をすくめると、ルルも女王の脇に頭を出して言いました。

「あなたはフルートにとんでもないことを言ったから、私たちも頭にきていたんだけど、フルートがそんな人間じゃないってわかってくれたから、もういいのよ。それより、早く元気になってちょうだい。一刻も早くガタンまで飛んで、セイロスやメイ軍を止めなくちゃいけないんだから」

 怒りん坊でも、根は気が良くて優しいルルです。

「わかった」

 と女王も素直に答えます。

 

 やがてスープができあがったので、ポポロはまた女王にひと匙ずつ慎重に食べさせてやりました。

 フルートはそれをしばらく見守ってから、ゼンを誘ってその場から離れました。

「食事がすんだら、メイ女王を連れてすぐにまた出発できるかな? どう思う?」

 ゼンは腕組みして首をかしげました。

「やめといたほうがいいな。だいぶ元気になったように見せてるが、ありゃかなりまいってるぞ。少なくとも、朝になるまでは休ませたほうがいい」

「やっぱりか……」

 とフルートはメイ女王を振り向きました。彼女に聞こえる場所でこの話をすれば、きっと、すぐに出発する、と言い張るだろうと思ったので、声が聞こえない場所まで離れたのです。ガタンの戦況はとても気になりますが、無理はできない状況でした。

 フルートとゼンがもう少し話をしてから戻っていくと、メイ女王は食べるのをやめて、眠ってしまっていました。

「食べてるうちに眠っちゃったんだよ」

「でも、スープはずいぶん食べてくれたわ。これで元気になると思うんだけど……」

 メールとポポロが口々に言うと、犬たちがまた木の葉から顔を出して言いました。

「体が温かくなってきたから、もう大丈夫だと思うわよ。このまま朝まで寝かせてあげましょう」

「ワン、セイロスたちも朝までは動き出さないはずだから、きっと間に合いますよ」

「そうだね」

 とフルートは答えました。女王は、すやすやと規則正しい寝息をたてています。

 

 ところが、空が白み出す頃になって、雨が降り出しました。

 ゼンが急いで木の枝に防水布の屋根を張り渡したので、女王やフルートたちが雨に濡れることはありませんでしたが、犬たちが変身できなくなってしまいました。ロムドまで飛んで行くことができません。

「あたいが花鳥でみんなを運ぼうか? 花鳥なら雨は平気だよ」

 とメールが言いましたが、フルートとゼンは顔を見合わせました。

「花鳥の背中だと雨に当たるよな?」

「ああ。けっこうな速度で飛ぶから、いくら防水布でおおっても濡れちまう。風もあるから、俺たちは平気でも女王は持たねえだろう」

 メイ女王はまだ木の葉にくるまれて、ぐっすり眠っていました。雨が降り出し、近くでフルートたちが話し合っていても、目を覚ます気配はありません。

 次第に強くなってくる雨脚を眺めながら、フルートたちは困惑していました――。

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