「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第22巻「二人の軍師の戦い」

前のページ

第27章 新月

79.戦線離脱

 この戦いをやめさせるためにメイへ飛ぶ、とフルートが言ったので、一同は驚きました。

「メイへ!? 何故だ!?」

 とオリバンが聞き返します。

 フルートは静かな口調で答えました。

「メイ軍に撤退命令を出してもらうためだ。彼らは確かにセイロスとチャストの指揮に従っているけど、メイ国の旗印も掲げている。つまり、メイ女王の命令に従って戦っているってことだ。メイ女王が戦争をやめるように言ってくれれば、彼らだって退却するはずなんだよ」

 それを聞いて、一同はますますとまどいました。

「ワン、そう言っても、メイ女王はもう――」

「そうよ。メイ女王は生きてないと思うって言ったのは、フルートでしょう?」

「あたいがハロルド王子をロムド城に送ったときに、ユギルさんもハロルド王子がメイ国王になったって占っていたんだよ」

 ポチとルルとメールが口々に言うと、フルートはうなずきました。

「それはわかってる。だけど、メイ軍の兵士たちはその事実を知らないんだよ。セイロスやチャストが極秘にして、兵士たちに知られないようにしているんだろう。だから、メイへ飛んで、女王が亡くなっていることを確かめたいんだ。確認ができたら、すぐにロムド城へ飛ぶ。ハロルド王子――いや、ハロルド王をここに連れてきて、メイ軍に撤退命令を出してもらうんだ」

 なるほど、と一同は納得しました。メイ軍がセイロスたちにだまされてここに連れてこられているのであれば、それが一番よい方法に思えます。

 

 オリバンは組んでいた腕をほどきました。

「そういうことならば、後は我々に任せろ。おまえたちがハロルドを連れて戻るか、ゴーラントス卿の率いる援軍が到着するか、どちらが先になるかわからんが、それまでガタンは我々が守り抜いてやる」

「お願いします。それから、敵には、ぼくたちがガタンにいるように見せかけてください。敵が攻めてきたのにぼくたちが出て行かなければ、セイロスやチャストは、ぼくたちが何か企んでると考えて、急いでガタンをたたこうとするでしょう。そうやって、敵をガタンに引きつけておくんです」

「それでは、勇者たちの替え玉の準備は、私たちがお引き受けいたしましょう。もちろん、ガタンの守備にも全力を尽くします」

 と女神官が答えると、その後ろで部下の魔法使いたちが相談を始めました。

「セイロスはとにかく強力な闇魔法をくり出してくるから、あたしたち光の魔法使いは防御専門になりそうね。愛の女神セリヌ様、お守りくださいませ」

「俺たち赤の部隊は攻撃専門かな。セイロスは俺たちの魔法は防げないわけだし」

「でも、あいつに場を支配させると、あたしたちの魔法も使えなくなるわよ。なんとかしないと」

「私、妖精の結界を張るわ。あんまり強力じゃないけど、闇魔法では破れないし、ガタンには水堀と塀もあるから、何とかなると思うわよ」

「ウー?」

「んだな。赤錆の言う通り、セイロス軍には幽霊もいっがら、紫も呼ばるべ」

「紫はまだロムド城にいるのだな? では、私が連れてこよう。メイ軍の負傷者を手当てするのに、薬草が足りなくなるだろうから、一度城に戻らなくてはならなかったんだ」

 魔法使いたちは、赤の部隊、白の部隊の区別なく話し合い、医者の神ソエトコの象徴を下げた男が姿を消していきました。ロムド城へ飛んだのです。他の魔法使いたちも、それぞれに自分が大事だと思う場所へ飛んでいきます。中には負傷したメイ兵の救助に暗い荒野へ行った魔法使いもいます。

 後にはフルートたちと、オリバンと白と赤の魔法使いだけが残ります。

 

「それじゃ、行きます」

 とフルートは短く言い、ポチとルルが風の犬に変身しました。夜の荒野に風が吹き渡っていきます。

「気をつけて行け」

「ユリスナイ様の守護が皆様と共にありますように」

 オリバンと白の魔法使いが言うと、赤の魔法使いが空中から何かを取り出して投げてきました。

「ウデ、ロ」

 おっと、とゼンはとっさに受け取り、それが食料のいっぱい詰まった袋だと気がついて、にやりとしました。

「さすが赤さん、わかってるぜ」

「そういえば、あたしたち、戦いが始まってから何も食べてなかったわね……」

 ぐぅ、と仲間たちの腹がいっせいに鳴ります。

 フルートは思わず笑いました。

「できるだけ早くここに戻ってきたいんだ。食事はメイに向かいながら食べることにしよう。行くぞ!」

「おう!」

 仲間たちはいっせいに答えると、犬たちに飛び乗りました。今回もフルートとポポロがポチの上、ゼンとメールがルルの上、という組み合わせです。

 風の音を残して一行が飛び立ち、暗い夜空に見えなくなると、オリバンは白と赤の魔法使いを振り向きました。

「さあ、我々も籠城の準備だ。ガタンの水堀を完成させよう」

「承知しました、殿下」

 と女神官は杖を掲げると、とたんに彼らの姿は見えなくなりました。魔法使いたちが乗ってきた馬たちも、後を追うように消えていきます。彼らは魔法でガタンの街へ向かったのです。

 その夜は新月でした。月のない空には星がまたたき、幻のかがり火の下では、ポポロの魔法から生まれたロムド軍が、音もなく野営の準備を進めていました――。

 

 

 ごうごうと風が鳴る夜空を、フルートたちは飛んで行きました。

 めざしているのは、メイがある南西です。フルートやメールには暗くて見えませんが、西の街道がたちまち遠ざかっていきます。

 すると、ポポロが急に振り向いて指さしました。

「見て! あそこに灯りが固まってるわ」

 真っ暗な地上に、たくさんの小さな光が寄り集まっていたのです。ゼンもそちらへ目をこらしました。

「間違いねえ、セイロス軍だ。あんなところで野営してやがる」

「戦場からあんまり離れなかったみたいだね。馬で一時間くらいの距離かな」

 とメールが言うと、フルートが答えました。

「日が暮れて暗くなったから、遠くまで退却することができなかったんだろう。夜明けと同時にガタン襲撃を開始するつもりでいるのかもしれない。それまでには、ガタンでも準備が整うと思うんだけれど――」

 フルートが気がかりそうにガタンの方角を見たので、ゼンはその背中を思い切りたたきました。

「あっちにはオリバンと魔法軍団がいるんだ。任せるって決めたんだから、任せておこうぜ。それより飯だ! 俺はもう本当に腹ぺこだ!」

「あっ、賛成! 赤さんは何を持たせてくれたのさ!?」

「えぇと……パンとあぶりベーコンだな。それに、酢漬けのタマネギと水出しの黒茶だ。ベーコンはまだ暖かいぞ」

「ポチとルルの分は取っておいてあげるわね」

「ワン、お願いします!」

「飛んでる間は食べられないんだもの、ちゃんと残しておいてよ!」

 空の上がたちまち賑やかになります。

 フルートも笑顔になりました。

「そうだな。まずは食え、だもんな。食べながら、メイに着いてからのことを相談することにしよう」

「そう来ねえとな! そら、フルートとポポロの分だ」

「ありがとう……!」

「あたいたちの分はどこさ、ゼン!?」

「こっちだ。パンに切れ目が入ってるから、好きなだけベーコンとタマネギを挟め!」

 賑やかさにいっそう拍車がかかりますが、その頃にはセイロス軍の灯りも後方に遠ざかって見えなくなっていたので、声を聞きつけられる心配はありませんでした。一行は安心して空の上の食事を始めます――。

 

 その間も南西へ飛びながら、ポチが言いました。

「ワン、セイロスたちはどうやってメイ女王の死を隠したんでしょうね? 女王がいなくなったら、すぐわかるはずなのに」

「それこそ替え玉でも出したんじゃないの? 魔法で」

 とルルが言ったので、フルートは胸当ての下からペンダントを引き出しました。

「それなら金の石で見破れるはずだよ。セイロスの魔法は闇魔法だからな」

 すると、一行の右脇の空間に淡い光が湧き起こって、黄金の髪と瞳の少年が姿を現しました。風の犬と同じ速度で飛びながら言います。

「もちろん、そういうことならば、ぼくの力ですぐ正体を暴くことができる。ただ、奴がメイの魔法使いに命じて替え玉を作らせていたら、見破るのは難しいだろう」

「その時には、私が正体を暴いてやる」

 と言ったのは、赤い髪とドレスの女性でした。いつの間にか姿を現して、一行の左脇を飛んでいます。

「金の石の精霊! 願い石の精霊!」

「なんか、すっごく久しぶりな気がするね! どうしてずっと出てこなかったのさ?」

「君たちはいつも誰かと一緒にいたんだ。当然だろう」

 と少年がそっけなく答えると、女性も冷静に言いました。

「ずいぶん長い間することもなかったから、すっかり退屈してしまった。暇つぶしに少しおまえたちの手伝いをしてやろう」

「いつものように、契約違反ぎりぎりだな」

 金の石の精霊が皮肉っぽく言うと、願い石の精霊は冷ややかに切り返しました。

「小さなそなたでは力が及ばないと言うから、私が手伝ってやろうと言っているまでだ」

「ぼくは力が及ばないわけじゃない! 聖なる守りの石が光の魔法を打ち消せないのは、当然の理(ことわり)だ!」

「そなたにできないことに違いはあるまい」

 精霊たちが険悪な雰囲気になってきたので、間に挟まれたフルートたちは、うわぁ、という表情になりました。

 ゼンが食べかけのパンを突き出して言います。

「いいからおまえらも飯を食えよ。腹が減ってるから、怒りっぽくなるんだぞ」

「魔石が食事をするものか!!」

 二人の精霊は同時にまったく同じことを言い、一瞬顔を見合わせてから、そっぽを向いてしまいました。息が合っているのかいないのか、仲が良いのか悪いのか。相変わらず判断に悩む精霊たちです。

 とにもかくにも、勢揃いした勇者の一行は、メイ国に向かって夜空の中をまっすぐに飛んでいきました――。

素材提供素材サイト「スターダスト」へのリンク