空中からゾとヨが降ってきて、いきなり顔をひっかき始めたので、敵の魔法使いは仰天しました。魔法使いの頭は七つもありますが、いくら上を見ようとしても、頭上の小猿はなかなか見えません。逆に上を向こうとした顔をひどくひっかかれてしまいます。
周囲を見張るのに便利だった七つの頭が、今は逆に弊害になっていました。他の頭がすぐそばにあるので、頭を振って猿を払い落とすことができなかったのです。ゾとヨは七つの頭の上をぴょんぴょん飛び跳ねながら、魔法使いをひっかき続けました。それを捕まえようと魔法使いが腕を伸ばしてくると、ひょいとかわして指に思い切りかみついてやります。
「痛たたたぁぁぁ!!!」
かみつかれた手は一つでも、魔法使いの頭はいっせいに悲鳴を上げました。青の魔法使いへ攻撃しようとしていた手が、魔法をくり出せなくなってしまいます。
「これは好機!」
武僧の魔法使いは太い杖から特大の魔法を撃ち出しました。ただし、敵の頭上のゾとヨには当たらないように、魔法使いの下半身を狙います。
どぉぉん。
青い魔法は敵を直撃しました。太ったからだが大きく吹き飛び、いきなりそこから一組の男女が離れます。年配の男とまだ若い女ですが、頭から地上に向かって落ちていきます。
「合体が解けたんだわ!」
とアリアン言い、キースは眉をひそめました。
「気を失ってるな。あのままだと地上に激突だ」
すると、青の魔法使いが大声で部下に命じました。
「受け止めろ!」
敵の魔法使いを助けろ、と言われたのですから、魔法軍団としては面白くなかったかもしれません。けれども、彼らは上官には忠実だったので、すぐに落ちてきた二人を受け止めました。魔法でゆっくりと地上へ降ろします。
ゾとヨは吹き飛ばされて回転する魔法使いに、必死でしがみついていました。
その拍子にゾが魔法使いの顔の上に載ってしまいます。
「この――!」
魔法使いは叫びましたが、その顔は六つに減っていました。ゾを捕まえようといっせいに腕を伸ばしますが、十本あった腕も八本に減っています。
「ゾ!」
ヨが別の顔を思い切りひっかいたので、魔法使いはまた悲鳴を上げました。その間にゾは魔法使いの頭上にまた逃げていきます。
キースが言いました。
「どうやらあいつは青さんの直撃を食らうと合体が解けていくらしいな。グーリー、もう一度行け。青さんの援護だ!」
そこでグリフィンは大きく舞って突進していきました。ようやく爆発の回転が収まった魔法使いへ、翼を打ち合わせて襲いかかります。
「これは闇の怪物!?」
「何故、エスタ軍にいるんだ――!?」
敵の魔法使いが驚いたように言いました。
また魔法をくり出してきたので、キースは障壁を張りました。光の魔法と闇魔法がぶつかり合って、再び大爆発が起きます。
「ひゃぁぁぁ……落ちるゾ!」
「おおお、オレたち飛べないヨ!」
魔法使いと一緒に吹き飛ばされて、ゾとヨが悲鳴を上げていると、そこへグーリーが舞い戻ってきました。たちまちキースの魔法でグーリーの背中に引き戻されます。
「よくやったわ。偉いわよ、ゾ、ヨ」
とアリアンに誉められて、二匹は大喜びしました。飛び跳ねながら言います。
「オレたち役に立ったゾ!」
「そうだヨ! 敵を混乱させたヨ!」
「かたじけない! 感謝しますぞ!」
と青の魔法使いが言って、また特大の魔法を撃ち出しました。今度はゾとヨがいないので、遠慮なく敵の全身に魔法攻撃を食らわせます。
すると、また敵の体から次々と男女が離れていきました。誰もが気を失って頭から落ちていくので、魔法軍団がそれを受け止めていきます。
一、二、三……と数えていたアリアンが、十二で数え終わりました。
「十二人離れていったわ。先の二人と合わせて十四人ね」
「ということは、残りの連中は四人と言うことか。なるほどな」
とキースは空中に残った魔法使いを見ました。すっかり体は細く小さくなっていますが、それでも頭が二つ、腕が三本の異形です。
魔法使いは武僧ではなく、キースに向かってどなっていました。
「貴様が使う魔法は闇魔法じゃないかぁ! 貴様たちは、いったい何者だぁぁ!?」
キースは皮肉な顔で笑い返しました。
「正義の味方の闇魔法使いだよ。闇の味方をするような光の魔法使いにはぴったりの相手だろう?」
ギェェェ!
黒いグリフィンのグーリーも声をあげます。
「さあ、これでしまいにしますぞ!」
青空の中にもっと青い衣をひるがえしながら、武僧の魔法使いが言いました。こぶだらけの太い杖を突きだして、敵の魔法使いへ突きつけます。
「元に戻りなされぃ、メイの魔法使いたち!」
特大の魔法が杖からほとばしり、轟音を立てて宙を飛んでいきました。光が炸裂し、それが散っていくと、敵は四人の男女になって、地上へと落ちていきました――。