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第22巻「二人の軍師の戦い」

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第21章 後方

61.魔法使い

 閃光が湧き起こった丘の上に、人影が現れていました。ゆっくりと丘の向こうから登ってきます。

「ようやく出てきたな! あれが敵の魔法使いか!」

 とオーダは目をこらしましたが、距離がありすぎて、どんな人物が現れたのか見極めることはできませんでした。ただ、いやに太った人物だということだけはわかります。

 すると、青の魔法使いが急に厳しい表情になり、うわっ、とキースが顔をしかめました。

「なんだ、あれは!? あれでも人間のつもりなのか!?」

 彼らは魔法の目で敵の姿を見ていたのです。

「どんな奴なんだ?」

 とオーダが聞き返すと、青の魔法使いは答えました。

「腕が十本、脚が四本、胴はひとつですがはち切れそうなほど丸くて、頭が七つ――そのような姿をしていますぞ。頭には男も女もいる」

「なんだそりゃ。また怪物か?」

 オーダがあきれると、キースは首を振りました。

「いいや、人間だ。しかも、ものすごく強力な魔法の気配が伝わってくる。光の魔法のね……。おそらく何人もの人間が一つに合体したんだろう」

「メイの魔法使いたちでしょうな。どうりで強力なはずだ」

 と青の魔法使いは溜息をつきましたが、オーダにはまだ意味がよくわかりませんでした。

「どういうことだ? メイの連中が魔法であの化け物を作ったっていうのか?」

「いいや。あそこにいるのがメイの魔法使いたちなのさ。魔法で一人の姿になったんだ」

「他者と合体する魔法はきわめて困難だし、禁忌中の禁忌とされていますが、セイロスによって禁じられた術を使わされたのでしょうな。メイには優秀な魔法使いが大勢いるはずなのに、一人の気配しかしないから妙だと思っていたのですが、こういう理由でしたか」

 とキースと青の魔法使いが答えます。

 

 すると、丘の上から急に敵の魔法使いが消えました。次の瞬間、彼らの頭上に姿を現して甲高い声をあげます。

「いやっひゃぁ、見つけたぞぉ!! ここにいたなぁぁ!!」

 幾人もの男女が同時に話しているような声でした。敵の魔法使いは青の魔法使いが言ったとおりの姿をしていて、七つの頭でいっせいにしゃべったのです。

 キースはまた顔をしかめました。

「正気を失ってるな。まともじゃない」

「あんな格好のヤツがまともなもんか」

 とオーダが言います。その手は疾風の剣を握っていました。空中の魔法使いへ風の一撃を送り出します。

 ところが風はたちまち向きを変え、地上へ戻ってきました。

「いかん!」

 青の魔法使いがとっさに魔法をくり出しますが、風を完全に防ぐことはできませんでした。猛烈な風が吹き下りてきて、地上の兵士や魔法使いを吹き飛ばしそうになります。

 ところが、すぐに周囲からいくつもの声が上がりました。

「沈静!」

「おさまれ!」

「滅風!」

 とたんに風はさぁっと弱まって消え、吹き飛ばされまいと踏ん張っていた人々だけが残されました。青の部隊の魔法使いたちが、魔法で風を打ち消したのです。

「ここで魔剣はつかわないでください。戻されて被害が大きくなります!」

 と水色の長衣を着た魔法使いがオーダに言います。

 自主的に防御した魔法軍団に、青の魔法使いは満足そうな顔になりました。

「相変わらず私の部下たちは優秀だ。皆、そのままそれぞれにできることをしろ。私はあのやっかいな奴を倒す」

「了解!」

「お気をつけて、隊長!」

「攻撃に夢中になりすぎて、防御を忘れないでくださいよ」

 と注意する部下もいます。

 青の魔法使いは、どんと杖で地面をたたきました。たちまちその巨体が浮き上がり、空の上へと飛んでいきます。

 怪物のような魔法使いは、ひゃっはぁっ、と笑うような声をあげました。

「そっちから来たなぁ! 貴様が有名な四大魔法使いだろう!? 我らが貴様を粉砕して、三大魔法使いに変えてやるわぁぁ」

 いくつもの頭が同時にしゃべるので、話し声は妙な感じに響いて聞こえます。

 青の魔法使いは空中に浮かんだまま杖を構えました。

「そんなわけにはいきませんな。そちらこそ、禁忌の魔法を使ったために、すっかりおかしくなっているようだ。元に戻って頭を冷やしなされい」

 杖の先から青い光がほとばしって飛びました。敵の魔法使いを光で包み込みますが、次の瞬間、光は吹き飛ばされて四散してしまいました。敵の姿は変わりません。

 それを見て、青の魔法使いは、にやりとしました。

「確かに魔力は強いですな。私といい勝負だ」

「寝ぼけたことを言うな! 我々は十八人が合体しているんだ! 貴様と同等などと言われたら、片腹痛いわ!」

 今度は敵が魔法をくり出してきました。青の魔法使いを直撃しますが、武僧の目の前で砕け散って地上に落ちます。その下にはまだ大勢のエスタ兵がいましたが、部下の魔法使いたちが障壁を張っているので被害はありません。

「魔法と魔法の力比べというところですかな。どちらが競り勝つか、ひとつ勝負と参りましょう!」

 青の魔法使いはそう言って飛び出すと、空中で敵に駆け寄り、太い杖を振り下ろしました。敵が飛びのき魔法を返しますが、武僧は杖を振り上げて防ぎました。すぐさま踏み出し、杖を突きだして攻撃しますが、魔法はまた敵に砕かれてしまいます――。

 

 空中で激しく魔法をぶつけ合う二人の魔法使いを、オーダはぽかんと見上げていました。青の魔法使いは杖で、敵の魔法使いは十本の手で、ひっきりなしに魔法を撃ち出し、相手を攻撃します。魔法が激突すると空はまぶしい光におおわれ、砕け散った魔法が火の粉のように降り注ぎました。魔法軍団が防いでいなければ、魔法のとばっちりで大勢の怪我人が出るところです。

 すると、キースがオーダを引っ張りました。

「今のうちだ、行くぞ。クアロー王を見つけて捕まえるんだ」

「あん? ああ、そうか……」

 オーダは我に返って言いました。この戦いを仕掛けているのはクアロー王です。王を捕虜にすれば戦いを終わらせられることを、ようやく思い出したのです。

 周囲ではエスタ軍の歩兵が雪崩(なだれ)を打って敵陣へ突進していました。敵の魔法使いがこちら側に現れたので、それから逃げようと敵陣へ走る兵もいます。

 丘の上ではすでに戦闘が始まっていました。エスタ軍の騎兵部隊が敵の騎兵部隊と斬り合っています。敵の弓矢部隊に駆け込んだ騎兵もいるので、敵は矢を放てなくなっていました。馬に追われて右往左往しています。

 キースとオーダも丘の上めざして駆け出しました。エスタ兵に紛れるようにして向かったのですが、空中の魔法使いにめざとく見つかってしまいました。

「風をくり出す奴が行くわ!」

「ミカール様を傷つけた奴もいる!」

 後ろについていた顔たちが言い、他の顔がいっせいに叫びます。

「行かせるなぁ! 殺せぇぇぇ!!」

 十本の手の中の三本がキースとオーダに向けられました。青の魔法使いに魔法攻撃をくり出すのと同時に、キースたちへも魔法を撃ち出してきます。キースは障壁を張ろうとして、また、はっとためらいました。こんな姿をしていても、敵は光の魔法使いです。キースの闇魔法と激突したら、大爆発が起きます。

 すると、キースたちの上に光の壁ができて、敵の魔法を防ぎました。魔法軍団が守ってくれたのです。次の瞬間障壁は砕けましたが、その間にキースとオーダは左右に飛びのくことができました。防ぎきれなかった魔法が飛んできて、何人ものエスタ兵を撃ち倒しますが、キースたちは爆風にあおられただけですみます。

「急げ!」

 とキースはまたオーダに言いました。

「敵陣に飛び込めば、奴は攻撃できなくなる! 全速力で走れ!」

「走ってるさ……! だが、さすがに鎧が重いんだよ……!」

 オーダはあえぎながら答え、すぐ近くにエスタ軍の騎兵を見つけて、おっと嬉しそうな顔になりました。

「飛んで火に入る夏の虫――じゃない、天の助けってやつか! ちょっと借りるぞ!」

 オーダは騎兵に駆け寄って馬をいただこうとしましたが、騎兵が抵抗したので引きずり下ろして殴り飛ばしました。気絶した騎兵はその場に残して、馬に飛び乗ります。

「ひどいな。味方だろう?」

 とキースは顔をしかめましたが、その彼もいつの間にか馬にまたがっていたので、オーダは目を丸くしました。

「その馬はどうした?」

「もちろん味方から拝借したよ。後でとびきりの美女を紹介するから、って約束でね」

「本当か? そんな美女がいるなら、俺にも紹介してくれ――」

 すると、彼らの足元で吹雪がガォッとほえました。おっと、とキースとオーダは言いました。

「吹雪にあきれられた。本気で急ごう」

「そうだな。来い、吹雪!」

 二人は馬に鞭を入れ、白いライオンを従えて、敵がいる丘へまっしぐらに駆け上がっていきました。

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