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第22巻「二人の軍師の戦い」

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51.味方

 「テイーズの街が透視できなくなったわ。セイロスたちが街に入ったみたい」

 ポポロは胸の前で両手を組み、遠いまなざしを街道の先に向けながら言いました。

 隣に立っていたフルートはうなずきました。

「ここまでは予想通りだ。今夜は新月だから、セイロスたちは今夜はテイーズの街やその周りに宿泊して、明日の早朝、また東へ進軍するはずなんだ」

 そこはテイーズの街よりさらに東にあるガタンの街の郊外でした。すでに日は落ちていますが、まだ夕暮れの明るさが空に漂っているので、荒野の中に街道がぼんやり浮かび上がって見えます。

 ポポロは街道の上に立って、西の彼方へ魔法使いの目を向けていました。さらに遠いまなざしになって言います。

「テイーズの向こうのサガルマとダラプグールの街も見えないわ。あっちにはもうセイロスはいないはずなのに……」

「セイロスはきっと、征服した街に魔法をかけているんだよ。こっちに街の様子を知られないためにね」

 とフルートは答え、チャストの軍勢は今どこにいるんだろう、と密かに考えました。征服された街が見えないのと同じように、敵の軍勢の姿もポポロには見えませんでした。闇の力で透視できないようにしているのに違いありません。

 

 そこへオリバンが大股で歩いてきました。

「おまえの指示通り、セシルが女騎士団を率いて街の東側へ向かったぞ。ロムド兵の半数も同行した。おかげでここの兵力は半減だが、おまえはこれでいいと言うのだな?」

「そうです。この顔ぶれで敵を迎え撃ちます」

 とフルートが答えたので、街道脇の岩に腰を下ろしていたメールが肩をすくめました。

「フルートを知らない人が聞いたら、何を馬鹿なことを言っているんだ、って考えるだろうね。テイーズからこっちに攻めてくるセイロス軍は二万なのに、ここにいるあたいたちは、たった五十五人なんだからさ」

「ワン、五十五人と二匹ですよ」

「そうよ。私たちを数に入れるのを忘れないで」

 とフルートたちの足元からポチとルルが抗議したので、へっ、とゼンが笑います。

「どっちにしても、二万の軍勢にかなうような人数じゃねえや。この状況で、どうやって敵をぶっ飛ばすって言うんだ、フルート? どこかから援軍が来るって言うのか?」

 フルートは先に「西部には西部の戦い方がある。西部に兵がいないだなんて、そんなことはない」と言ったのですが、具体的にそれがどういうことなのかは、まったく説明しようとしなかったのです。

 オリバンも腕組みしながら言いました。

「ひょっとして、フルートは城の魔法軍団を当てにしているのか? こちらの状況は城に伝わっているから、そろそろ魔法軍団も駆けつけてきて良い頃なのだが」

 けれどもフルートは首を振りました。

「魔法軍団が来てくれたら、なお好都合です。でも、彼らが来なくても、きっと何とかできると思います」

「おい!」

「だから、どういう作戦にするつもりなのか聞いてるんじゃないのさ!」

 ゼンとメールが焦れて叫び、オリバンもあきれて言いました。

「それでは、せめてこれだけは教えろ。おまえが当てにしている援軍は、どこから来るというのだ?」

 すると、フルートはまた悪戯っぽい顔になりました。微笑しながら言います。

「援軍は当てにしてません。この西部そのものが、ぼくたちの強力な味方なんです」

 はぁ? と仲間たちは狐につままれたような顔になりました。星が光り始めた空の下の荒野を、思わず見渡してしまいます。

 

 すると、そこに声が聞こえてきました。

「援軍を当てにしていないとは、なんともつれないおことばですね、勇者殿」

「ダ。ワ、ノ、メニ、タ、ニ」

 芯の強さを感じさせる女性の声と、異国のことばを話す男性の声です。次の瞬間、一同の目の前に老若男女の集団が姿を現しました。全員が色違いの長衣を身につけ、手に杖を握っています。

「白さん! 赤さん!」

「やはり来たな」

 とフルートたちとオリバンは言いました。

 白い長衣の女神官が胸に手を当てて、男性式のお辞儀を返します。

「お待たせいたしました、殿下、勇者の皆様方。ロムド城魔法軍団の白の部隊と赤の部隊、ただいま到着いたしました」

 その横と後ろで、赤の魔法使いと魔法軍団もいっせいにお辞儀をしました。総勢四十名あまりの魔法使いの集団です。

 白の魔法使いが話し続けました。

「ゴーラントス卿が率いる援軍も、こちらに向かっておりますが、到着には今しばらく時間がかかるので、我々が援軍として先に行くように、と陛下からご命令を受けました。ですが、我らの助勢は不要だったでしょうか?」

 女神官はフルートに向かってそう言っていました。いやいや、と勇者の仲間たちはあわてて手を振り、フルートも苦笑して言いました。

「失礼なことを言ってすみませんでした。魔法軍団が来てくれれば、文字通り百人力です。作戦を確実に実行に移せます。――それじゃ、作戦について話す。みんな集まってくれ」

「待ってましたぁ!」

「この野郎、さんざんもったいぶりやがってよ!」

「まったくだ」

 勇者の一行とオリバンと魔法軍団は、作戦会議のためにフルートの周りに集まっていきました――。

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