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第22巻「二人の軍師の戦い」

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50.街道の街・3

 場所は再びロムドの西部――。

 ゼンとメールとポチが水路に潜って偵察をした日の夕方、セイロスが率いるメイ軍はついに、次のテイーズの街に到着しました。

 テイーズも先のサガルマの街と同じように周囲に塀を巡らし、入り口だけに丈夫な門を造っていました。夏の日は長いので、まだ入り口が閉まる時刻ではなかったのですが、テイーズは分厚い木の扉をぴったり閉じて、外から誰も街に入れないようにしていました。門の内側は、息を潜めているように、しんと静まりかえっています。

 セイロスは馬上からその様子を眺めて言いました。

「やはり我々が攻めてくることに気づいていたな。だが、門を閉じたところで無駄なことだ。我々はこの街も占領するぞ」

「門を開けるように街の人間に言え!」

 と隣にいたギーがメイ軍の隊長に命じました。数人のメイ兵が緊張しながらテイーズの街の門に向かって行き、大声で呼びかけます。

「この国の正当な王であるセイロス殿のご到着だ! ただちに門を開けて出迎えろ!」

 門の横の見張り小屋には番人がいたようで、メイ兵とやりとりが始まります。

 

 やがて、伝令の兵士たちは戻ってくると、セイロスたちに報告しました。

「どうやらこの街では国王軍の警備兵がいち早く逃げ出してしまったようです。街にいるのは職人や商人や百姓ばかりだから攻撃はしないでほしい、門はすぐに開ける、と言ってきています」

「ロムド軍の警備兵が逃げ出しただと……?」

 セイロスがいぶかしむ顔をしたので、伝令兵は話し続けました。

「どうやら我が軍がダラプグールを襲撃しているところを目撃したサガルマの住人が、このテイーズまで知らせに駆けつけたようです。警備隊は『ロムド城に知らせに行く』と言って東へ出発したそうですが、街の人間はみんな、警備兵が逃げ出したと考えているようです」

「街も守らないで逃げ出すなんて、情けない警備兵だな」

 とギーがあきれますが、セイロスはまだ怪しむ表情のままでした。実際には警備兵が街の中や街の近くに潜んでいて、突然襲撃してくる可能性がある、と考えていたからです。

 けれども、メイ軍の隊長や兵士たちが次の命令を待っているので、セイロスは言いました。

「開門させろ! 街に入ったら、ただちに捜索だ! 剣や武器のたぐいはひとつ残らず取り上げて集めろ!」

 了解! とメイ軍の隊長や伝令兵たちは言いました。間もなく、全軍がテイーズの街へ進軍を始め、それを迎え入れるために街の門が開きます――。

 

 街に夕暮れが迫る頃、松明(たいまつ)の火に赤々と照らされた街の中央の広場に、剣や槍、弓矢といった武器が次々と集められてきました。兵士たちが街の家を一軒一軒回って、取り上げていったのです。テイーズはただの宿場町ですが、獣や夜盗に対抗するために、けっこうな数の武器が準備されていました。

 街の人々はメイ兵が来ると言われるままに武器を差し出しましたが、騒ぎが起きた家も少なからずありました。メイ兵が武器だけでなく、畑仕事に使う大鎌や熊手、木を切る斧や革なめし用のナイフまで奪っていこうとしたからです。

「やめてくれ! 鎌を持っていかれたら、俺たちはどうやって麦を刈ったらいいんだ!? あと半月もしたら収穫だっていうのに!」

「俺は木こりなんだ! 斧を取られたら仕事ができなくなって、かかあも子どもらも日干しになっちまうよ!」

 中には料理に使う包丁を取り上げられて、金切り声を上げているおかみさんもいました。

「包丁まで持っていくなんて、何考えてんだい!? 食事が作れないじゃないか! 早く返しとくれよ!」

 セイロスは騒ぎに閉口しながら言いました。

「集めるのは武器だけでいい。農具や作業の道具は返してやれ。それから、我々の食事を準備させろ。もう日が暮れる。今夜はこの街に宿泊だ」

 

 そこへ、街中を捜索した兵士たちが戻ってきて、セイロスに報告しました。

「この街には三十名の警備兵が配置されていたようですが、街の住人が言うとおり、東へ逃げ出していて一人も残っていませんでした」

 それを聞きつけたメイ兵たちは笑い出しました。

「まったくだらしがない警備兵だな。一戦も交えずに逃げ出すなんて」

「こっちは二万の軍勢だぞ。戦ったって勝てるわけがないとわかって、尻尾を巻いて逃げ出したのさ」

「つまらん。サガルマの街のように、警備兵の首を広場に並べてやろうと思ったのにな」

 と残念がる兵士もいます。

 そこへ、どさりと重たいものが落ちる音がしました。見れば、二人の農夫が、取り落とした籠から転がり出たカボチャをあわてて集めているところでした。

「なんだ?」

 メイ兵たちがじろりとにらむと、農夫たちはひざまずき、ぺこぺこと頭を下げました。

「た、大変失礼をしました……。じ、実は、皆様方のお食事用にカボチャを運んでおりました。粗相(そそう)をして申しわけありません……」

 懸命に謝る男の横で、もう一人の農夫はずっとうつむいていました。低くうなるような声が聞こえます。

 とたんにセイロスが動きました。農夫たちに近づき、うつむいている男の頭をつかんで、無理やり上を向かせます。

「あいた、いたたた……!」

 悲鳴を上げて顔を上げたのは、ひげ面の中年の男でした。もう一人の農夫が、すみません! お許しください! と必死に謝り続けます。

 セイロスはすぐに男を放して立ち上がりました。ギーが駆け寄って尋ねます。

「どうかしたのか?」

「いや。あの連中が変装しているのではないかと思ったのだ。違ったな」

「あの連中って、金の石の勇者たちのことか? 心配のしすぎだぞ、セイロス。連中は東に行ったんだ――」

 離れていくセイロスやギーに、二人の農夫は地面に這いつくばって頭を下げていました。他の兵士たちも、どんどん増えていく武器の山を眺めに行きます。

 セイロスたちに謝っていた農夫が、ひげの農夫にささやきました。

「落ち着け。もう少しで正体がばれるところだったぞ。我々がテイーズの警備兵だなんて知れたら、それこそ命はないんだからな」

 すると、ひげの男はまたうなるように言いました。

「サガルマの警備隊には友だちがいたんだよ……ジョージといって、仕事熱心な、いい奴だったんだ……」

 うなり声がすすり泣きに変わっていきました。もうひとりが、慰めるように、そっと背中をたたきます――。

 

 一方、捜索がすんだ家々では、竈(かまど)にいっせいに火が入って、調理が始まっていました。今夜この街に駐屯するメイ軍のために食事を準備するように、という町長の命令が回ってきたからです。

 町長の家の台所にも、大勢の女たちが集まって料理を始めていました。パンの粉をこねる者、野菜や燻製肉を刻む者、それを鍋に入れて煮込む者――なにしろ二万人の兵士の食事を準備するのですから、分量も半端ではありません。台所が戦場のようなありさまになっていきます。

 町長の家には材料も次々運び込まれてきました。粉の袋や野菜が、家の周りに山のように積み上げられていきます。

 それを運ぶ男たちの中に、農夫に変装をした警備兵が紛れていました。三十名いたテイーズの警備兵は、ひとりも逃げ出してはいなかったのです。荷物を受け取るふりをして出てきた町長と、こっそりことばを交わします。

「取られた武器は全部敵の馬車に積み込まれてしまったよ。でも、連中にひどい目に遭わされた奴はいないようだ」

「それはなによりだ……。なにしろ、連中には絶対に抵抗するな、というのが、金の石の勇者からのご命令だからな」

「街の外の作業小屋に麦を取りに行った仲間が、勇者たちと接触した。皇太子殿下もご一緒で、必ずこの街を助け出すから金の石の勇者を信じろ、とおっしゃったそうだ」

 それを聞いて、町長は思わず笑いました。

「殿下に念を押していただくまでもない――。金の石の勇者はまだ若いが、この西部が生んだすばらしい英雄だ。勇者の武勇伝も数え切れないほど伝わってきている。彼がわしたちを見捨てるはずはないんだ。彼がこうしろと言うのであれば、わしたちは喜んで言う通りにするよ」

 農夫に変装した警備兵はうなずきました。

「わかった。チャンスがあったら、勇者殿にそう伝えておこう」

「あんたこそ、敵に見破られんようにな。あんたたち警備兵はずっと街を守ってきてくれた。あんたたちはもう、わしたちと同じテイーズの住人だからな」

「ありがとう。充分気をつけるよ」

 警備兵も笑顔になると、空になった籠を背負って町長の家を出ていきました。

 町長は腕組みすると、街の上空を眺めました。すでに日はとっぷりと暮れて夜の闇が広がっていますが、目をこらせば、空には無数の星がまたたいていました。ひときわ明るく見えるのは、宵の明星です。

 金色に輝く星をしっかりと見つめてから、町長は家の中に戻っていきました――。

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