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第22巻「二人の軍師の戦い」

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41.補給

 「そら、黒茶が入ったぜ。飯ができるまでこれを飲んでろ」

 ゼンがたき火からやかんを下ろして回してきたので、フルートたちは自分のカップにできたてのお茶を注ぎました。茶葉と一緒に甘根も煮出してあるので、飲むとほのかな甘みが広がります。

 ゼンは今度はたき火の上に鍋をかけていました。手際よく刻んだ材料をそこに加えながら、また言います。

「どうせ休憩するなら、しっかり食わねえとな。かまわず話を続けろよ。ちゃんと聞いてるからよ」

 その周囲では、ロムド兵や女騎士たちも、いくつもの火をおこし、茶を沸かしたり料理を始めたりしていました。男性ばかりのロムド兵と女騎士団が、一緒になって食事の準備をしているところもあります。

「こちらの状況は今、話して聞かせたとおりだ」

 とオリバンは重々しく言いました。その横にはセシルが、正面にはフルート、ポポロ、ポチとルルがいます。

 ルルが頭をかしげました。

「まさか敵が魔法でロムド国内に飛び込んでくるとは思わなかったわね。セイロスだけならまだしも、大勢のメイ軍も一緒だなんて、本当に大がかりな魔法よ。天空の国の魔法使いにだって、なかなかできないわ」

 すると、ポポロが考えながら言いました。

「セイロスは確かにものすごい魔法が使えるけど、きっとそれだけじゃないわね……。このあたりには火の山から飛んできた闇の灰が降ったから、それを力にして闇の出口を開いたんだと思うわ。闇の国と地上をつなぐ出口もそうだったけど、そういう通路って、どこにでも開けるわけじゃないのよ」

「あら。でも、闇の灰はポポロが魔法で消したじゃない。雪を聖水の雨にして降らせて。あのあと、ロムド城の魔法使いも国中の闇の灰を消していったんでしょう?」

「そう聞いていたけど、きっと全部は無理だったのね……。闇の出口が開けるくらいの灰が、どこかにまだ残っていたんだわ」

 その話を聞いて、フルートは深刻な顔になりました。

「セイロスが闇の出口を他の場所にも開けなければいいんだけれど。そんなものを通ってこられたら、とてもじゃないけど、攻撃を防ぐことはできないぞ」

 けれども、オリバンは言いました。

「どの程度の量の灰でそれができるのかわからんが、少なくとも、国内の主立った場所は大丈夫だろう。ザカラスで戦いが勃発したので、国中の灰を隅々まで消す前に魔法軍団が出動してしまったが、消せなかったのは人の住まない周辺部だけだったと聞いているからな。メイ軍が出現したのは、そんな周辺部の山の中だ。そこから攻めてきても、人がいるところにはもう闇の灰は残っていないはずだ」

「ワン、あのときフルートがロムド中の闇の灰を消すことを思いついて良かったですね」

 とポチが感心したので、フルートは首を振りました。

「国王陛下も同じことを考えていらっしゃったんだよ。危険の元は少しでも取り除いておいたほうがいいからね」

 

 ふぅむ、とゼンは鍋をかき回しながら言いました。

「てぇことは、セイロスたちはこの先、自分の足や馬で移動しなくちゃならねえってことなんだな? どこを通って攻めてきそうなんだよ。予想はつかねえのか?」

「西の街道だな」

「西の街道を来るのに違いない」

 とオリバンとセシルが異口同音(いくどうおん)に答えたので、ルルやポポロは驚きました。

「どうしてそう断言できるの? ここはこんなに広い荒野だもの。街道を行かずに荒野を進んでくる可能性だってあるでしょう? というか、荒野を行くほうが、障害物がなくて楽なんじゃないの?」

「そうね……。街道を通っていったら、いつか必ずロムド軍と遭遇すると思うんだけど。攻めるときって、できるだけ敵に遭いにくいルートを選ぶんじゃないの?」

 けれども、オリバンは繰り返しました。

「ここは大荒野だし、向こうは大軍勢だ。街道を進むしか方法はない」

「だから、なんでそうなるんだよ?」

 とゼンも納得がいきません。

 フルートは説明するように言いました。

「敵だって飲み食いしなかったら戦えない。大人数の部隊の食料や水は大量になるから、馬車でないと運べないけれど、大荒野は馬車には向いていないんだよ。石だらけだし起伏も激しいから、車輪をとられるんだ。それに、街道を通らなかったら補給もできないからな」

「補給って、足りなくなった食いものや水を手にいれるってことか? だが、どうして街道でなくちゃだめなんだ? 荒野にだってウサギぐらいいるだろうが」

 ゼンが大真面目でそんなことを言うので、フルートは苦笑しました。

「大人数の軍隊を養えるほどのウサギは、大荒野にはいないよ。それに軍隊は猟師じゃない。君たちみたいにうまく猟はできないさ」

 すると、セシルが言いました。

「私が見かけたセイロスの軍勢が、どのくらいの人数で、どの程度の物資を持っていたのかはわからない。それを確かめる前に発見されて、逃げるしかなかったからな。だが、一万などではきかない兵士がいたことだけは確かだ。そして、メイ軍を率いていたのは軍師のチャストだ。彼は限られた人数と支援の中で最大限の戦闘効果を上げる名人なんだ。街道を行けば、水は街道沿いの水路を流れているし、街や村を襲って食料を手に入れることもできる。牧場もたくさんあるから、軍馬に与える草だって抱負だ。チャストはロムドからメイに戻る際に、この西部を通過している。街道を進軍する利点に気がつかないはずはないんだ」

 ゼンは思わず肩をすくめてしまいました。

「最初から食料も水も強奪するつもりで攻めてきてるのかよ。ったく、人間らしいやり方だよな――。そら、俺たちは自分たちの食料で飯にするぞ。パンも豆のスープもできたから、熱いうちに食おうぜ」

 それにはフルートたちもオリバンたちも異論はありませんでした。ロムド兵や女騎士団の中でも、料理が次々にできあがって、食事が始まっています。

 考えることはまだまだたくさんありましたが、とりあえず、彼らは座って食事を始めることにしました――。

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