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第22巻「二人の軍師の戦い」

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21.知らせ

 ドワーフやノームとオリバンたちの間で武器と防具の製造の話がまとまると、ドワーフ村長と副村長の奥さんが言いました。

「実はね、王子様たち、あんたたちのために、あたしたち女で作っておいたものがあるんだよ」

「今持ってくるから、ちょっと待っておいでよね」

 と二人で部屋を出て行きます。ノームの奥さんたちは部屋に残りますが、楽しそうに、にこにこしていました。いったいなんだろう? とオリバンとセシルは顔を見合わせます。

 すると、ドワーフの女性たちが手に金色に光るものを持って戻ってきました。オリバンたちの前の床に広げて言います。

「そら、これさ!」

「あんたたちのために作ったんだよ。試してごらん!」

 それはフードがついた長袖の服でした。全体が金色の糸で織り上げられていて、頭からすっぽりかぶるような格好になっています。

 手に取ったとたん、ずしりと意外なほどの重さが伝わってきたので、オリバンは驚きました。

「この服は――金属でできているのか?」

「そう、鎖帷子(くさりかたびら)さ」

 とノーム村長の奥さんが言ったので、セシルも驚きました。

「鎖帷子? これが!?」

 セシルたち戦士は布の服の上に鎖帷子を着て、さらにその上から鎧兜を装備します。鎧兜は体を部分的にしか守らないので、その隙間を守るために、鎖で編み上げた上着を着るのです。鉄製の鎖はとても重いので、肩の動きが制限されるのを嫌って、袖無しの鎖帷子を着て、腕に別に鎖の布を巻く戦士もいます。ところが、今、彼らの前にあるのは、どう見ても鎖の服ではありませんでした。金属製ですが、一枚の厚地の布のように見えます。

 

 すると、ノーム副村長の奥さんが言いました。

「目を近づけて、よく見てごらん。ちゃんと鎖帷子なのがわかるから」

 言われたように目を近づけてみると、織り上げたように見えていた布が、実はごく小さな金属の輪がつながった編み物だということが見て取れました。糸のように細い金属を編み上げて作った鎖帷子だったのです。

「すばらしく精巧な品だな……こんなものはこれまで見たことがない」

 とセシルが感嘆すると、ドワーフとノームの女たちはとても得意そうな表情になりました。

「だろう? あたしたちの傑作品だからね!」

「これはね、魔金で作った鎖帷子なのさ。だから、ものすごく丈夫だよ」

「あたしたちドワーフの女が魔金を糸にすきあげたのさ。金属を糸にするのは、ドワーフの女の得意技だからね」

「で、あたしたちノームの女が、それを鎖帷子に編み上げたってわけ。あたしたちは、こういう細かい作業がすごく得意なんだよ!」

 つまり、それはドワーフとノームの女たちの共同作業で生まれた逸品だったのです。

 横でずっと話を聞いていたラトムが口をはさんできました。

「そいつを作るのには、俺の女房も協力したぞ。あんたたちが城に戻っていくときに、お土産がなくちゃ申し訳ないっていうんで、ドワーフとノームの女房たちが総出で作り上げたんだ。特にぴかぴか光ってる糸があったら、それはきっと俺の女房が編んだ糸だな」

「あら、なに言ってんだい、ラトム! それはあたしが編んだ糸に決まってるじゃないか!」

「やだね、タータ、とびきり綺麗な糸はあたしが紡いだものさ!」

 奥さんたちは自分の仕事のできばえを譲りません。

 オリバンは笑い出しました。

「なるほど、ドワーフとノームは、男も女も本当に優れた職人たちなのだな。これはまったく人間には作れない逸品だ。ありがたくいただこう」

 すると、ドワーフの村長が言いました。

「今言ったとおり、それは魔金から作られている。この山には魔金がふんだんにあるから、そんなものも作ることができるんだ。我々がロムドに収める鎖帷子は、それと同じものになる。非常に丈夫だし、目が詰まっているから、鎖の隙間から矢が突き刺さるようなこともない。ただ、作るのに非常に手がかかるから、数多く作ることは大変だ。それで、鎖帷子は五千枚、と言ったんだ」

「わかった。皆にも、その旨をしっかり伝えておこう」

 とオリバンが答えます。

 

 ドワーフとノームに勧められて、オリバンとセシルはその場で魔金の鎖帷子に着替えました。その上からまた鎧兜を身につけると、オリバンは全身がいぶし銀、セシルは白の姿になりますが、鎧の間で鎖帷子が金色に輝きました。

 うむうむ、とドワーフとノームがいっせいにうなずきます。

「いいよねぇ、ぴったりじゃないか」

「綺麗だよね」

「金色というのがいいな」

「ああ、金の石の勇者の軍勢だと一目でわかるな」

 と自分たちの仕事のできばえに満足します。

 すると、ラトムが近づいてきてオリバンに言いました。

「これはゼンに頼まれていたものだ。渡してやってくれ」

 手渡してきたのは長さが十五センチほどの砥石(といし)でした。まだ少しもすり減っていないので、うっすらと黒光りしています。

「ラトムの砥石か。では、一流品だな」

 とノームの村長が言ったので、ラトムは胸を張りました。

「もちろんだ。手持ちの砥石の中で二番目にいいヤツを選んでやったからな。一番いいヤツは俺用だ――。本当は俺も一緒に行って、フルートやゼンの武器を研いでやりたいんだが、これから武器がどんどん製造されるから、研ぎ師の俺は大忙しなんだ。ここを離れるわけにはいかないから、ゼンには俺が教えたとおりにしっかり研ぐように言っといてくれ」

「わかった」

 とオリバンはまたうなずきました。いろいろなところで大勢の人々が自分たちを支援してくれているのだ、と改めて実感します。

 

 するとそこへ中年のノームの女性が入ってきました。小太りした体つきで、灰色の髪を結い上げて、緑のスカートにオレンジの帯をしめています。

 ラトムは目を丸くしました。

「驚き桃の木山椒の木。どうした、おまえ、こんなところに来て」

 それはラトムの奥さんでした。ぷっと頬をふくらませると、夫に言い返します。

「村長や副村長たちはみんな奥さんたちも一緒なのに、なんであたしだけ一緒にいられないのさ。あたしだって王子様たちに会いたいってのにさ」

「野次馬に来たのか? 邪魔になるだろうが」

 とラトムがとがめると、奥さんはそれを押しのけてオリバンとセシルに言いました。

「邪魔しに来たわけじゃないよ。知らせたいことがあったのさ――。村の入り口に、あんたたちの兵隊が来てね、上空を変な鳥が飛んでるって言うのさ。ぐるぐる回って離れようとしないっていう話だから、様子を見に行ったほうがいいんじゃないかい?」

「変な鳥だと?」

 オリバンとセシルは急に心配になってきました。彼らは地上の駐屯地に百名の兵士を待たせています。それが敵に見つかったのではないか、と考えます。

「ラトム、大至急、我々を地上に連れ戻してくれ!」

 と言われて、ラトムのほうも飛び上がりました。

「驚き桃の木山椒の木! 敵の来襲かね!? こりゃ大変だ!」

 とオリバンとセシルの手をつかんで、地下の部屋から岩壁に飛び込み、地上に向かって地中を戻り始めます――。

 

 やがて、地面から飛び出したオリバンとセシルは、森の奥の駐屯地へ駆け出しました。ラトムも後から一生懸命走ってついてきます。

 すると、彼らが駐屯する森の上空を、本当に黒い鳥が飛び回っていました。ちょうど駐屯地の真上あたりで円を描いていて、そこから離れようとしません。

「黒いぞ。闇の鳥か――!?」

 とオリバンが言ったとたん、鳥が急に向きを変えました。走ってくる彼らに気づいたのです。オリバンとセシルに向かって急降下してきます。オリバンが腰の聖なる剣を握ります。

 ところが、その腕をセシルが押さえました。

「待って! あれはグーリーだ!」

「なに?」

 オリバンが驚いて手を止めたところに、鳥が舞い降りてきました。それは全身が真っ黒な鷹でした。二人の前で羽ばたき、すぐ近くの木の枝に留まって、ピィィ、と嬉しそうに声をあげます。

「本当にグーリーか! どうした、こんな場所に!?」

 とオリバンが言っているところへ、ラトムが追いついてきました。

「なんだ、あんたたちの知り合いだったのか? 驚き桃の木――いや、人騒がせだな」

「すまん。フルートや私たちの友人なのだ。本当に、いったいどうしたのだ、グーリー。城で何かあったのか?」

 オリバンに尋ねられて、グーリーはピィピィと鳴きましたが、残念ながら、鷹のことばはオリバンには通じませんでした。

「何を言っているのかわからんな。どうやら一大事があったわけではなさそうだが」

 鷹があわてた様子をしていなかったので、オリバンがそんなふうに判断すると、セシルが言いました。

「グーリーは我々の様子を見に来てくれたんだ。こちらの方面から敵がやってくるんじゃないか、とフルートたちが心配したらしい」

「グーリーのことばがわかるのか?」

 とオリバンがまた驚くと、セシルは肩をすくめ返しました。

「いや。ただ、なんとなく言っている内容は伝わってくる。管狐(くだぎつね)と同じことだ」

「ははぁ、お姫様は動物使いの力があるんだな。動物と心が通い合うんだ」

 とラトムが感心します。

 

 そうか、とオリバンは言って、グーリーに歩み寄りました。黒く光る羽をなでながら話しかけます。

「我々については心配はいらん。ジタンのドワーフやノームたちとの交渉もうまくいった。そうだ、せっかくだから、父上たちに伝言を運んでくれ。大地の子たちがたくさんの武器や防具を作ってくれることになったから、それを運ぶための馬車を準備してほしい、とな。我々もこれから帰路につくが、グーリーのほうが早く城に戻れるだろう」

 ピィ、と鷹は返事をすると、さらにまたピィピィと何かを話しました。姿は目つきの鋭い猛禽(もうきん)ですが、鳴き声は案外とかわいいグーリーです。

 セシルはそれに耳を傾けてから、首をかしげました。

「城の中で何か騒ぎが起きているらしいな。よくわからないが、ユギル殿が占えなくなっているらしい。それでグーリーがこちらに偵察に来たんだ」

「ユギルが?」

 オリバンは眉をひそめました。

「ユギルが占いの力を失っていることが外に洩れると、敵はその隙を狙って城を襲ってくる。我々は早く城に戻った方が良さそうだ。――グーリー、急ぎ城に戻って伝えてくれ。我々も大至急城に帰る、とな」

 ピィ! と鷹はまた一声鳴くと、翼を広げて飛び立ちました。彼らの頭上で一度輪を描くと、まっすぐ東へ飛び去ります。

 すると、ラトムが言いました。

「それじゃ、俺もこれで村に戻るからな。フルートたちに会ったら、よろしく言っておいてくれ」

「ああ、こちらこそ本当に世話になった」

「体に気をつけて、ラトム」

 オリバンとセシルが見守る前で、ノームも地面の中に消えていきます。

 駐屯地に向かって歩き出しながら、オリバンとセシルは話し続けました。

「城で何があったのだろう? ユギルが占えなくなるというのは、よほどの事態だ」

「そこまではグーリーの話でもわからなかった。デビルドラゴンのしわざでなければ良いのだが」

 それが、ユギルとアリアンの恋人関係が取りざたされて、城中が噂の嵐になったせいだとは、さすがに想像することができません。そしてまた、クアロー王がロムドとエスタに宣戦布告した知らせも、彼らには届きませんでした。グーリーは、その知らせが入ってくる前にロムド城から飛び立っていたからです。

 

 すると、突然行く手の森で叫び声が上がりました。同時に馬の蹄の音と剣がぶつかり合う音が響きます。戦闘の音です。

「敵襲! 敵襲――!!」

 駐屯地の方向から聞こえてきた兵士の声に、オリバンとセシルは飛び上がって駆け出しました――。

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