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第22巻「二人の軍師の戦い」

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第6章 周辺国

16.周辺国・1

 夕方、アリアンの部屋から戻った勇者の一行は、フルートたちの部屋の椅子やベッドに座り込んでいました。

 アリアンの様子をひとしきり話してから、メールが言います。

「でさ、あたいたちはアリアンに、自分から告白した方がいい、ってずいぶん勧めたんだけどさ、それは絶対にできない、って言うんだよ。そんなことをして拒絶されたら、もう一緒にいられないから、って」

 ルルも言いました。

「そんなわけないと思うんだけど、キースも変なところで意固地だから、本当にそんなことになったら大変じゃない? 私たちもそれ以上は強く言えなくて」

「でも、アリアンは話している間中、ずっと泣いてたの……。あれじゃ本当に透視どころじゃないと思うわ」

 とポポロが心配そうに言ったので、フルートも考え込んでしまいました。

「それが一番の問題なんだよな。今回の一件で城中が大騒ぎになって、ユギルさんもアリアンも占いや透視ができなくなってしまった。セイロスがどこかでまた襲撃の準備を進めているはずなのに、ぼくたちはどこで何が起きているのか知ることができないんだ」

「ユギルさんやアリアンより目がいいヤツなんか、まずいねえからなぁ」

 とゼンも溜息をつきます。

 するとメールが勢いよく立ち上がりました。

「よぉし! こうなったら、あたいがキースを問い詰めてやる! なんでアリアンを邪険にするのさ、って! ぐずぐず煮え切らないようなことを言ったら、今度はアリアンとキースを同じ部屋に閉じ込めてやるから!」

 フルートは思わず頭を抱え、ゼンは顔をしかめました。

「強引はやめろって。これ以上こじらせたら、収まるもんも収まらなくなるぞ」

「じゃあ、どうしたらいいのさ!? このままユギルさんもアリアンも占いや透視ができなくていいって言うのかい!?」

 とメールがかみつきます。

 

 するとそこにポチが戻ってきました。ゼンとメールが言い争っているので、目を丸くします。

「ワン、どうしたんですか? アリアンに話を聞きに行ったんじゃなかったんですか?」

「行ってきたわよ。で、お手上げの状態になってるわけ」

 とルルが溜息まじりで答えます。

「君のほうは? グーリーと話をしてきたんだろう?」

 とフルートは尋ねました。ポチはアリアンの部屋に行く途中で屋上に鷹のグーリーを見つけて、そっちと話をしてくる、と別行動をとっていたのです。

 小犬は床に腰を下ろして話し出しました。

「ワン、ユギルさんもアリアンもしばらく占いや透視ができないでいるから、周囲の様子はどうだろうって思って、グーリーに聞きに行ったんですよ。そしたら、グーリーのほうでも同じことを心配していて、空を飛び回って警戒してくれていたんです。都の中は特に変わりはないみたいだって言ってました」

「それ、当然だと思うわ。お城や城下町のディーラは、魔法軍団の魔法使いたちが昼も夜も休まず見張り続けているんですもの……」

 とポポロが言うと、ポチは頭を振りました。

「ワン、グーリーは南のミコン山脈を越えて、サータマンのほうまで偵察に行っていたんですよ。ほら、グーリーは元々はグリフィンだから、鷹のままでも速く遠くまで飛べるんです。もちろん、危険だからあまり深入りはできなかったって言っていたけど、見た限りの様子では、大軍が集められているとか国境付近にサータマン軍が進軍しているとか、そんな動きは見られなかったって」

「サータマンまで飛んで行ったのか!? 危険だよ! もしサータマンにセイロスがいたら、捕まって操られたかもしれないじゃないか!」

 とフルートは驚き、すぐに眉をひそめました。

「……でも、グーリーは捕まらなかったんだな? とすると、セイロスはまだサータマンには行っていないってことなのか。じゃあ、彼はどこにいるんだろう……?」

 フルートが考え込んでしまったので、仲間たちは顔を見合わせました。考えの邪魔をしてしまいそうで、話をするのもためらわれます。

 

 すると、フルートは突然顔を上げ、部屋の天井に向かって言いました。

「白さん! 青さん! 聞こえますか!? 聞こえたら、今すぐここにいらしてください!」

 急なことに仲間たちが驚いていると、その目の前に二人の魔法使いが姿を現しました。白い長衣を着た女性と青い長衣の大男です。こちらも驚いたように尋ねてきます。

「どうなさいましたか? 勇者殿が私たちを呼ばれるとは」

「何か事件ですかな?」

 魔法使いたちは常に城中に目配りをしています。特に四大魔法使いと呼ばれる四人は魔力が強くて、ロムド王が呼べば声を聞きつけてただちに参上します。フルートはそれを真似たのでした。

「呼び立ててしまってすみません」

 とフルートは謝ってから、話を切り出しました。

「魔法軍団の魔法使いは国境付近にも派遣されていて、隣の国の様子についても、魔法使いの声を使って連絡してくるんでしたよね? 最近、他の国の様子はどんな感じですか?」

「周囲の国々の様子ですか?」

 と白の魔法使いは言いました。淡い金髪を後ろで束ねて金の髪飾りで留め、首からはユリスナイの象徴を下げた女神官です。

「確かに、魔法軍団は国内各地に配置されています。国境に関しては、関係が良好かつ重要な隣国に限って、関所やその付近に限定的に配置しております。関係良好とは言いがたい国の場合は、国境に魔法使いを置くと侵略の意図ありという疑念を抱かれますので、その場合は近在の領主が――」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、白さん」

 とゼンが口をはさみました。

「ことばが難しすぎらぁ。もうちょっとわかりやすく言ってくれ」

 メールはあきれて腰に手を当てました。

「白さんはゼンじゃなくてフルートに言ってるんだから、フルートがわかれば、それでいいじゃないか。要するに、魔法使いがいても疑われないくらい仲のいい国の様子なら魔法軍団も見張ってる、ってことだよ」

 自分に理解できなかったことをメールが難なく理解していたので、ゼンは、ちぇっとふてくされます。

 フルートは考えながらまた言いました。

「関係良好な国というのはつまり、同盟を結んだ国々のことですね? エスタ、ザカラス、テト、ミコン――これらの国や都市のすぐ近くには魔法軍団の魔法使いがいるんだ。そこで何か変化があったっていう報告はありますか?」

「いいや、特には何も。どの国でもデビルドラゴンの襲撃に備えて、着々と準備を整えていますが、今のところはどの国からもデビルドラゴン出現の知らせはありませんな」

 と青の魔法使いが答えました。大きくてたくましい体に武神カイタの象徴を下げた武僧です。

「ということは、セイロスは同盟国にも姿を現していないのか……。彼がザカラスから逃亡してから、もう一ヶ月になるのに」

 とフルートがますます考え込んだので、白の魔法使いが言いました。

「奴の行き先は、十中八九サータマンでしょう。あの国の国境には魔法軍団も派遣されておりません。国の中で何かもくろんでいても、こちらにはわからないのです」

「それが、セイロスはサータマンにも行っていないみたいなのよ」

「ワン、グーリーが偵察に行っていたんです」

 と犬たちが言ったので、魔法使いたちは驚きました。

「なんと、そうなのですか? では、ひょっとして、東の果てのユラサイとか? さすがに遠すぎて、あの国の様子まではわかりませんからな」

 と青の魔法使いが言いますが、フルートは首を振りました。

「デビルドラゴンはあの国の術師が使う魔法が苦手です。そんな国をわざわざ狙うとは思えません」

 とすると? と一同は身を乗り出してフルートに注目しました。彼が話しながら何かに思い当たったような表情になっていたからです。

 

 フルートは自分の考えを確かめるように、ゆっくりと言いました。

「ロムド国は東をエスタ、南東をテト、南をミコンとサータマン、西をザカラスに接していて、北側には大森林とゼンの故郷の北の峰がある。東西南北どこの方面で異変があっても伝わってくるはずなのに、それが聞こえてこない」

「ってぇことは、もっと別の場所にいやがるってことか? ひょっとして、北の大地とか南大陸とか――」

 予想するゼンにフルートはまた首を振りました。

「そこからでは遠すぎる。彼の目的は世界征服だし、そのためには中央大陸の同盟国を倒さなくちゃいけないんだからな」

 それじゃあ、どこに? とまた繰り返した一同に、フルートは言いました。

「もう一つ、ぼくたちに情報が届かない国があるんだよ……。そこで異変があっても、ぼくたちにはわからない」

 えっ? とゼン、メール、ポポロ、ルルは驚きましたが、さすがにポチと二人の魔法使いはすぐ気がつきました。

「ワン、まさか――!」

「メイですか!? デビルドラゴンはメイに出現していると!?」

「なるほど! メイでの出来事は普段から外には伝わってきません。何事かあっても、我々にはわかりませんぞ!」

 それを聞くうちに、他の仲間たちにも飲み込めてきました。

「そうか、そういや、俺たちもロムドからメイまで行ったよな。一角獣伝説の戦いの時によ。案外近くだ」

「ロムドやザカラスとは隣同士の国だもんね。攻め込もうと思ったら、すぐそばなんだ」

「メイにも魔法使いはたくさんいるって聞いていたわ。ザカラス城の戦いの時みたいに、魔法使いがセイロスに操られたら、とんでもないことになるんじゃない……?」

「しかも、あの国にはあのメイ女王がいるわよ! よりにもよって、フルートがデビルドラゴンになるって言った! あの馬鹿女王なら、またデビルドラゴンにたぶらかされたって全然おかしくないわ!」

 

 フルートはせわしく考えながら言い続けました。

「メイとの国境の近くにはジタンがある。もしメイがロムドに攻めてきたら、真っ先に戦場になるのはジタンだ。また魔金が狙われる……!」

「ねぇ! そのジタンに今、オリバンとセシルたちが行ってるんじゃないのかい!?」

 とメールが気がつき、白と青の魔法使いは顔を見合わせました。

「殿下たちは今どのあたりでしょうな?」

「城を出発されてから、間もなく二週間。そろそろジタン山脈に到着される頃だ。また危険な状況に巻き込まれてしまうかもしれない」

「ワン、ぼく、もう一度グーリーと会って、様子を見てもらってきます!」

 とポチが部屋を飛び出していきました。フルートは傍らのポポロを振り向きます。

「君もジタンの方角を透視だ! できるね?」

「ええ、大丈夫よ」

 とポポロが西の方角を探して遠いまなざしになります。

 白の魔法使いと青の魔法使いは真剣な表情で話し続けていました。

「我々も確認に動くぞ。陛下に偵察の許可をいただかなくては」

「いそぎましょう」

 どこからか取り出した杖を掲げて、フルートたちの部屋から消えていこうとします。

 

 ところが、その時、部屋の扉が勢いよく開きました。半白の黒髪にひげ面のゴーリスが、中の一同に呼びかけます。

「フルート、みんなここに集まっているか!? おお、白殿と青殿もここだったか。ちょうどいい! 今すぐ陛下の執務室に集まれ! 陛下がお呼びだ!」

 ゴーリスが息せき切っていたので、フルートたちは驚きました。

「いったい何事ですか、ゴーラントス卿?」

 と白の魔法使いが尋ねます。

「エスタ国の東隣のクアロー国からロムドに宣戦布告があった。行方不明だったクアロー王が突然戻ってきて政権を奪還したんだが、こともあろうに、セイロスがロムド国の正当な王位継承者だから、即刻セイロスに王位を譲り渡せ、と言ってきた」

 一同は驚きを通り越して呆然としてしまいました。その場に立ちつくしたまま、すぐには声も出せません。

 と、白の魔法使いが声をあげました。

「青、陛下の元へ行くぞ!」

「承知!」

 魔法使いが姿を消していき、フルートたちもようやく我に返りました。

「俺たちも陛下のところに行くぞ! 急げ!」

 とゴーリスが言ったので、フルートたちは大慌てで部屋を飛び出していきました。

 ……あまり衝撃が大きかったので、誰の頭からも、セイロスがメイに潜伏しているかもしれない、という可能性は吹き飛んでしまっていました。

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