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第21巻「ザカラス城の戦い」

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第22章 奪回

64.地下室

 「いくぞ、みんな! 取られたものを全部取り返すんだ!!」

 フルートのかけ声で、仲間たちはいっせいに動き出しました。ここは捕虜が操り兵に変えられているザカラス城の地下室です。敵味方が入り交じっている場所へ駆け込んでいきます。

「迎え討て、操りども! セイロス様のご命令だぞ!」

 と島の戦士がどなると、操り兵もいっせいに動き出しました。武器を手にフルートたちへ向かいます。

 先頭を切って走っていたのはメールでした。敵の先頭が長い槍を手にしているのを見て、足下のルルに言います。

「槍がほしい! 手伝っとくれよ!」

「わかったわ!」

 ルルはごぅっと風の犬になると、先頭の兵士に襲いかかって身をひるがえしました。とたんに相手の防具に深い傷が走り、腕から血が吹き出します。風の刃に切り裂かれたのです。操り兵が悲鳴を上げて腕を押さえたので、槍が床に落ちます。

「ありがと、ルル!」

 メールは石畳の上から素早く槍を拾い上げると、構えて大きく振り回しました。突進していた敵が、槍に追い払われてあわてて飛び退きます。

「フルート! 殺さなきゃいいんだろ!? 絶対に怪我もさせるな、なんては言わないね!?」

 とメールに大声で尋ねられて、フルートは思わず苦笑しました。地下室に飛び出す前に仲間たちと話したことを思い出したからです。

 

「まずゼンが先に出ていって、みんなの注目を引く。彼らがゼンを見ている隙に、ぼくたちも外に出るんだ。ここは存在を知られるわけにいかない特別な通路だからな――。外に出たら、みんな思い切り暴れろ。戦い方はみんなに任せる。ただ、相手を殺さないようにだけ気をつけるんだ」

 トーマ王子の先導でザカラス城の秘密の通路を上り、地下室のすぐ横までたどり着いたとき、フルートは仲間たちへそんな話をしたのです。

「殺さなきゃ何をしてもいいのか?」

 とシン・ウェイが意外そうに聞き返してきました。フルートが相手を傷つけることさえ嫌う優しい勇者だということを、彼もすっかり承知しているのです。

 フルートはちょっと苦笑しました。

「もちろん、怪我をさせずにすむなら、そのほうがもっといいけれど、この向こうには大勢の敵がいます。まずは自分がやられないこと。そして、相手を殺さないこと。この二つだけを守れば、あとは何をしてもいいとします。――それから若草さん」

 動き出そうとした魔法使いの娘を、フルートは引き留めました。はい? と眼鏡の顔が振り向きます。

「操り兵に襲いかかられたら、光の魔法で反撃してください。きっと有効なはずです」

「どんな魔法で?」

 とリリーナは聞き返しました。光の魔法と一口に言われても、その内容や効果は千差万別なのです。

「できるだけ純粋な光を相手に送り込むんです。お願いします」

「わかったわ」

 眼鏡の娘が緊張した顔になってうなずきます――。

 

 今、リリーナはシン・ウェイと共に左手の敵へ走っていました。大勢の兵士が押し寄せてくるのを見て、シン・ウェイが呪符を投げます。

 すると、敵が持つ剣の刀身が急に色を変え、ぐにゃりと曲がってしまいました。そのまま剣の柄から離れて、柄を握る腕へと滑り降りていきます。敵兵は大声を上げてそれを払い飛ばしました。刀身が生きた蛇に変わってしまったのです。床に落ちると、あっという間に石畳の隙間へ潜り込んでしまいます。

 柄だけになった剣を握ってとまどう操り兵の中へ、リリーナは飛び込んでいきました。手にした杖で床をたたき、自分が信じる光の女神へ祈ります。

「ユリスナイ様! 敵に操られている哀れな者たちへ、どうぞ光をお与えください!」

 すると、杖の先端がぼうと光り始めました。リリーナが着ている衣と同じ色の光です。みるみる輝きを増していくそれを、彼女は力任せに突き出しました。目の前にいた操り兵の腹を、どん、と突きます。

 とたんに操り兵は大きな悲鳴を上げました。まるで腹を撃ち抜かれでもしたように、突かれた場所を抱えて倒れ、大声を上げて転げ回ります。その激しさにリリーナはびっくりしました。光を体内に打ち込めば相応の痛みや衝撃を感じるものですが、それにしても反応が激しすぎたのです。ついに兵士が絶叫して動かなくなったので、てっきり殺してしまったのだと思って、真っ青になります。

 すると、シン・ウェイが倒れた兵士に飛びついてゆすぶりました。

「おい、生きてるな? 起きろ!」

 兵士はすぐに目を開けて上半身を起こしました。自分の肩に手をかけているシン・ウェイを不思議そうに見つめ、周囲を見回して言います。

「ここはどこだ? 俺はどうしてここにいるんだ? 殿様を守って戦っていたはずなのに」

 兵士は北のトマン国の紋章をつけていました。わけがわからない、という顔をしていますが、ついさきほどまでのうつろな表情はもう跡形もありません。

 よし、とシン・ウェイは言いました。

「操りから解放されたようだな。あんたの剣は蛇にしちまった。危ないから、安全なところに下がっていてくれ。――若草ちゃん、その調子でどんどん行ってくれ! 光が操り兵を正気に返すんだ!」

 

 少し離れた場所では、フルートがポポロを背中にかばいながら、剣で戦っていました。押し寄せてくる操り兵と剣を合わせ、押し返しながら、ポポロに言います。

「君が言ってたとおりだった。光を送ったら、操り兵は元に戻った」

「キースから聞いたのよ」

 とポポロは答えました。

「操り兵の体の中には服従の虫っていうのがいて、それが人間の体と意識を支配しているんですって。闇の虫だから、光の魔法を流し込まれたら虫は消滅して、人間は正気を取り戻すのよ」

「なるほど――。とすると、これも有効か」

 フルートは片手を剣から放して、首の鎖を引っぱりました。金のペンダントを引き出して言います。

「光れ!」

 金の石はすぐに輝いて周囲の操り兵を照らしました。澄んだ聖なる光です。

 ところが、こちらの光は敵を正気に返すことができませんでした。操り兵がまた斬りかかってきたので、フルートは片手だけであわてて攻撃を受け止めます。

「だめ、操り兵の体が光をさえぎるから、服従の虫まで光が届かないのよ! 操り兵の体は人間のままだから!」

 とポポロが話す声に、メールの声が重なりました。

「ちょっと、フルート! あたいが倒した敵を治さないどくれよ! せっかく気絶させたところだったのにさ!」

 メールが苦心して戦闘不能にした操り兵が、金の光を浴びたとたん、目を覚ましてまた跳ね起きてきたのです。前より元気になって切りつけてきたので、ひゃっとメールは飛び退きます。

「ごめん、やり直しだ」

 とフルートは言うと、ペンダントを首から外しました。右手の剣で相手の剣を押し返しながら、左手で相手の体にペンダントを押しつけます。とたんに敵は絶叫して倒れました。床の上をのたうちながら転げ回り、急にそれが止まると、びっくりしたような顔で起き上がってきます。

「ありゃりゃ、ここはいったいどこだ? 確か敵が船でやってきて、ザカリアに火を放ったから、逃げ回っていたはずなのに――」

 正気に返った操り兵は、ザカリア市民だったのです。フルートは相手を引き寄せて背後にかばうと、また新しい敵と切り結び、ペンダントを突きつけました。その兵士も大声を上げて倒れ、転げ回ったあげくに正気に返ります。こちらは黒い鎧兜のザカラス正規兵でした。

「ワン、金の石の聖なる力でも体内の闇の虫を倒せるんだ!」

 とポチが歓声を上げると、ゼンが言いました。

「そりゃぁいい。こいつらも正気に戻してくれ」

 ゼンは両手に一人ずつ操り兵を捕まえていました。重装備をしたザカラス兵ですが、軽々と持ち上げると、フルートの前に放り投げてきます。フルートは次々にペンダントを押し当てていきました。

 リリーナはシン・ウェイが術で引き倒した操り兵を杖で打って、光を送り込んでいきます。

「あれ、ここは……?」

「なんでこんな場所にいるんだ?」

「私は今まで何をしていたのだろう?」

 服従の虫から解放された操り兵たちが、不思議がりながら立ち上がってきます。

 トーマ王子は一番壁際の場所に立って、正気に返った人々に呼びかけました。

「ぼんやりするな! そこにいたらフルートたちが戦いにくくなる! ぼくのところへ集まれ!」

「な、なんと、皇太子殿下ではありませんか!」

「何故このようなところに――!?」

 ザカラス兵が真っ先に駆け寄り、ザカリア市民やトマン国の兵士がそれに続きます。彼らが速やかに移動するので、フルートたちは常に新しい敵と対面して、金の石や光の杖を使うことができました。トーマ王子の周りに集まる人数が、どんどん増えていきます。

「ワン、いい感じだ。この調子でいけば、みんなを元に戻すことができるんじゃないかな?」

 ポチが期待して言うと、ルルは短くうなりました。

「そんなに簡単にはいかないわよ。敵はこんなにたくさんいるんだもの。いくらフルートたちでも大変よ」

 ルルの言う通り、フルートやリリーナが次々に操り兵を正気に返していっても、地下室にはまだまだ敵がいました。操り兵にされたロムド兵も加わっているので、数百人の敵が迫ってくるのです。ゼンは片端から捕まえて投げ飛ばし、メールは急所を外しながら槍で突き刺し、シン・ウェイも呪符を投げて引き倒しますが、とても間に合いません。

 

 すると、地下室の出口に近い場所で新たな騒ぎが起きました。操り兵にされていなかったロムド兵が、ガスト副官を中心に集まって戒めをほどき、剣を取り戻して島の戦士たちと戦い始めたのです。こちらはまともな戦闘でした。たちまち血しぶきと悲鳴が上がり、島の戦士が切られて倒れます。北方の孤島出身の彼らは、元々は農民なので、正式な戦いの訓練など受けてはいません。本気を出したロムド正規兵の敵ではなかったのです。

 ガスト副官は負傷した島の戦士を引き起こしました。先ほどギーから虫の種を受け取っていた、リーダー格の男です。

「操り兵に今すぐ戦いをやめろと命令しろ!」

 と副官が剣を突きつけると、男は真っ青になりました。先ほどまであんなに威張っていたのに、震え上がって声も出せなくなります。

「早くしろ! 死にたいか!?」

 副官は冷たく光る剣を男の喉元に押しつけていきました。温和に見えても、彼はれっきとした軍人です。しかるべき時には相応の行動を取ることができます。

 これは本気だと悟った男は、顔を引きつらせ、声を振り絞って叫びました。

「あ、操りども、セイロス様のご命令だ! せ、戦闘をやめ――」

 

 けれども、男は命令を言い終えることができませんでした。いきなり男の頭が破裂してしまったからです。四方八方に血しぶきが飛び散り、ロムド兵だけでなく、戦っていた島の戦士までが思わず声を上げます。頭がなくなった男の体が、力を失って床に崩れていきます。

 代わりに出口の方向から聞こえてきたのは、冷ややかな男の声でした。

「私はそんな命令など下さん。私の名をかたって偽りの命令を下した者は死刑にする、と以前から言っていたはずだ」

 同時に出口の木の扉が大きく開き、紫の鎧兜に金茶のマントの青年が姿を現しました。二つの戦闘が繰り広げられている地下室を見渡し、勇者の一行へ目をとめて言います。

「やはり奪い返しに来たな、フルート」

 冷たく笑う声です。

「セイロス……」

 フルートは金の石を構えたまま、紫の戦士を見つめ返しました。

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