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第21巻「ザカラス城の戦い」

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57.動き

 ザカラス城を望む見張り場に、いぶし銀の鎧の青年と白い鎧の女性が、長衣の大男と共に立っていました。オリバンとセシルと青の魔法使いです。ザカリアとその向こうにそびえるザカラス城の監視を続けています。

 ザカリアの街は相変わらず焼け野原ですが、街を囲む街壁はまだ健在でした。門や街に入る橋も残っていて、今は二本角の兜の兵士たちに守られています。

「見張りは定期的に交代するし、隊長らしい人物がしょっちゅう見回りに来る。連中はかなり警戒しているようだな」

 とセシルが言うと、オリバンがうなずきました。

「見張りの人数は東側の門のほうが多い。東からやってくるフルートたちを警戒しているのだ」

「ですが、いっこうに攻めて出ようとはしませんな。もっと早く出てきて、野外戦を始めるのかと思ったのですが」

 と青の魔法使いが不思議がったので、オリバンはまた言いました。

「セイロスの目的が、敵の撃破ではなく、兵力の増強にあるからだ。奴はザカラス兵やザカリア市民を捕まえて操り兵にするつもりだったが、アイル王の機転で、その大半に逃げられてしまった。攻めてきた敵を自分の兵士にするために、城のすぐ近くで決戦しようと考えているのだろう」

「引きつけて一網打尽にするつもりなのか。だが、まさか城の中で戦うことはしないだろう。ザカリアもあの通りの状況だから、あそこを戦場にするのは難しい。いずれ外に出てきて、こちらの軍勢とぶつかるはずだ」

 とセシルは言いました。故国で女騎士団を率いてきただけあって、戦況の読みには鋭いものがあります。

 

 すると、崖っぷちに張り出すように作られた見張り台から、銀の鎧の兵士が振り向いて言いました。

「殿下、偵察に出ていた敵兵が戻ってきました! かなり急いでいます!」

 なに、と一行は見張り台へ移動しました。木の枝をかぶせた屋根の下からは、東へ延びる街道がよく見えますが、そこを二人の戦士が馬で駆け戻ってくるところでした。半裸の体に胸当てを着け、角飾りのある兜をかぶった、島の戦士です。

 見張り兵が報告を続けました。

「今朝、四人の偵察が東へ向かっていきました。そのうちの二人だと思われます」

 ふむ、とオリバンは腕組みしました。

「まだ日は高い。しかも、四人のうちの二人となれば、東で何かを発見したな」

「ワルラ将軍の先発隊がここから徒歩二日の場所まで接近した、という知らせが届いている。連中はそれを見つけたのではないか?」

 とセシルが身を乗り出します。その間に、偵察兵はザカリアの門をくぐり、焼け跡を突っ切ってザカラス城へ向かって行きました。全速力です。

「どうやら、いよいよ敵が動き出しそうだな。青、急いでフルートたちへ知らせろ」

 とオリバンが言ったので、御意、と青の魔法使いは答えました。こぶだらけの杖をかざし、東にいる仲間に向かって呼びかけ始めます――。

 

 

 街道に沿って西へ進軍中の本隊で、馬に乗っていた赤の魔法使いが急に頭を上げました。黒い顔を空に向け、猫のような瞳で何もない場所を見つめながら、異国のことばで話し始めます。急にひとりごとを言い出したように見えますが、周囲の人々はいっせいに彼に注目しました。フルートの馬の籠に乗っていたポチが、話に耳を傾けてから言います。

「ワン、オリバンたちから連絡です。敵に動きが出てきたそうです。東のほうへ偵察に出ていた兵士が、あわてて城に戻ってきた。先発隊を見つけたのかもしれない、って」

 フルートはうなずきました。

「ワルラ将軍の先発隊は、ザカラス城まであと二日ほどの場所まで迫っている。そろそろ敵も気づく頃だ」

「先発隊の第一陣だね。ほとんどが歩兵のさ」

「ああ、千人しかいねえし、態度もだらけきってるように見せた部隊だ」

 とメールとゼンが話し合います。

 その間も赤の魔法使いは青の魔法使いと話し続け、通信が終わると、またムヴア語で何かを言いました。ポチがすぐに通訳します。

「ワン、城で変化があったら、オリバンたちがすぐにまた知らせてくれるそうです。敵はきっと迎撃のために飛び出してくるだろう、ってセシルが言っていたって」

「ぼくもそう思う」

 とフルートは言いました。少し考えてから、指示を出します。

「赤さん、後方にいる白さんをここに呼んでください。ポチは先頭にいるトーマ王子と宰相さんとシン・ウェイを。ゼンはゴーリスを。メールは馬車からポポロとルルを呼んできてくれ。ポポロがまだ疲れているようなら、ルルだけでもいいんだけど……」

 フルートが急にためらうような調子になったので、メールは笑いました。

「ポポロが来ないわけないじゃないか! フルートが何かすると聞いたら、這ってでも駆けつけてくるんだからさ。それに、馬車で丸二日休んだから、もう大丈夫だよ」

 フルートは赤くなってうなずくと、改めて一同に言いました。

「それじゃ、みんなをこの場所に。最後の作戦会議を開く」

 おう、と仲間たちは答えると、部隊の要人を招集するために散っていきました――。

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