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第21巻「ザカラス城の戦い」

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第16章 作戦会議

46.作戦会議・1

 皆と力を合わせてアイル王を救出する、と決心した翌日、フルートはさっそくロムド城で作戦会議を開きました。

 作戦室に借り受けた一室に集まっているのは、フルートたち勇者の一行と、トーマ王子、術師のシン・ウェイ、ザカラス宰相、ザカラス城の司祭長、それに赤の魔法使いとゴーリスという顔ぶれです。フルートは金の鎧だけを着て、兜と剣はテーブルの下に置き、ゼンも青い胸当てを着けて、弓矢などはやはり足下に置いていました。他の人々は普段着のままです。

 大きなテーブルを囲んで座った面々を見回して、フルートは話し出しました。

「それじゃ作戦会議を始めよう。ぼくは同盟軍の王たちから総司令官に任命されているけど、正直のところ、大軍同士の戦闘を指揮した経験はない。海の王の戦いのときには、ゼンと一緒に海の軍勢を指揮して遠征したけれど、海の戦士たちと人間の戦士は違うからな。だから、ご意見番としてゴーリスに同席してもらった。赤さんは、ザカラス城の近くにいる青さんとの連絡係だ。敵の様子をオリバンたちから知らせてもらうことになっている。赤さんのことばを通訳するのはポチだ。よろしく」

 フルートに頭を下げられて、ゴーリスは口を開きました。

「俺がご意見番に選ばれたから言うわけじゃないが、自分の経験不足を自覚して経験者の意見を仰ぐのは、いい心がけだぞ。おまえたちもこれまで数え切れないほど敵と戦ってきたが、軍勢と軍勢がぶつかる戦争は、そういう戦いとはまったく違う展開をしていく。経験者の話を参考にしなければ、まともな作戦などたてられないからな。経験という点ではワルラ将軍の右に出る人物はいないんだが、将軍はすでにザカラス城へ出陣されたから、俺ができる限りの補助をしてやる」

 半白の髪に黒いひげ、黒い服のゴーリスは、会議の場でも腰に大剣を下げていて、大貴族というより剣士と呼ぶほうがふさわしく見えていました。そのざっくばらんな態度にザカラス城の王子と宰相と司祭長は驚き、シン・ウェイは、へぇ、と面白そうな表情になります。

 フルートはゴーリスにうなずき返しました。いよいよ話し合いを開始します。

 

「まず、今回の作戦の目的をもう一度確認する――。ぼくたちの目的は、人質になっているアイル王を救出することと、敵に占領されているザカラス城を解放すること。この二つだ。もちろん、ザカラス城にはセイロスになったデビルドラゴンがいるから、奴を倒すことができれば一番いいんだが、今の状況ではそこまでは無理かもしれない。だから、まずはアイル王とザカラス城を確実に救出するんだ。そのために作戦を練ろう」

 すると、ゼンがちょっと肩をすくめました。

「そう言うけどな、作戦を考えるのはおまえの役目だぞ、フルート。おまえが思いつかなかったら、俺たちに作戦なんか考えつくわけねえんだからな。昨夜から考えてて、何も思い浮かばなかったのかよ?」

「大まかな案はいくつか考えたけどね。状況によって全然違ってくるんだ」

「っていうと?」

 とメールが聞き返したので、フルートは話し続けました。

「セイロスがザカラス城に立てこもるか、またすぐに出発するかで、ぼくたちの対応が変わってきてしまうんだ。連中がザカラス城にいるなら、ぼくたちはザカラス城に駆けつけて、アイル王の救出と城の解放を同時にする。でも、セイロスたちがすぐにザカラス城を離れたら、城はそれで自動的に解放

されるから、アイル王の救出だけをすることになる。セイロス軍は非常に速いから、後を追いかけてもきっと間に合わない。連中の行き先を読んで先回りをしなくちゃいけないんだ」

「敵の行き先を読み間違えると、全然違う場所で待ち伏せするようになっちゃうのね。それじゃ確かにアイル王を助けられないわ」

 とルルが納得します。

 

 すると、ザカラス城の司祭長が言いました。

「このロムド城には天下に名だたる占者殿がいらっしゃいます。あの方ならば、敵がどういう動きに出るか占いで読めるのではありませんか?」

 フルートはその話が出てくることを予想していたので、すぐに答えました。

「それは無理なんです。確かにユギルさんはすばらしい占者ですが、戦争は変化が早すぎるうえに、セイロスやその軍勢が占いの目から隠されてしまったので、ほとんど先読みすることができないんです」

 ゴーリスがそれを補足しました。

「こっちに大占者がいることは向こうも承知しているから、対策を打ってきたんだ。セイロス軍は昨夜からユギル殿の占盤にまったく映らなくなってしまった。占えないように、自分たちに魔法をかけたんだろう。しかも、ザカラス城は魔法に守られた要塞(ようさい)だから、たとえばポポロが透視をしようとしても、中の様子をうかがうことは不可能だ」

「それじゃ、どうしたらいいんだ!?」

 とトーマ王子は思わず声を上げました。話し合いの始めから難しい状況になりそうで、気が気ではありません。

 ポチは安心させるように王子に尻尾を振って見せました。

「ワン、そのためにオリバンたちが偵察部隊になって行っているんですよ。いくら魔法で見えないようにしておいても、実際に近くまで行けば、ちゃんと見えてしまうんだから」

「アオ、チノ、ワ、ダ?」

 と赤の魔法使いが空中へ尋ねるように言って、そのまま耳を澄ましました。オリバンたちのそばにいる青の魔法使いに、様子を尋ねたのです。じきに、またムヴア語でひとしきり話します。ポチがすぐに全員へ通訳しました。

「ワン、ザカラス城の中の軍勢に、動きはまだ見られないそうです。ただ、城の煙突から煙が昇っているのが見える、って」

「ってことは、連中は暖炉で火をたいてるんだね」

 とメールが言うと、ポポロも言いました。

「お料理もしているかもしれないわ……。今すぐお城から動くつもりはないみたいね」

 フルートはうなずき、考えながら言いました。

「北からは三万ものセイロス軍の本隊が近づいている。セイロスはそれが合流するのを待っているんだろう。問題は、その後の連中の行動だ。城に留まるのか離れるのか。離れるなら、それはいつなのか――」

 セイロスたちが当分ザカラス城に留まるならば、フルートたちはザカラス城を攻めることになります。けれども、セイロスたちが出発すれば、戦いは野外戦になるし、両軍がぶつかる場所によっても、状況は本当に変わってきてしまうのです。作戦を絞り込むことができなくて、フルートは悩み続けます。

 

 すると、ゴーリスがまた言いました。

「連中がザカラス城を離れるのは、そう先のことではないと思うぞ。留まっていたくても、できなくなるはずだからな」

 一同はゴーリスに注目しました。

「どうしてそんなことがわかるんだよ?」

 とゼンが聞き返します。

「食料がなくなるからだ――。ザカラス城は大きな城だから、普段からかなりの備蓄があるはずだが、三万を超す人間が駐屯してみろ。あっという間に城中の食料を食い尽くすに決まっている。そうなれば周囲から集めなくちゃならないんだが、連中は城下のザカリアに火を放って焼け野原にしてしまったし、都の周囲の畑もまだ麦が実る時期にはなっていない。城にも周りにも食料がないとなれば、それ以上、城に留まることはできなくなるんだよ。食料がない城に籠城することほど、悲惨な戦いはないからな」

 なるほど、と一同はとても納得しました。

 フルートがまた考えながら言います。

「そうだとしたら、敵はまもなくザカラス城から出発することになる。連中がどちらに向かうのか、それを予想しなくちゃいけないんだ。北から来たんだから、次は南か、東か、それともザカラスの領内を荒らし回るつもりなのか……」

「我が国は水運の国だ。船で西の海へ乗り出していく可能性もある」

 とトーマ王子が言ったので、フルートはいっそう考え込んでしまいました。範囲が広すぎて、やっぱり作戦を絞り込むことができません。

 

 ところが、ザカラスの宰相が口を開きました。

「失礼ながら、敵はもっと長期間、城に留まる可能性があります。二ヶ月、いえ、三ヶ月はゆうに籠城できるでしょう」

「ザカラス城にはそんなにたくさん食料があるんですか?」

 とフルートが驚くと、ザカラス宰相はうなずきました。

「敵が迫っているという知らせが届いたときに、陛下が集められるだけの物資を城に集めるよう、ご命令になったのです。ザカラス城の住人と正規兵が二年は持ちこたえられるくらいの量で、一部は避難者に分け与えましたが、ほとんどは城の中に残っております。三万人が駐屯したとしても、そう簡単に食い尽くせる量ではありません」

 勇者の一行は目を丸くしました。

「アイル王はなんでそんなに食料を集めたの?」

「そうさ。戦わないで城を捨てるつもりでいたんだろ? どうして食料を敵に与えるような真似をしたのさ?」

 ルルやメールはしきりに不思議がりましたが、フルートはすぐに察しました。

「そうか、アイル王はセイロスたちを引き留めようとしたんだ……!」

「ワン、セイロスたちがザカラス城から離れないようにするために?」

 とポチが聞き返します。

「そうだ。セイロスたちが城を出発すれば、次にどこに向かうのかわからない。ぼくたちは連中を捜し回ることになるから、常に後手(ごて)に回る羽目になる。だけど、連中がずっとザカラス城に留まっていれば、ぼくたちは迷わずそこへ攻撃することができるんだ」

「ははぁ。俺たちが狩り場に餌を仕掛けて、獲物が餌を食ってる間に仕留めるのと同じことか」

 とゼンがいかにも狩人らしい納得のしかたをします。

 ゴーリスも、ふぅむとうなりました。

「敵に城と食料を与えて、一つの場所から動けなくするか。降伏したように見せておいて、こちらが攻撃するのに絶好の状況を作ったんだ。確かにアイル王は聡明な王だな」

 ロムド城の重臣にそんなふうに感心されて、トーマ王子やザカラス宰相たちは、思わず泣きそうになりました。見た目はどんなに頼りなくても、自分たちの王は賢い。それは彼らがずっと感じ続けてきたことだったのです。

 

 フルートはゴーリスに尋ねました。

「こういう状況の場合、どういう攻撃方法が一番効果があるんだろう?」

 ご意見番に意見を求めたのです。

「敵が城にこもっている場合は攻城戦だな。できるだけ味方を多く集めて城を取り囲み、降伏を迫るんだ。ただし、長期戦に持ち込むのは避けろ。攻城戦は往々にしてそうなりやすいんだが、大軍を長期間城の周りに配置しておくと、こちらもじきに物資が尽きてくる。向こうの食料もなくなっていくが、それより先にこちらが飢えるから、包囲をやめる羽目になったり、決着を焦って敵へ無謀な攻撃をしかけることになったりするんだ。そんな状況になったら、結果は最悪だぞ。城を攻めるならば、できるだけ素早く落とす。これが鉄則だ」

「でもさ、ザカラス城はすごく守りが堅いよ? どうやって素早く攻め落とすのさ?」

 とメールが聞き返しました。切り立った山の中腹に、頑丈な城壁と堀代わりの水路を巡らしたザカラス城は、難攻不落の要塞なのです。

「それを考えるのが総司令官の役目だ」

 とゴーリスは答えると、真剣な表情で考え始めたフルートを示して見せました――。

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