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第21巻「ザカラス城の戦い」

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41.捜索

 「城の裏側っていやぁ、このあたりのはずなんだけどな。秘密の通路はどこにあるんだ?」

 山の裏手に回った勇者の一行は、麓の森を飛び回って、通路の出入り口を探していました。

 すっかり日が暮れてしまったので、森の中は真っ暗です。フルートやメールにはもう何も見えないので、通路探しはゼンと犬たちとポポロに任されていましたが、木立や岩などが重なり合っているので、その中に出入り口を見つけるのはかなり困難でした。

「ねえ、魔法使いの目では見当たらないの?」

 とルルに聞かれて、ポポロは困ったように答えました。

「さっきからずっと調べてるんだけど、それらしい場所が見つからないのよ。出入り口なら、きっと扉があるはずなんだけど……」

 すると、フルートが言いました。

「魔法で隠してあるんだろう。扉を探すんじゃなくて、地面のほうをよく見てくれ。大勢がそこから脱出しているんだから、地面が荒れていたり、足跡が残ったりしているはずだ」

 暗闇を見通すことはできなくても、推理力は抜群のフルートです。捜索隊は今度は地面を見ながら飛んでいき、じきにゼンが声を上げました。

「あったぞ! 大勢が通った痕だ! 間違いねえ!」

 犬たちはゼンが指さす先へ舞い降りて、ひくひくと鼻を動かしました。

「ワン、本当だ! すごく大勢の人が歩いて行った痕が、落ち葉の上に残ってますよ!」

「たくさんの人間の真新しい匂いも残っているわよ! 武器や防具や馬の匂いも! 間違いなく、ザカラス城から避難した人たちが通った痕ね!」

「元をたどろう。そこが秘密の通路の出入り口だ」

 とフルートが言ったので、ポチとルルは犬の姿に戻りました。地面のすぐ上を変身した姿で飛ぶと、風で地面の落ち葉を吹き飛ばして、大事な痕跡を消してしまうからです。

「足跡を追うなら俺に任せろ」

 と今度はゼンが先頭に立ちました。久しぶりで猟師の本領発揮です。犬たちも地面に鼻を押しつけて、匂いをたどりながら歩き出しました。フルートとメールの二人は相変わらず暗くて何も見えないので、ポポロに手を引かれて歩いて行きます。

 

 すると、ただ歩くことしかできないメールが、文句を言い出しました。

「なんか悔しいなぁ。ここは森の中なんだし、あたいも一緒に捜索したいのにさ!」

「しかたないさ。金の石や灯り石の光でも、夜の中では意外なくらい遠くから見えるからな。セイロスやランジュールに見つけられたら大変だ」

 とフルートが答えたとき、靴先が地面から出ていた木の根にひっかかりました。つんのめって、体勢が崩れます。とっさに手を離したのでポポロは無事でしたが、代わりにフルートは勢いよく転んでしまいました。ガシャン! と鎧兜が派手な音をたてます。

「どうした!?」

「ワン、大丈夫ですか!?」

 ゼンや犬たちが驚いて引き返してきたので、フルートは急いで立ち上がりました。魔法の鎧兜を着ているので、転んでも怪我はありません。

「ごめん。ちょっとつまずいただけだから大丈夫――」

 と言いかけたところに、すぐ近くの木立の陰から声がしました。

「そこにいるのは何者だ!? 敵か!?」

 年配の男性の声です。フルートたちはいっせいに身構え、木立の奥を見透かしました。

「そっちこそ誰だ!? なんでそんなとこに隠れてやがる!?」

 とゼンがどなり返すと、また声が言いました。

「その姿、ザカラス正規軍ではないな! やはり敵の追っ手か!」

 木立の奥からいきなり青く燃える火の玉が飛んできたので、ポポロが叫びました。

「よけて! 魔法攻撃よ!」

 けれども、警告は間に合いませんでした。魔法の炎がうなりを上げてゼンを直撃します――。

「ま、俺は別にどうってことないんだけどな。いつものようによ」

 炎が防具に触れたとたん四散したので、ゼンはそんなことを言いました。一瞬本気で心配したメールが、なにさ、もう! と声を上げます。

 

 木立の奥では魔法の主が仰天する気配がしていました。逃げ出す足音も聞こえたので、犬たちは後を追って駆け出しました。うなり声ともつれ合う音に続いて、大きな悲鳴が上がります。

 仲間たちも急いで木立の奥へ駆けていきました。様子が見えなくてはどうしようもないので、フルートは用心しながら鎧の下からペンダントを引き出します。すると、淡い金の光が長衣を着た老人を照らし出しました。地面に倒れ、足や腕を犬たちにかみつかれて悲鳴を上げ続けています。

「よせ、ポチ、ルル!」

 とフルートが言うと、ルルが老人を放して言い返しました。

「しかたないのよ! この人、魔法使いなんですもの。私たちに魔法で攻撃しようとしたから、先手を打ったのよ!」

 すると、そこへもっと奥まった場所から、また別の人物が姿を現しました。その場の様子を見ると、大声を上げます。

「やめてください! 我々は怪しい者じゃありません! 国王陛下の側近です、金の石の勇者殿――!」

 おっ、とゼンは声を上げ、他の者たちもその人物を見ました。いかにも貴族らしい上品な身なりをした中年の男性で、布の袋を大切そうに抱えています。

「ぼくたちをご存じでしたか。あなたたちはどなたです?」

 とフルートは男性に近づいていきました。それにつれて金の光が移動して長衣の老人を照らしたので、犬たちがかみついた痕がたちまち消えていきます。老人はびっくりして起き上がり、改めてフルートたちを見て言いました。

「そうか、あなた方があの金の石の勇者の一行でしたか……。なのに知らずに攻撃などして、申し訳ありませんでしたな」

「あんた、ザカラス城の魔法使い? この前の闇の灰掃討作戦で、あたいたちのことを見かけてなかったの?」

 とメールが聞き返すと、老人は面目なさそうに答えました。

「いや、わしは魔法僧侶でしてな……。あの事件のときには、ちょうどミコンの大神殿を参拝する時期に当たっていて、作戦に参加していなかったのです。皆様が正規軍とは違う格好をしていたので、てっきり敵に操られた兵士たちだと思い込みました」

 

 フルートは二人の前に立って、改めて言いました。

「ぼくは金の石の勇者のフルートです。こっちが仲間のゼンとメールとポポロ、犬たちはポチとルル。あなたたちはアイル王の側近だとおっしゃいましたよね? どこからいらしたのですか? アイル王は今、どこでしょう?」

 たたみかけるような質問に、側近の二人は一瞬返事にためらいましたが、すぐに中年の男性のほうが姿勢を正して答えました。

「私はザカラス宰相のドラティと申します。こちらはザカラス城の寺院の司祭長で、魔法僧侶のニーキ殿。我々は国王陛下の勅命(ちょくめい)を受けて、ロムド国へ向かうところでした――。ロムドの誉れである金の石の勇者の皆様方にお願いいたします。我々をロムド城へお連れください。陛下は、皇太子殿下がロムド城に到着されているはずだ、とおっしゃいました。殿下にお渡ししなくてはならないものがあるのです」

「あら、トーマ王子なら確かにお供の術師とロムド城に着いているわよ。今日の日中、私たちが国境から運んだんだもの」

 とルルが答えると、おお! と二人はまた声を上げました。司祭長は空を振り仰いで溜息をつき、宰相のほうは布の袋を胸に抱きしめてうつむいてしまいます。

 そんな二人の反応に、ポチは首をかしげました。彼らからは、安堵と共に胸が痛くなるような悲しみの匂いが伝わってきたのです。

 フルートも眉をひそめて言いました。

「アイル王はやっぱり城に残られたんですね? あなた方二人を城外に逃がして――。わかりました、あなた方をロムド城にお連れします。その代わり、教えてください。ザカラス城から逃げ出すのに使った秘密の通路の出口はどこでしょう? ぼくはアイル王を助け出してから後を追います」

 ええっ、と仲間たちはいっせいに身を乗り出しました。

「フルートったら、また一人でやるつもりでいるね!?」

「あたしも行くわよ、フルート……!」

「ワン、もちろんぼくは一緒ですよね!? アイル王を連れて行くのに、風の犬は必要なんだから!」

「あら、だめよポチ! あなたが宰相さんたちをロムド城へ運ぶの! フルートと残るのは私のほうよ!」

 ゼンは腕組みして、黙ってフルートをにらみつけていました。俺を連れて行かないと承知しねえぞ、と目が言っています。

 

 宰相は懸命に訴えました。

「お願い申し上げます、我々をトーマ殿下の元へお連れください! 国王陛下にはお考えがあるのです! 我々が殿下のところへたどり着けなければ、陛下のこれまでのご努力がすべて水の泡になってしまいます!」

 アイル王の考え? と一行は目を丸くしました。

「って、何さ、それ?」

 とメールが聞き返しますが、宰相は強く頭を振りました。

「ここで申し上げるわけにはいきません! これを殿下にお渡しして、そのときに殿下にお伝えしろというご命令なのです!」

 宰相は胸に袋を固く抱きしめていました。何があっても途中で見せたり手放したりするつもりがないことを、態度で示しています。

 一行は困惑して顔を見合わせました。

「おい、どうする? いつまでもここでこうして言い合ってても、らちが明かねえぞ」

「ワン、そうですね。ここにじっとしていたら、セイロスたちに見つかるかもしれないし」

 けれども、フルートはまだあきらめていませんでした。

「教えてください。城に通じる出入り口はどこです? アイル王を城に残していくのは、あまりにも危険です。助け出します!」

 相変わらず、こうと決めたら頑として考えを曲げなくなるフルートです。

 司祭長は言いました。

「我々が通ってきた通路は、こちらからは開きません。開けるための装置は陛下の部屋の中にあるのです。敵が皆の後を追えないように、陛下が操作して通路を閉じられたので、我々が最後に通路から出た後、出入り口は閉じて、周囲の岩肌とわからなくなってしまいました。魔法僧侶の私にさえ、見つけることも再び開けることもできませんでした」

 思わず絶句してしまったフルートたちに、宰相がまた言いました。

「我々をロムド城へお連れください! これは国王陛下のご意志なのです! どうかお願いいたします!!」

 宰相の必死な声が、勇者の一行の耳と胸を打ちました――。

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