「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第21巻「ザカラス城の戦い」

前のページ

第2章 六王会議

4.六王会議

 大きな丸テーブルと椅子を置いたロムド城の一室に、各国の王や女王たちが集まり、席に着いていました。

 ロムド国の紋章のタペストリーを背にロムド王が座り、右側にはアイル王、メイ女王、ミコンの大司祭長、左側にはエスタ国王、テトの女王という順番で座っています。六人の王が一堂に会しているので、この話し合いは後に「六王会議」と呼ばれるようになります。

 また、同じ円卓には金の石の勇者の一行と、ロムド皇太子のオリバンと婚約者のセシルも席をもらっていました。テトの女王の隣にフルートが座り、ポポロ、メール、ゼン、セシル、オリバンという順番で座っています。ポチとルルはフルートたちの足元です。

 そして、それぞれの王たちの後ろには、王の重臣たちが控えていました。ロムド王の後ろにはリーンズ宰相、ワルラ将軍、ユギル、ゴーリス。エスタ王の後ろにはシオン大隊長。他の王や女王たちも一人二人の家臣を置いています。ミコンの大司祭長だけは供を連れてきていなかったので、後ろには誰もいませんでした。

 

 ロムド王が一同を見回して口火を切りました。

「よくぞ遠路はるばるお集まりくださった。書状などで知らせたとおり、この世界に大変な事態が起きている。脅威を排除して平和を取り戻すために、皆で情報を共有して話し合おう」

 それが会議の開会宣言でした。ロムド王の合図を受けて、リーンズ宰相が一歩進み出てきます。

「それでは、私から報告させていただきます――。ザカラス国の南西にある火の山は、昨年九月より噴火を始め、大量の火山灰をまき散らして、中央大陸中南部に大寒波を引き起こしました。ですが、これは普通の灰ではなく、闇を含んだ火山灰であったため、灰が降った地域では闇の生き物が活発化し、多数の闇の怪物が出没する危険な状況になりました。噴火は今年二月に沈静しましたが、空にはまだ大量の闇の灰が漂っていたため、これを拡散・無効化しようと、今年三月、ザカラスとロムドの魔法使いが、火の山があるメラドアス山地へ向かいました。ところが、そこで信じがたい事態が発生したのです――」

「闇の灰の中からデビルドラゴンが復活してきたのであろう。わらわたちは皆、それを知らされて、ここに集まってきているのじゃ」

 とテトの女王がさえぎるように口をはさんできました。わかりきっていることは報告しなくていいから、先を急げ、と言っているのです。

 リーンズ宰相は一礼してから続けました。

「各国の王の皆様方へ差し上げた書状は、念には念を入れて、安全に届くよう配慮いたしましたが、それでも万が一、途中で何者かに奪われたときの危険を考えて、最も重要なことは書き記しませんでした。それを陛下からお知らせいただくことにします」

 話は宰相からまたロムド王へ引き渡されました。諸王の注目を浴びながら、ロムド王が重々しく言います。

「デビルドラゴンは、大量の闇の灰だけでなく、フノラスドという名の怪物を取り込んで実体となった。それも、竜の姿ではない。人の姿をとって、この地上に再び降臨したのだ」

 ざわっと王や家臣たちが動揺しました。一方、ロムド城のメンバーと、復活に立ち会ったフルートたち、それにメラドアス山地にいたアイル王は驚きません。メイ女王も、何故かほとんど表情を変えずに、じっと椅子に座り続けていました。

「人の姿をとって地上に降臨したとは? デビルドラゴンが人間になったというのか?」

 とエスタ王が聞き返しました。

「そうだ。黒髪の若い男になって姿をくらませた。フノラスドの飼い主だったランジュールという幽霊も一緒らしい」

 とロムド王が答えたので、王や家臣たちはまたざわめきます。

 今度はテトの女王が尋ねました。

「我が国で内戦が起きたとき、デビルドラゴンは我が従兄弟のグルール・ガウスに取り憑いた。そんなふうに、奴がまた別の人間に取り憑いたというのか? だが、それは奴の戦い方としては、いつものことであろう。何故、人の姿をとって降臨した、などと持って回った言い方をするのじゃ?」

 エスタ王もまた言いました。

「あの闇の灰は我が国の南部にも流入していたから、わしも大元の灰の塊を占者たちに見張らせていた。それがある日を境に突然消滅したという報告も受けたが、その後に魔王が誕生した、とは誰も言わなかった。魔王がこの世界に生まれれば、占者たちは敏感に感じ取って、それを知らせるはずなのだが」

「そのいきさつについては、金の石の勇者に語ってもらおう」

 とロムド王はフルートへ説明役を引き渡しました。

 

 諸王やその家臣たちがいっせいに自分に注目したので、フルートはちょっとたじろぎましたが、すぐに背筋を伸ばすと、落ち着いた声で話し出しました。

「確かに、デビルドラゴンはこれまでいろんな人に取り憑いて魔王にしてきたし、動物などに乗り移って人の姿に変身したこともありました。でも、今回のはそれとはまったく違うんです――。今までは、デビルドラゴンはただの影の存在で、本体は世界の最果てに幽閉されていました。影だから、光があふれるこの世界に長時間存在することができなくて、自分を守る器にするために、闇の心を持つものたちに取り憑いて魔王にしたんです。だから、影の竜を中から追い出せば、魔王になった人はまた元に戻りました」

 諸王たちはそれには何も口をはさみませんでした。ここに集まっている王たちの国は、それぞれ魔王に苦しめられ、金の石の勇者の一行に助けられてきているので、その過程はよく知っていたのです。

 フルートは話し続けました。

「今回の奴の変化は、それとは違います。奴は闇の灰とフノラスドを取り込み、それを力に変えて、自分の実体を世界の最果てから取り戻したんです。復活してきた奴は人間の姿をしていますが、魔王よりもっとずっと強力な力を持っていて、非常に冷酷です。金の石の光を浴びせても、デビルドラゴンはそこから離れていきませんでした」

 王たちはまたざわつきました。闇に対して絶対的な力を持つ金の石が効かなかった、ということに、脅威を感じたのです。

 ところが、ミコンの大司祭長は不思議そうに言いました。

「たとえ人の姿になったとしても、デビルドラゴンが闇の存在である以上、勇者殿の魔石が放つ聖なる光には弱いはずです。それなのに、奴を消滅させたり弱らせたりすることはできなかったのですか?」

 鋭い質問でした。それに答えるには、もうひとつの大きな真実を語らなくてはなりません。

 実は――とフルートがまた話し出そうとすると、突然メイ女王が口を開きました。

「地上に降臨してきたデビルドラゴンの正体は、二千年前に奴と戦った金の石の勇者だからじゃ。戦って傷つき、瀕死になったデビルドラゴンと初代の勇者は、共に命を惜しみ、一つになることにした。その時から、デビルドラゴンは人の姿になった。奴が聖なる光に強いのは、元が人間だったからじゃ。奴は、闇に敗れた金の石の勇者の、なれの果てなのじゃ」

 メイ女王は非常に厳しい口調をしていました。まるで、一緒に会議の席に着いているフルートが、その金の石の勇者だとでもいうように、フルートをにらみつけています。

「何故それを?」

 とロムド王が驚くと、今度はセシルが突然立ち上がりました。メイ女王に負けないほど激しい口調で言います。

「義母上! それはフルートとはなんの関わりもないことだ、と何度も申し上げているではありませんか! 初代の金の石の勇者は、己の欲望に負けて世界の王になることを望み、デビルドラゴンと一つになってしまったのです! フルートはそんなことは断じて望みません!」

 話題が急に自分のことに変わったので、フルートはびっくりしていました。仲間たちも、何の話かわからなくなって、呆気にとられます。

 

 ロムド王はセシルの横に座る息子を見ました。

「どうやら、そなたたちはメイ女王には一足先に真実を語って聞かせていたようだな?」

 オリバンは渋い顔で座っていましたが、そう言われていっそう苦い表情になりました。

「メイ女王は賢い方です、父上。私たちが国境まで出迎えに行ったとき、女王はすでに、デビルドラゴンは人の姿をとって、人間の間に気配を消しているのではないか、と気づいておいででした。誰が新たな魔王になったのだ、と尋ねられ、話しているうちに、初代の金の石の勇者が復活したことを告げることになりました」

「でも、それでどうしてフルートが疑われるわけさ!? デビルドラゴンになったのはセイロスなんだよ! フルートは無関係だよ!?」

 とメールがメイ女王へ言い返しました。女王は敵を見る目で、フルートを見ていたのです。

 メイ女王はますます厳しい口調になって言いました。

「フルートはその身の内に願い石を持っている。己の願いをなんでも一つかなえ、その引き替えに破滅を招き寄せる魔石じゃ。初代の勇者とまったく同じなのじゃ」

 フルートたちは本当に驚きました。フルートが願い石を持っていることを、彼らはメイ女王に教えた覚えはなかったのです。

 すると、オリバンが苦い顔のまま言いました。

「ハロルドが語ったのだ。メイ皇太子の――。メイ城でハロルドを闇から救うために戦ったとき、フルートと金の石を守って、願い石の精霊が姿を現した。その時に我々が願い石の名も呼んだので、後にハロルドが調べて、フルートが願い石を持っていることに気づいたのだ」

 その続きを、セシルが引き継ぎました。

「ハロルドはその事実を義母上に話して聞かせた。むろん、ハロルドはただ、自分が気がついたことを語って聞かせただけだ。だが、義母上は願い石を持ったフルートが、いつか自分の欲望のために世界を破滅させるのではないか、と考えた。そして、初代の勇者が願い石に負けてデビルドラゴンになったと知ると、あろうことか――義母上は――」

 怒りのあまり、セシルはそれ以上ことばを続けることができなくなりました。男装した体を震わせ、胸を激しく上下させてあえぎます。

 すると、メイ女王自身が言いました。

「フルートは初代の勇者と同じように願い石を持っている。フルートがその誘惑に負けて、初代の勇者の元へ走り、共にデビルドラゴンとなる可能性は高いであろう。我々は最も危険な竜の子どもを、味方と信じ込んでいるのじゃ」

 女王の声は、裁判の席で被告の罪状を読み上げている人のように、堅く厳しく響きました――。

素材提供素材サイト「スターダスト」へのリンク