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第20巻「真実の窓の戦い」

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126.決戦・2

 地面に倒れたセイロスが、ゆっくり立ち上がってきました。怪力のゼンに殴られたのですが、応えている様子はありません。自分の背丈より長い黒髪を後ろへ払いのけると、ゼンや頭上のフルートやポチを見て言います。

「勇者を守る者たちが登場か。まったく軟弱な勇者だな」

 なんだとぉ!? と腹をたてたのは、フルートではなくゼンでした。拳を握ったままどなります。

「フルートはてめえより強いぞ! なにしろ、願い石の誘惑にも負けなかったんだからな! てめえこそ、願い石に負けてデビルドラゴンになった軟弱者だろうが!」

 セイロスはまた、ふふんと笑いました。整った顔、流れる長い黒髪、筋肉質な長身――邪悪で美しく、相手を圧倒する気迫も身にまとっているセイロスに、軟弱者という悪口はどうも似合いません。

「私は負けたのではない。願い石に私の願いをかなえさせ、私の野望を実現させる力を手に入れたのだ。私と素手でやり合いたいと言うのか、ゼン? よかろう、受けて立とう」

 とセイロスも両手を拳に握ったので、ゼンは拳を構えたまま深く身を沈めました。身長はゼンのほうがはるかに低いので、飛び出すのと同時に相手の下に潜り込み、顎の下からきつい一発を食らわしてやろうとします。

 ところが、とたんにフルートの声が響きました。

「よせ、ゼン! だめだ――!」

 ゼンは止まりませんでした。セイロスの魔法ならば、防具が防いでくれます。純粋な力の勝負ならば、ゼンは絶対に負けない自信があったのです。

 すると、セイロスが急に、握った右手を高く掲げました。その手の中に大きな剣が現れます。ゼンは、はっとしましたが、その時にはもうセイロスの目の前まで来てしまっていました。身をかわそうとしたゼンに、剣が振り下ろされます――。

 

 そこへフルートが飛び込んできました。ポチと一緒に急降下して飛び下り、自分の体でゼンをかばいます。

 がぎん、と堅い音をたててセイロスの剣が弾き返されました。ゼンとフルートはもつれながら地面に倒れます。

 セイロスはちょっと目を見張ってから、また薄笑いをしました。

「命拾いしたな、ゼン。これは私が魔法で取りよせた本物の剣だ。魔法ではなかったのだから、おまえを切り殺すことができたのだがな」

 フルートは跳ね起きて剣を構え、頭上のポチへ言いました。

「ゼンと離れろ! こいつはぼくが倒す!」

 ワン、とポチはまた急降下してゼンを拾い上げ、その場から飛んで離れました。

「なにしやがんだ、ポチ! 戻れよ!」

 と騒ぐゼンへ言い聞かせます。

「ワン、フルートの言うとおりにしてくださいよ。ゼンは魔法には強くても、剣の攻撃はまともに食らっちゃうんだから」

 そこへルルも飛んできて言いました。

「フルートは、セイロスを倒す、って言ったわよ。ついさっきまで、世界の最果てに追い返すんだ、って言っていたのに」

 倒す? と一人と二匹は上空からフルートを見下ろしました。その手が黒い大剣を構えているのを見て、また驚きます。

「ワン、炎の剣だ!」

「ってことは、本気でやるつもりなの……!?」

 ゼンは身を乗り出して地上を見つめました。優しい勇者と呼ばれる親友は、一撃必殺の武器を握ってセイロスと向き合っています。セイロスの正体はデビルドラゴンです。フルートのヤツ、闇の怪物と割り切って、剣で倒すことに決めたんだろうか? と考えます。

 

 一方、フルートもセイロスと向き合いながら、そうか……と考えていました。ずっと探し続けてきたものが、ついに見つかったような気がしていたのです。

 ユウライ戦記に書かれていた竜の宝の正体はセイロスでした。彼はデビルドラゴンと共にその力を身の内に取り込み、世界の最果てにデビルドラゴンとつながれた後、再び人の姿でこの世界に戻ってきました。それはつまり、この世界の生き物と同じ体を持っているということです。切れば血を流し、燃やせば灰になるのに違いありません。

 きっとこれが奴を倒す本当の方法だ、とフルートは考えていました。炎の剣でセイロスに切りつけて、その肉体を焼けば、デビルドラゴンを守る器は失われてしまいます。影の竜だった頃には、聖なる光を浴びても、セイロスの体へ戻ればまた力を取り戻すことができましたが、セイロスがいなくなれば、それも不可能になります。そこへ聖なる光を浴びせれば、きっとデビルドラゴンは完全に消滅するのです。

 フルートが剣を構えているのを見て、セイロスはまた冷笑しました。

「それでどうするつもりだ、フルート。貴様は人を殺すことができない。切りつければ相手を焼き殺す魔剣で、私を切れるはずはないだろう」

 影の竜の姿でフルートと戦い続けてきただけに、フルートの弱点についてもよく知っています。

 だからこそ、相手の隙を突くチャンスがある、とフルートは考え続けました。フルートが以前と同じように行動するはず、とセイロスが思いこんでくれれば、その油断を突いて切りつけることができるのです――。

 

 剣を構えたまま動かないフルートを見て、セイロスはまた冷ややかに笑いました。

「どうした、フルート。私を切らぬのか? できぬと言うなら、こちらから行くぞ」

 セイロスの剣が高く振り上げられました。うなりを上げて降ってきた刃を、フルートはとっさに剣で受けとめました。強烈な一撃が腕にじぃんと伝わってきます。

 セイロスはまた剣を振り上げ、振り下ろしてきました。それもフルートが剣で受け止めると、剣を引き、今度は上からと見せかけて横から切りつけてきます。

 フルートは剣を横にして攻撃を食い止めました。そのまま相手の剣を受け流して、体勢を崩したセイロスの胴へ回し蹴りをたたき込みます。

 セイロスは倒れ、地面に手をつきました。長い黒髪が宙を舞って広がります。

 フルートはセイロスの上へ剣を振り上げました。髪が黒い絹糸のように降っていく背中へ切りつけようとします。

 すると、セイロスがすぐに振り向きました。フルートの剣を剣で受け止め、弾き返します。

「踏み込みが甘いぞ、フルート! ためらったな!」

 と笑いながら立ち上がります。

 フルートは飛びのいて、また身構えました。セイロスの言うとおり、切り込みが浅かったので返されてしまったのです。ただし、それはわざとでした。相手の油断を誘おうと、ためらっているふりをしたのです。

「どうした! もう終わりか、フルート!?」

 セイロスがまた切りかかってきました。非常に強く鋭い太刀筋です。フルートは剣を受け止め、受け流して、今度は後ろへ飛びのきました。まともに受けとめていては、衝撃で腕がおかしくなりそうだったのです。力強い攻撃は、オリバンの戦い方にもどこか似ていました。真っ正面から戦えば、こちらが力負けしてしまいます。

 フルートは相手の横へ飛び、隙を狙ってまた切り込みました。力でかなわない相手には素早さで勝負するのが、フルートの戦い方です。攻撃はセイロスに防がれましたが、それも想定通りでした。セイロスが馬鹿にしたような笑いを浮かべて、こちらを見ています。フルートがわざと切り込みを甘くしていることは、見破られていません。

 

 チャンスは一度だけだ、とフルートは考えていました。フルートがためらうに違いないとセイロスが思った瞬間に、思いきり踏み込んでセイロスを貫く、あるいは切る。そうすれば炎の剣はセイロスを傷つけ、たちまちセイロスを焼き尽くしてしまいます。

 セイロスとにらみ合いながら、フルートは自分自身に言い続けていました。あれはデビルドラゴンだ。人を食い、人の姿に変わった闇の竜なんだ。あれは人間なんかじゃないんだ――と。

 考え続けるフルートを、セイロスは攻撃できずに迷っていると見たようでした。また薄笑いを浮かべて言います。

「どうした、フルート。いっこうに攻撃がないではないか。では、これならばどうだ? 少しは攻撃できるだろう」

 セイロスは構えていた剣を下ろしました。完全にフルートを馬鹿にしているのです。

 フルートは剣を構え直し、うわぁぁ!! と大声を上げながら突進しました。ぶざまなほど決死の表情で切りつけていくと、やはりセイロスに軽くかわされます。

 フルートは素早く身をひるがえしました。体を沈め、広がったマントで相手の視界をさえぎると、すっと冷静になって本当の攻撃に移っていきます。炎の剣を両手で握り、突きの体制を取ったのです。

 フルートの動きを追いかけてマントが流れ、その陰からセイロスが姿を現しました。やはり、油断してまだ剣を下げたままでいます。今だ! とフルートは心で叫びました。セイロスを鋭く見据えたまま、思いきり踏み込んで剣を突き出します。

 その切っ先の向こうには、無防備なセイロスの喉元がありました――。

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