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第20巻「真実の窓の戦い」

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125.決戦・1

 フルートとゼンは、風の犬のポチとルルに乗って丘を飛び下りました。魔法が生み出した壁を左右から迂回(うかい)して、フルートはセイロスの背後に、ゼンはセイロスのすぐ横に迫ろうとします。

 とたんに、ゼンは自分を見つめるセイロスの目に出くわしました。血のように赤い瞳が、岩壁を回ってきたゼンを真っ正面から見ていたのです。

 ぎょっとしたゼンは、ルルに言いました。

「下りろ、早く!」

 とたんに黒い光の弾が飛んできました。おなじみの魔弾ですが、セイロスはそれを手からではなく、体全体から撃ち出していました。かわすのが間に合わなくて、弾がゼンを直撃します。

 ゼンが黒い光と黒煙に包まれたのを見て、セイロスは冷笑しました。高貴さを感じさせる顔ですが、そこに浮かぶ表情は、どす黒い悪意に彩られています。

「他愛もない。影の姿の時には、よほど力が集まらなければ攻撃もできなかったが、肉体を取り戻した今は、力の加減をする必要もない。勇者の一行など敵ではないな」

 

 ところが、魔弾の光と煙が風に散らされると、ゼンがまた元気な姿を現しました。

「残念だったな、セイロス! 俺に魔法攻撃は効かないんだぜ!」

 と自分の防具をばんとたたいて見せます。宝石のような青い胸当てには、銀に縁取られた鷹(たか)が浮き彫りになっています。

 セイロスは眉をひそめました。

「そうだったな。おまえはあらゆる魔法を解除する防具をつけているのだった。では、それを外してやろう」

 とゼンへ改めて目を向けます。

 ところが、ゼンには相変わらず何も起きませんでした。防具が外れて落ちることもありません。

 ゼンは得意になって言い続けました。

「へっ、何やってやがる! 魔法を解除する防具なんだから、防具を外す魔法だって、やっぱり解除されるのに決まってんだろうが!」

 セイロスはまた両手を広げて、怪訝そうな顔をしました。思ったように魔法が使えないことに、納得がいかないようです。

 その頭上へゼンは飛び下りました。落下しながら拳を振り下ろします。

「食らえ、この竜野郎!」

 とたんにセイロスは後ろに下がりました。ゼンの拳が空振りしたので、ゼンはバランスを崩しながら着地しました。セイロスの前で深くかがんでしまいます。

 セイロスは手を伸ばしてゼンの頭をつかまえました。むき出しになっている頭へ、直接魔法をたたき込みます。

 けれども、それでもやっぱりゼンは無傷でした。セイロスの魔法はすべて防具が解除してしまいます。

「いつまでつかんでやがるんだよ!」

 とゼンは言うと、首を大きくねじってセイロスの手を振り切り、そのまま回し蹴りを繰り出しました。またセイロスが下がったので、ゼンの足が相手の長い髪をかすめます。

 その時、セイロスの背後で、ガシャン、と大きな音がしました。金属が地面にぶつかった音です。セイロスが振り向くより早く、フルートの声が響きます。

「光れ、金の石!」

 ゼンがセイロスの前方で注意を引いている間に、フルートが背後に飛び下りて、ペンダントを突きつけたのです。金の光がセイロスを背中から強く照らします――。

 

 ところが、セイロスはまるで影響を受けませんでした。聖なる光で照らされても平然としていて、その体も、闇の怪物のように溶け出すことがありません。

 驚いているフルートへ、セイロスが言いました。

「無駄だ。私は赤いフノラスドのマントを着ている。聖守護石は私には効かん」

 それと同時に魔弾がフルートの顔へ飛びました。至近距離なので、フルートはかわせません。

 すると、ペンダントの魔石がまた輝きました。金の光が魔弾を砕いて消し去ります。

 ふん、とセイロスは鼻を鳴らしました。

「私と小石になった聖守護石の力が同等ということか。面白くない話だな」

 フルートはまだペンダントを構えていました。セイロスからはすさまじい威圧感が伝わってきますが、負けずに言い返します。

「いいや、こっちのほうがおまえより強い! もう一度だ、金の石! セイロスを世界の最果てへ追い返すぞ――!」

 ぼろぼろになりながらセイロスを止めようとしていた、二千年前の精霊の姿がまた思い浮かびました。セイロスを呼ぶ悲痛な女性の声は、今もフルートの耳の底に響いています。フルートはペンダントを強く握りしめ、魔石へ想いを送り続けました。セイロスから出ていけ、デビルドラゴン! それがかなわないなら、共にまた世界の最果てへ戻っていけ――! 強い想いに応えるように、魔石も強く明るく輝きます。

 

 けれども、やっぱりセイロスは溶けることも、逃げて消えていくこともありませんでした。赤いフノラスドが変化したマントが、聖なる光をさえぎってしまうのです。

 やがて、金の石は力尽きたように光を収めていきました。輝きが薄れて、ただ暗く明るく脈動するだけになってしまいます。

 立ちすくんだフルートへ、セイロスが言いました。

「貴様に私を倒すことはできない。貴様は私の二番煎じにすぎないのだからな。消えぞこないの石と共に死ぬがいい」

 また大量の魔弾が襲ってきました。フルートを包んだ金の光に、雨あられと降りそそぎ、フルートは身動きがとれなくなってしまいます。

 すると、フルートの手の中で、ペンダントが小さく、ぴしり、と音をたてました。闇の集中攻撃に、金の石のほうが力負けを始めたのです。金の石、しっかり! とフルートは叫びますが、ぴしぴしと不吉な音は聞こえ続けます。

 そこへ赤い光が湧き起こって金の光に重なり、フルートのすぐ隣に、赤い髪とドレスの女性が姿を現しました。無表情のまま、降りそそぐ魔弾の雨を見上げ、それを繰り出しているセイロスへ目を向けます。

 セイロスはまた、にやりとしました。

「願い石か。おまえとも二千年ぶりだ。おまえのおかげで、私は強大な力を手に入れることができた。私はこの力で世界をひとつに束ねていく。私は世界の王になるのだ。それもこれも、おまえが願いをかなえてくれたおかげだ。感謝しているぞ」

 願い石の精霊はやはり表情をまったく変えませんでした。淡々とした口調で言います。

「私は私の役目に従って、そなたの願いを聞き届けただけだ。闇の竜を己(おのれ)の中に招き込んだのは、そなた自身の心。それを決めたのは私ではない」

 ふふん、とセイロスはまた鼻で笑いました。精霊に言われたことは無視して、話題を変えます。

「それで? おまえは何をしに現れた。フルートの願いをかなえようと言うのか? だが、そいつは私の消滅を願うこともできない臆病者だぞ」

 願い石の精霊は少しの間、何も言いませんでした。やがて、ゆっくりとフルートへ目を移しながら、口を開きます。

「フルートは臆病者ではないだろう。私は、彼に呼ばれて出てきたのだから……。願い事は決まったか、フルート? ならば、それを言うがいい」

 フルートは驚いて目を見張りました。願い石を呼んだつもりなどなかったからです。あわてて大きく首を振ると、精霊の女性は、そうか、と言い、すぐに話し続けました。

「守護のはセイロスの闇の力に負けて消えかけている。だが、私はフルートに力を与えることができないのだ。フルートは先ほど私からの力を限界まで受けた。今、ここでまたフルートに力を与えれば、今度はフルートの体が力に負けて消滅してしまうだろう」

 それだけを言い残して、願い石の精霊は消えていきました。彼女は何故出てきたんだろう、とフルートは呆気に取られていました。本当に願い石を呼んだつもりなどありませんでした。まるで時間稼ぎでもしているような出現です――。

 

 すると、突然ゼンが背後からセイロスに飛びかかってきました。セイロスがフルートや精霊に気を取られている隙に、音もなく迫っていたのです。セイロスを地面に殴り倒すと、魔弾の雨はぴたりとやみました。金の石から聞こえていた音も止まります。

 ゼンがセイロスへどなりました。

「いいかげんにしやがれ、このすっとこどっこいの陰険野郎! フルートも金の石も、てめえには絶対殺させねえぞ! 俺たちが一緒にいるんだからな!」

 そのとたん、空からポチが舞い下りてきました。フルートを風の体で巻き取って、空高く運び去ってしまいます。

「俺には魔法は効かねえ! そうなれば、力と力の勝負だ! 素手の勝負と行こうぜ、セイロス! 喧嘩なら、絶対俺は負けねえからな!」

 そう言って、ゼンは二つの拳を構えました――。

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