空から丘へ闇の色の稲妻が降ってきました。
丘にはフルート、ゼン、メール、ポポロ、ポチとルル、それに白、青、赤の三人の四大魔法使いが立っています。稲妻は巨大な光の柱で、一同を直撃しようとします――。
けれども、それは彼らの頭上で砕けて飛び散りました。一同を金の光が包んでいます。
「金の石!!」
とフルートたちは歓声を上げました。精霊の少年はもう姿を消していますが、代わりに魔石が輝き、守りの光で一同を包み込んだのです。
丘の下のセイロスが、いまいましそうな表情になりました。
「消えそこないのちっぽけな石が、無駄なあがきをする。もう一度だ。今度は聖守護石も防ぐことはできんぞ」
ことばと同時に、先よりもっと大きな稲妻が降ってきました。セイロスの魔法は、あっと思った瞬間にはもう襲いかかってくるので、よけることもかわすこともできません。
けれども、すでに青の魔法使いが自分の杖を掲げていました。黒い稲妻が彼らの頭上で止まって、ばりばりと音をたてます。
「来ると思ってましたぞ! そぉれ、お返しだ!」
ぶん、と武僧の魔法使いが杖を振り上げると、黒い稲妻は向きを変え、丘の下へと飛んでいきました。立っていたセイロスを直撃して、激しい火花と土煙を上げます。
やった! とメールやルルが思わず言うと、女神官は首を振りました。
「今のは奴が繰り出してきた魔法を返しただけです。まだまだ――」
そのことばどおり、土煙が収まると、セイロスが無傷のまま姿を現しました。自分の両手を見つめて、怪訝(けげん)そうな顔をしています。
その唇が何かをつぶやいているように見えたので、フルートは犬たちに言いました。
「聞き取れ、奴はなんて言ってる!?」
ポチとルルはぴん、と耳を立てて丘の麓へ向けました。じきに、ポチが言います。
「ワン、セイロスは不思議がってますよ。威力が小さい、こんなはずはないのに、って言ってます」
「どうやら思ったように力が発揮できないみたいね。二千年ぶりで戻ってきたからかしら」
とルルも言います。
その時、赤の魔法使いがようやくフルートから手を離しました。
「タ、モ、ブダ」
「赤が大地の力を使って、勇者殿に守護魔法をかけました。もう大丈夫、奴に力を奪われることはありません」
と女神官が通訳します。
ありがとう、とフルートは飛び起きると、仲間たちへ言いました。
「セイロスがまだ力を充分発揮できない今がチャンスだ! セイロスに聖なる光を浴びせて、奴をもう一度、世界の最果てに追い返すぞ! ポチ、ぼくを乗せるんだ! ゼンはルルと一緒にぼくの援護! ポポロとメールはここで待機。白さん、二人を頼みます!」
「そんな、フルート! あたいたちは置いてきぼりかい!?」
「あたしもいくわよ……!」
と少女たちが少年たちを追いかけようとすると、フルートが振り向いてまた言いました。
「メールは花を吹き飛ばされたし、ポポロも聖水の雨を降らせて、今日の魔法はもう使い切っている。ここにいてくれ」
「そうだ。足手まといになるから、ここで待ってろ!」
とゼンも言ったので、足手まといってなにさ!? とメールが怒ります。
すると、白の魔法使いがまた言いました。
「勇者殿たちが安心して戦えるようにすることは、立派な援護です。お二人は我々とここにおいでください」
女神官の言うことはもっともだったので、メールもポポロも無理やりフルートたちを追いかけることができなくなりました。涙をにじませて、少年たちの後ろ姿を見つめます。
フルートとゼンは打ち合わせを続けていました。
「奴の魔法は早いぞ。どうする?」
「隙を見てふところに飛び込んだら、奴の気を引いてくれ。その間にぼくは背後に回って聖なる光を浴びせる」
「肉弾戦か。それなら俺向きだな。任せろ」
そんな二人のやりとりに、足元にいたルルが驚きました。セイロスに接近したら、それこそ魔法を食らうんじゃないかしら、と心配します。
一方、ポチはセイロスの様子をうかがい続けていました。
「ワン、セイロスはこっちの作戦に気がついてないみたいだ。セイロスは離れた場所のやりとりを聞くことができないんだな」
それなら勝算があるかもしれない、と考えます――。
フルートは四大魔法使いに言いました。
「次に奴がまた攻撃してきたら、返して、さらに魔法攻撃を繰り出してください。その隙にぼくとゼンが出ます」
「わかりました」
「承知!」
「タ」
ロムドで最も偉大な魔法使いの三人が、即座にフルートの指示に従います。
とたんにポポロが叫びました。
「来るわ――!」
セイロスのいる方向で闇魔法が動く気配を感じたのです。その声が終わらないうちに、空から超巨大な黒い稲妻が降ってきました。丘全体を闇の光で打ちのめします。
けれども、今度は青と白の二人の魔法使いが、杖をかざして稲妻を受けとめていました。稲妻の威力がすさまじいのでしょう。女神官は歯を食いしばり、武僧は杖を握る手や首筋に青筋を立てています。
と、女神官が言いました。
「返せ、青!」
武僧はこぶだらけの杖をいっそう強く握ると、筋肉の浮き出た太い腕で、ぶん、と杖を大きく振りました。その杖に打たれたように、黒い稲妻がセイロスのほうへ飛んでいきます。
続いて女神官は言いました。
「赤、攻撃! 奴が何も見られないようにしろ!」
「ンチー、セ、ロ!」
猫の目の魔法使いは自分の杖で大地をたたきました。とたんに、たくさんの赤い光が湧き起こり、次々尾を引きながらセイロスへ飛んでいきます。セイロスは魔法で防ごうとしましたが、赤い光はそれをすり抜けて、セイロスに激突しました。攻撃を防げなかったので、セイロスがまたいまいましそうな顔になります。
「南大陸のムヴアの魔法使いか! 光と闇の戦いで私に協力することを拒んだくせに、今また私にたてつくつもりか!?」
その目の前に、地面から分厚い岩壁がせり上がってきました。飛んでくるムヴアの魔法攻撃を受けとめて防ぎます。
けれども、岩壁は同時にセイロスの視界もさえぎりました。丘の上にいるフルートたちがセイロスから見えなくなってしまいます。
「今だ!」
とフルートは叫び、変身したポチに飛び乗りました。ゼンも変身したルルの背中に飛び上がります。
「行くぞ! セイロスを世界の果てに追い返すんだ!」
フルートの声に、二匹は風の音をたてて空に舞い上がりました――。