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第20巻「真実の窓の戦い」

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第39章 交渉

117.限界

 フルートが両手でかざしたペンダントから、爆発のように光がほとばしりました。光の槍になって、まっすぐ闇の竜へ向かっていきます。

 ところが、光の槍は空中で跳ね返され、金の火花を散らしました。フノラスドの赤い首が変化した膜にさえぎられたのです。光は次々押し寄せますが、火花が激しくなるだけで、膜を破ることはできません。

「光を集中させるぞ!」

 と金の石の精霊が言い、光が範囲をせばめ始めました。光が寄り集まっていくので、光の槍がどんどん細く明るくなっていきます。その先端はフノラスドの赤い膜を照らしていました。狭い一点に集中して激突して、激しい火花を散らし続けます。

 フルートは、体の中を駆け抜けていく痛みに歯を食いしばって耐えていました。痛みは願い石がつかむ肩から金の石へと駆け抜けていきます。願い石から流れ込む膨大な力に、フルートの肉体が悲鳴を上げているのです。額から脂汗が流れ、ぎしぎしと体の奥で骨がきしみます。

 すると、ついに光が赤い膜を貫きました。光が向こう側へ抜け、さらに飛んでデビルドラゴンを照らします。

 オォォ……!!!

 影の竜は大きく体をよじって光から身をかわしました。黒い霧が寄り集まって、薄れた体がまた元に戻ります。

 フルートはそれを追ってペンダントを動かしました。光が赤い膜を切り裂いていきます。

 すると、ジャァァァ、とフノラスドの悲鳴も上がりました。赤い膜の先端に蛇の頭が残っていて、首を切られていく痛みに叫んでいます。

「あぁ! 赤ちゃんになんてことおぉ!」

 とランジュールも叫びました。フノラスドの首のまわりを飛び回りますが、幽霊の彼にはどうすることもできません。金の光はナイフのように膜を切り裂き、ついに膜の端までたどり着きました。蛇の頭の重みで膜がゆっくりとめくれていきます。その向こうに浮いているのは、四枚翼のデビルドラゴンです。

 フルートはまたペンダントを突き出しました。聖なる光で影の竜を照らします。

 再び体が崩れ始めた竜は、残った膜の後ろ側へ逃げ込んでいきました。そこで体を復活させようとします。

 フルートは大きく前へ踏み出しました。光を長く伸ばしているペンダントを剣のように振りかざし、勢いよく斜め下へ振り下ろします。

 すると、膜はすっぱり綺麗に切れ、蛇の頭と一緒に落ちていきました。残った膜は丸まって、赤い首に戻ります。切り離された頭と首は、たちまち空中に引っ込みました。どこにも見当たらなくなってしまいます。

 あぁぁ!! とランジュールはまた叫びました。

「強化した赤ちゃんの首を切り落とすだなんてぇ! キミ、どれだけ力いっぱい石を光らせてるのさぁ!?」

 けれども、フルートにそれに答えている余裕はありませんでした。守るものがなくなったデビルドラゴンへ、聖なる光を浴びせ続けます。竜の翼や体の輪郭がまたぼやけ、影が薄れ始めました。オォォォ、と地の底からデビルドラゴンの咆吼(ほうこう)が響いてきます――。

 

 ところが。

 竜を照らしていた金の光が、いきなりまた赤い膜にさえぎられました。弾き返された光が金の火花を散らします。

 なに!? とフルートと仲間たちは驚きました。空中からまた赤い蛇が頭を出し、首を広げて聖なる光をさえぎったのです。

 メールは大声を上げました。

「どうしてさ!? 赤い蛇はたった今、フルートに頭を切られたはずだろ!?」

「なんでこんなに早く治ってきやがる!? 闇の怪物でも早すぎるだろうが!」

 とゼンもわめくと、ランジュールが空中で、うふん、と笑いました。

「もちろん、さっきの赤ちゃんはまだ怪我したままさぁ。戦えないから、ちょっと引っ込んでもらってるよぉ。これはね、金ちゃんが変化した赤ちゃんだよぉ。いざって時に赤ちゃんの代わりになれるよぉに鍛え上げたんだ。金ちゃんが変身した赤ちゃんだから、名前は銅(あかがね)ちゃん。元が金ちゃんだから、さっきの赤ちゃんよりもぉっと丈夫だからねぇ。うふふふ……」

 この野郎、邪魔するな!! とゼンは空へわめき続けました。ポポロやポチやルルは心配しながらフルートを見つめます。フルートは顔を大きく歪め、脂汗を滝のように流していました。ペンダントでまた膜を照らしていますが、その腕がぶるぶると震えています。

 すると、ふいに地の底から声が響いてきました。

「闇ガ足リヌ!」

 それはデビルドラゴンの声でした。遠雷のようにも聞こえる声で言い続けます。

「聖水ト聖ナル光ガ、コノ地カラ闇ヲ追イ払ッタ! 我ヲココニ留メルニハ、モット闇ガ必要ダ!」

 影の竜の赤い目が周囲を見回し始めたので、四大魔法使いがいっせいに身構えました。周囲のどこかに闇があれば、デビルドラゴンはそれを吸収して、また復活してしまいます。闇が存在するのは、誰かの心の中かもしれないのです――。

 と、デビルドラゴンの目は空中のランジュールを見ました。確かめるように幽霊をじっと見据えます。

 あれれぇ、とランジュールは言いました。

「デーちゃんったら、ボクを吸収して体の足しにしよぉって言うのぉ? それってひどいなぁ。ボクはこぉしてキミを勇者くんから守ってあげてるのにさぁ」

 デビルドラゴンは何も答えませんでした。その背中で、ざわりと何かが動きます。それは無数の触手でした。伸ばして突き刺せば、相手の生気を吸い取ります。

 ランジュールは飛び回ってまた言いました。

「ちょっと、ちょっと、ちょぉっとぉ! 冗談はよそうよぉ、デーちゃん! ボクはこんなに小さな幽霊だよぉ? ボクを吸収したって、なんの足しにもならないじゃないかぁ!」

「無論、オマエダケデハ足リナイ」

 とデビルドラゴンがまた言いました。竜は目の前の空にいるのに、相変わらず地の底から響いてくるような声です。

「ダガ、オマエハ強大ナ闇ヲ連レテイル。オマエモロトモ、ソレヲイタダク――!」

 

 しゅるしゅるっと鋭い音をたてて、二本の触手が空を飛びました。一本は赤い膜を貫いて幽霊のランジュールへ、もう一本は膜を作っている蛇の頭へ伸びていきます。

 先に触手が突き刺したのは、銅色(あかがねいろ)の蛇の頭でした。ぐいぐいとめり込み、闇の気を吸い取り始めます。

「おぉっとぉ!」

 とランジュールは触手から身をかわしました。その前に黒い蛇の頭が出てきて、主人をかばいます。

 すると、触手は黒い蛇の首元にも突き刺さりました。やはり闇の気を吸い始めます。銅色と黒の蛇は、身をよじって苦しがりました。光をさえぎっていた膜が丸まって蛇の首になり、赤い色が薄れて金の蛇に戻っていきます。

「そら見ろ、ランジュール! デビルドラゴンを捕まえようなんて馬鹿なことを考えるからだぞ!」

 と地上からゼンがどなりました。メールはフルートに言います。

「今だよ! 赤い膜がなくなったから、一気にデビルドラゴンを照らして追っ払おう!」

 ところが、ペンダントは闇の竜を照らすことができませんでした。逆に光が弱まり、ふっと途切れてしまいます。次の瞬間、フルートが前のめりに倒れました。丘の上に両膝をつき、自分の体を抱いてうずくまってしまいます。

「フルート!!?」

 仲間たちと四大魔法使いが驚いて駆け寄る中、願い石の精霊がフルートから離れました。

「限界が来た。これ以上フルートへ力を送れば、フルートの体を破壊してしまう」

 冷ややかなほどの声でそう言うと、姿を消していってしまいます。気がつけば、金の石の精霊も姿が見えなくなっていました。フルートだけが地面にうずくまり、激しく震え続けています。

「魔法で治しましょう!」

 と青の魔法使いが杖を掲げると、白の魔法使いが止めました。

「よせ! 魔法は力だ。勇者殿に魔法を送り込めば、勇者殿の体は本当に限界を超えてしまうぞ!」

 そんな――と仲間たちは青くなりました。フルートはひどく苦しそうです。ポポロはフルートの背をさすろうとしましたが、とたんにフルートがうめいたので、びっくりして飛びのきました。緑の瞳がたちまち涙でいっぱいになってしまいます。

 どうしていいのかわからない状況の中で、彼らはうろたえ、立ちすくんでしまいました――。

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