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第20巻「真実の窓の戦い」

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112.魔法・1

 「雨を降らせる?」

 と仲間たちは聞き返してしまいました。フルートは、闇の灰を地上へ落として消すために、雨を降らせる、と言ったのです。

 ルルが風の頭をかしげました。

「確かに、雨を降らせれば灰は落ちるかもしれないわ。雨の量によるけれどね。でも、それは灰が地上に降るのを早めるだけのことでしょう? 雨で闇が消えたりはしないわ」

 フルートは首を振りました。

「降らせるのは普通の雨じゃない。聖水の雨だ」

 思いがけない答えに、仲間たちはまたびっくりしました。

「聖水を降らせようってぇのか!? あの馬鹿でかい雲に!?」

「それこそ、どうやって!? そんな大量の聖水、どうやって手に入れるつもりなのさ!?」

 ポポロも両手を頬に押し当ててとまどっていました。賢者たちの戦いでオリバンたちを助けるために、テト川の水を聖水に変えて水魔を撃退したことがありますが、この付近に聖水にできるような川や湖は見当たらなかったのです。一面雪におおわれた高原が広がっているだけです。

 すると、ポチが急にぴん、と風の耳を立てました。

「あ、ぼく、なんとなくフルートが何を思いついたのかわかったような気がします……」

 なになに!? どういう作戦だよ!? とメールやゼンが身を乗り出します。

 

 すると、もう一人の人物が顔を突き出してきました。

「なぁにぃ? どういうやり方で灰の雲を消すわけぇ? ぜひ聞かせてほしいなぁ」

 ランジュールが勇者の一行の間に現れて、話に割り込んできたのです。うわっ! と全員が思わず空で飛びのいてしまいます。

「ば、馬鹿野郎、脅かすな!」

「ちょぉっと! 聞かれてあんたに教えるはずないじゃないか!」

 とゼンやメールが言い返します。

 ランジュールは空中をふわふわしながら口を尖らせました。

「なにさぁ、けちんぼ。ボクにも聞かてよぉ。教えてもらわないと、キミたちを妨害しにくいんだからさぁ」

「邪魔されるとわかってて、親切に教えるわけないでしょう! ふざけないでよ!」

 どこまでもとぼけた幽霊に、ルルが金切り声をあげます。

 ランジュールは口を尖らせたまま離れていきました。

「いいよぉ、いいよぉ。どぉせ、お嬢ちゃんの魔法を使うことは確かなんだからさぁ。魔法を呑み込んじゃえば、何も怖くはないもんねぇ。それとも、お嬢ちゃんが魔法を言えなくしちゃおうかなぁ――。白ちゃぁん、合体! 大きくなって、お嬢ちゃんの魔法を防ぐよぉ!」

 呼ばれて、何十にも分裂していた白蛇が寄り集まって、二匹の白い大蛇に戻りました。シャァァと好戦的な声を上げます。

「ワン、早くしないと邪魔されますよ!」

 と焦るポチの背中で、フルートはポポロに耳打ちしました。作戦を具体的に伝えたのです。ポポロが驚いた表情になり、確かめるように自分の手を見つめます。

 フルートはまた声を大きくして言いました。

「大丈夫だ、ポポロ。君ならきっとできる。頼む」

 ポポロは、きゅっと口を結んでうなずきました。行く手の空に壁のように立ちはだかる雲へ手を向けます。

 

 ランジュールはフノラスドの近くへ戻ると、また白い頭へ呼びかけました。

「白イチちゃん、白ニィちゃん、ユラサイの呪文! お嬢ちゃんだけじゃなく、他の魔法使いもきっと邪魔してくるから、みんなまとめて魔法を封じちゃえぇ!」

 言われて一匹の白蛇が光のユラサイ文字を吐き出しました。もう一匹がそれを声に出して読み上げようとします。

 ところが、その途中で別の呪文が響き、光の文字が砕けました。マフラーを口に巻いた術師が、丘の上から呪符を投げて術を放ったのです。あぁ!? と驚くランジュールに、マフラーの術師が言います。

「言ったはずだぞ。ユラサイの術なら俺が防いでみせるってな」

「なっまいきぃぃ!!」

 ランジュールはますます腹をたてると、黒い蛇の頭をぽんとたたきました。

「黒ニィちゃん、でばぁん。あの生意気な術師のお兄さんに闇の息を全開ぃ!」

 けれども、黒い死の息は術師に届く前に光の壁に防がれました。若草色の長衣を着た娘が、障壁を張って防いだのです。

「させませんわ! マフラーさんは私が守ります!」

 術師の男は目を丸くしました。

「マフラーさんって俺のことか? 俺の名前はシン・ウェイだぞ、若草ちゃん」

「あなたこそ、若草ちゃんってなんですの? 私の名前はリリーナよ」

 と娘が答えます。この緊張した場面でどうでもいいようなことを言い合っていますが、二人とも視線はフノラスドを見据えたままです。

 ランジュールは空中で飛び跳ねました。

「もぉもぉ! なぁんでキミたちってそんなに仲良しさんになっちゃうのさぁ! フーちゃん、とにかく勇者くんたちを妨害! お嬢ちゃんには絶対魔法を使わせないよぉ!」

 ジャァァァ。

 八つの頭がいっせいに鳴いて動き出しました。空中のフルートたちへ首を伸ばし、闇の息、毒の息、炎、氷と口々に死の息を吐き出します。

 すると、白の魔法使いが叫びました。

「諸君、防げ!」

 とたんに高原全体から無数の魔法が飛んできました。フルートたちの上を飛び越え、死の息に激突して打ち消していきます。フルートたちに息は届きません。

 無数の魔法を放ったのは、ロムドとザカラスの魔法使いたちでした。女神官がまた言います。

「奴らに勇者殿たちの邪魔をさせてはならない! 勇者殿たちを守れ! 青、赤、我々はフノラスドを抑えるぞ!」

 おおぅ、と高原中から答えが返ってきました。ロムドの魔法軍団もザカラスの魔法使いたちも、完全に一丸になっています。

 

 その様子に、フルートは言いました。

「よし。行け、ポポロ! まず一つ目の魔法だ!」

 はいっ、とポポロは言って呪文を唱え始めました。

 ランジュールがまた声を上げます。

「来たよぉ、白ちゃんたち! お嬢ちゃんの呪文を呑み込めぇ!」

 二つの白い頭が、ポポロを乗せたポチに向かって飛んできました。フルートがポポロを背後にかばって剣を抜きます。

 すると、白い蛇が急に停まりました。頭の先だけは動き回って、ジャアジャアと言い続けますが、前に進むことができません。白い首のまわりには白、青、赤の光の輪が絡まっていました。丘の上の四大魔法使いが、強力な魔法で首の動きを停めてしまったのです。

 もうっ! とランジュールはわめきました。

「こうなったら力ずく! 黒ちゃんたち、闇魔法で拘束を破壊ぃ!」

 ジャッと三匹の黒い蛇が出てきました。口を開けて黒い魔法の光を放ちます。四大魔法使いの光の魔法に、それを上回る闇魔法をぶつけて、魔法の戒めを壊そうとしたのです。

 とたんに、赤い光が蛇の首から離れました。しゅるしゅると広がり、赤い光の網になって黒い光に飛びかかります。光の網は赤の魔法使いの魔法でした。反発することもなく闇魔法を包み込み、小さくなって消滅してしまいます。彼が使うムヴアの魔法は、闇魔法の抵抗を受けないのです。

 その間にポポロは呪文を唱え終えました。前に突き出した華奢な手には、緑の光が集まっています。彼女はその手をさっと動かしました。彼方に見える灰の雲ではなく、足元の地上へ向けて光を放ちます。

 ランジュールは驚きました。

「お嬢ちゃん、キミ、どこへ魔法を使うつもりさぁ!?」

 魔法の光はポポロの指先を離れて地面へ飛んでいきました。降り積もった雪に突き刺さると、その場所を中心に緑の光が広がっていきます。えぇ? とランジュールがますます呆気にとられます。

 

 すると、地面の雪が溶け出しました。緑の光がやってくると、一瞬で水になって水溜まりに変わり、すぐに低いほうへ流れ出します。地上は一面雪解け水でいっぱいになってしまいます。

 ポチが歓声を上げました。

「ワン、やっぱり雪を水にするつもりだった!」

 フルートはポポロに言いました。

「二つめの魔法だ! あの水を聖水の雨にして灰の雲に降らせろ――!」

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