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第20巻「真実の窓の戦い」

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第37章 魔法

111.本気

 闇の灰の雲が渦巻く空、四大魔法使いがいる丘、衛兵と魔法使いが立つ高原。彼らはフノラスドとランジュールを相手に必死で戦いましたが、敵はあまりにも強大でした。彼らの攻撃はすべてフノラスドの白い頭に呑み込まれ、他の頭がいっせいに攻撃の息を吹きつけてきます。闇、毒、炎、氷。どれも人間の命を確実に奪う死の息です。

 けれども、万事休すと思った瞬間、流星のように金の石の勇者の一行がやってきました。ポチに乗ったフルートが金の石で死の息を消滅させ、ゼンとルルが雪の中から飛び出した怪物を退治します。ポポロはフルートの後ろに座っているし、メールも花鳥で駆けつけています。

「どぉしてキミたちがここにいるのさぁ、勇者くんたち! キミたちが一緒だったなんて、聞いてなかったよぉ!?」

 とランジュールが上空でわめきました。まだ片手で右目を押さえています。

「ぼくたちはもともとザカラスに来ていた。用事で少しの間離れていただけだ」

 とフルートはポチの背中から答えました。フノラスドが攻撃する様子を見せたら、すぐにまた金の光を浴びせようと、ペンダントを構え続けています。

 一方、地上からはゼンがどなりました。

「おいこら、ランジュール! おまえは幽霊なんだから、怪我なんかするはずねえだろうが! いつまで負傷した真似をしてやがるんだよ!?」

 すると、ランジュールは左目でゼンを見下ろして、ゆっくりと顔から手を外しました。――幽霊の右目の場所には、虚ろな穴が開いていました。矢の貫いていった場所がそのまま残っているのです。

 意外そうな顔をするゼンやフルートたちに、ランジュールは、ふふ、と皮肉に笑ってみせました。

「無理を言わないでよねぇ。ここを通っていったのは、幽霊も傷つけられる矢だったんだからさ。でも、見苦しいのはイヤだから、こうしておこうかなぁ」

 と前髪をかきおろして右目を隠します。

 

 すると、丘の上から、勇者殿! と呼ぶ声がしました。フノラスドの攻撃に吹き飛ばされた四大魔法使いが、立ち上がってきたのです。白の魔法使いが言います。

「勇者殿! ランジュールの狙いはデビルドラゴンです! 闇の灰の中から奴を出現させて、それを自分のものにするつもりでいるのです!」

 はぁ!? と勇者の一行は目を丸くしました。緊迫した状況でしたが、思わず口々にランジュールに言います。

「なにさ、ランジュール、あんたデビルドラゴンを捕まえるつもりでいるわけ!?」

「やぁだ、本気!? そんなこと、できるわけないじゃない!」

「てめぇ、またややっこしいことを言い出してやがるな! デビルドラゴンが幽霊の魔獣使いなんかに使いこなせるかよ!」

「ワン、そんなありえない計画を思いついたなんて、ぼくはむしろ感心しちゃうな」

「やだ、ポチ。そんなことに感心しちゃだめよ……」

 フルートもあきれながらランジュールへ言いました。

「いくらおまえが優秀な魔獣使いでも、デビルドラゴンは御しきれないだろう? おまえは幽霊だし、奴は死者も操るんだからな」

 すると、ランジュールは、ふんっと不満そうに鼻を鳴らしました。

「ボクをそこらの魔獣使いや幽霊と一緒にするなんて、ほんとに失礼だよねぇ、キミたちは。ボクは闇の国でこのフーちゃんを捕獲してきたんだよぉ? 世界一の魔獣使いのボクにかかれば、デビルドラゴンだって、きっと捕まえられるさぁ」

 とたんに、フノラスドが上を向いて、いっせいにジャアジャアと抗議し始めました。ランジュールがあわてて手を振ります。

「あぁ、そうそう。捕獲じゃなくてデビルドラゴンを倒すんだったねぇ。もちろん、忘れてなんてないよぉ。キミたちのほうが強いんだから、きっとそうなるに決まってるもんねぇ」

 と蛇をなだめてから、またフルートたちへ言います。

「ボクはねぇ、世界一の魔獣が手に入れたくて、ずっとデビルドラゴンを探していたんだよ。だぁって、セイマの港街でキミたちと戦ったときに、フーちゃんはキミたちに負けちゃったもんねぇ。ボクの夢は世界一強い魔獣でキミたちを殺して、勇者くんと皇太子くんの魂を持って死者の国へ行くこと。だから、これはデビルドラゴンを見つけるしかない、って思いついたわけさぁ。最初はずっと、暗号を解いてデビルドラゴンの扉を探していたんだけどね――ああ、わかるぅ? デビルドラゴンの扉って。あの竜くんが自分の依り代(よりしろ)を捕まえるのに、世界中に作った岩屋と入口の扉のことさぁ。それを開けるのには暗号を解かなくちゃいけないから、頭脳が必要なんだけどさぁ、そこのところはボクが協力して、人間に扉を開けさせようとしたんだ。ところが、ざぁんねん。扉はどれも全部壊されちゃってたんだよねぇ。いくら人間を餌にしてデビルドラゴンを呼び出そうとしても、全然働いてくれなかった、ってわけぇ」

 聞き逃せないような残酷さもさらりと織りまぜて、ランジュールはそんな話をしました。

 ルルが空中でポチにささやきます。

「ランジュールは誘い(いざない)の罠を使って、デビルドラゴンを出現させようとしたんだわ」

「ワン、グルール・ガウスや眼鏡の魔王が闇の力を得た、あれだね。でも、罠は天空王が親衛隊と一緒に全部破壊したはずだよ」

 とポチは言い、だからランジュールは闇の灰の中にデビルドラゴンを探しに来たのか、と納得しました。思いつきで、デビルドラゴンを捕まえる、などと言っているわけではないのです。

 

 すると、丘の上から白の魔法使いがまた言いました。

「勇者殿! 我々は引き続き灰の雲を拡散させます! どうか、その蛇を抑えておいてください!」

 ロムドの四大魔法使いの長が、まだ青年とも呼べないようなフルートに本気で依頼したので、大隊長は驚きました。あの小さな若者にそんな力があるのだろうか? と空を見上げてしまいます。

 その近くで、ゼンがどなっていました。

「灰を散らしたってダメだったはずだぞ! そうだったよな、フルート!?」

 フルートはうなずき、魔法使いたちに言いました。

「灰を散らしただけでは、みんなを守れないんです! デビルドラゴンはこれを使って人間の中に闇の想いを引き起こして、自分の――力にしようとしているから!」

 デビルドラゴンの本当の目的は、闇の灰で人々を苦しめ、そこから生まれる恐怖や怒りをかき集めて、自分をこの世に復活させることだったのですが、フルートはわざとそれをぼかしました。魔法使いや兵士たちを動揺させたくない、と考えたのです。まして、デビルドラゴンの正体については、相手が四大魔法使いであっても、軽々しくは話せません。

「では、どうします、勇者殿!? この灰の雲をこのままにしてはおけませんぞ!」

 と青の魔法使いが言いました。その隣で、赤の魔法使いも金色の猫の目を光らせています。

 フルートは答えました。

「ぼくたちに作戦があります! 援護をお願いします! あの灰の雲を消します!」

 それを聞いた人々は驚き、どうやって消すつもりだろう、と考えました。あの雲は火山灰の塊なので、普通の雲のように蒸発させることはできないのです。

 

 ランジュールは前髪からのぞく眉をひそめました。

「キミの後ろにはお嬢ちゃんが乗ってるよねぇ。さては、お嬢ちゃんの魔法を使うつもりだね? また二つ一度に使うつもりかなぁ? そんなコトされたら、デビルドラゴンが捕まらなくなっちゃうから、困るなぁ。どぉっしよぉかなぁ……」

 ランジュールが考え込む一方で、ゼンがルルに乗って空に舞い上がってきました。メールも花鳥でやってきて、全員がフルートやポポロのまわりに集まります。

「いよいよだな。どうするんだ?」

「ランジュールがポポロの魔法を使うって気がついてるわよ。大丈夫かしら?」

「あいつ、きっと白い頭の蛇を使って魔法を呑み込もうとするよ。それを防がなくちゃ」

 緊張して話し合う中、ポポロはフルートを見上げました。彼女自身もまだ、灰の雲を消す具体的な方法を聞かされていないのです。ただ、フルートの指示を守って、ここまで魔法は絶対に使わないようにしていました。二つの魔法はまだ彼女の中にあります。

 フルートは、仲間たちを見回すと、低い声ではっきりと言いました。

「あの灰を地上へ落として消す。雨を降らせるんだよ」

 それが、フルートの作戦でした――。

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