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第20巻「真実の窓の戦い」

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97.目的

 ゼンとメールとルルは、真実の窓をくぐって、天空城の通路に戻ってきました。灰色の石の壁には、数え切れないほどの窓が延々と並んでいます。

 すると、その通路の向こうからフルートの声が聞こえてきました。

「ゼン! メール、ルル! どこだ――!?」

「あっ、フルートたちも戻ってきてるよ!」

 とメールが歓声を上げ、ゼンは大声で返事をしました。

「おぉい、ここだ! ここにいるぞ!」

 すると、通路の向こうから風の音がして、ポチに乗ったフルートとポポロがやってきました。ゼンたちの目の前に飛び下りて言います。

「どこに行っていたんだ!? 大変なことがわかったんだぞ!」

「ワン、デビルドラゴンの正体は、初代の金の石の勇者のセイロスだったんですよ!」

「おう、俺たちもちょうどそれを知ったところだ! 俺たちはジタン山脈の地下で、時の鏡を見てきたんだよ!」

 とゼンが答えます。

「じゃあ、メールやルルも、セイロスがデビルドラゴンになるところを見たのね……!?」

「見た見た! まったく、信じらんないよね!」

「金の石が砕けてしまうところも見たわよ!」

 と少女たちも興奮しながら話し合います。

 

 ゼンは苦い顔で言いました。

「ったく、人間になったデビルドラゴンがセイロスだったなんて、ちっとも気がつかなかったぜ。セイロスになんだか見覚えがあるとは思っていたんだがよ」

 すると、小犬に戻ったポチが言いました。

「ワン、それだけじゃありません! あの竜の宝っていうのは、他でもないセイロスのことだったんですよ! ほら、ユウライ戦記も言っていたじゃないですか! デビルドラゴンが宝に力を分け与えたから、光の軍勢はそれを奪って、暗き大地の奥に封印した。そして、それを取り戻しに来たデビルドラゴンを捕まえて幽閉した――って。セイロスを竜の宝に例えて、セイロスを捕まえて、デビルドラゴンと一緒に闇大陸に幽閉したことを伝えていたんですよ!」

 なんだって!? とゼンやメールやルルがまた驚きます。

 すると、フルートが言いました。

「賢者たちの戦いのときに、ぼくもセイロスの姿のデビルドラゴンに出会った。あの時、奴は長い鎖で世界の果てにつながれていた。悪の権化のデビルドラゴンを捕まえて拘束することは不可能だけど、セイロスならば人間の体だから、捕まえてつなぐことができたんだよ。でも、あいつはガウス公から受けとったたくさんの魂を使って、この世に現れようとしていた。おそらく、セイロスの姿で、この世界に復活しようとしていたんだろう。――で、ルル、君に聞きたいことがあるんだ」

 急にフルートから指名されて、雌犬は目を丸くしました。

「はい、なに? フルート」

「気を悪くしたらごめん。でも、君は一度魔王になった経験があるから、あいつのことをぼくたちの誰よりもよく知っている。だから、わかるなら教えてほしいんだ。あいつがこの世界に復活するために必要なのは、たくさんの人間の魂なのか? それとも、他にも奴に力を与えるものはあるんだろうか?」

 闇の声の戦いで魔王になった記憶は、ルルにとって最もつらい思い出でした。天空王の罰を受けているので、どんなに時間がたっても、自分の罪を責める痛みは軽くなりません。ルルは思わず涙をこぼしましたが、フルートが真剣な顔で答えを待っているので、懸命に声を絞り出しました。

「い……いいえ……。デビルドラゴンに本当に力を与えるのは、魂ではなくて、その魂が発する憎しみや……恐怖や怒りなんかの気持ちなのよ……。あいつは闇の想いから生まれてきた怪物だから。闇の想いが、あいつを強力にしていくのよ……」

 やはり後悔の涙は止めることができませんでした。ルルが、わっと泣き出してしまったので、ポチが涙をなめて慰めます。

 

 ごめん、とフルートはすまなそうに謝ってから、顔を上げ、どこまでも並ぶ真実の窓を見渡しました。その一つ一つは、世界の違う場所を映しています。世界中が彼らの目の前に並んでいるのです。

 フルートは、ことばを選びながら話し出しました。

「みんな、よく聞いてくれ。ぼくたちはこれまで、いくつもの窓をくぐって、世界中のいろいろな場所に出ていったよな? そこで共通していたことはなんだった? 闇の灰――そうだよな?」

 質問しながら、フルートは仲間の答えを待ちませんでした。たたみかけるような調子で話し続けます。

「デビルドラゴンは火の山を噴火させて、大陸中に闇の灰を降らせた。闇の怪物を生む灰だから、それによってロムドや同盟国の力を削ぎ落とすつもりなんだろう、とぼくたちは思っていた。同盟を弱体化させて攻め込もうとしてるんだろうってさ。だけど、どうやらそれは違うようだ。デビルドラゴンは実体化して、この世界に戻ってこようとしている。そのために恐怖や怒りや憎しみなんかの闇の想いをかき集めようと、世界中に大量の闇の灰をばらまいたんだ。あいつの本当の目的は、実体になってこの世に戻ってくることだ。そして、願い石に願ったとおり、王になってこの世界に君臨しようとしているんだよ――」

 仲間たちは、ぽかんとしてしまいました。デビルドラゴンが実体化しようとしていることはともかく、世界の王になろうとしている、という話に呆気にとられたのです。

「で、でもさ、あいつが王様になったって、誰も従ったりはしないよねぇ? あいつは闇の竜なんだから」

「ワン、セイロスになら、みんなついていくかもしれませんよ。セイロスは人間の姿だし、見るからに堂々としているし」

「馬鹿野郎、あんなやばいヤツにかよ! あれは人間の皮をかぶった悪魔だぞ!」

「でも、普通の人たちには、そんなこと見分けられないわよ……」

 すると、ルルがまだ涙を流しながら言いました。

「あいつを実体にさせちゃだめよ、フルート! あいつの中にあるのは、すべてを破壊して破滅させたいっていう狂った欲望よ! 流れ出した溶岩みたいに、何もかも焼き尽くさなくちゃ気がすまないの! あいつが王様になったって、まともな政治なんかするわけがない! 今度こそ世界は本当に破滅させられるわ! 絶対にそんなことさせちゃだめよ!」

 フルートはうなずき返しました。

「もちろんだ。デビルドラゴンは破滅と絶望を望む悪の権化だ。世界の王になりたいっていうセイロスの野望を利用して、世界を破滅に陥れるつもりなんだよ――。奴の目的を阻止するためには、闇の灰を防がなくちゃいけない。ぼくたちはやっぱり、闇の灰を撃退する作戦に加わらなくちゃいけないんだよ」

 

 それを聞いて、仲間たちはいっせいに身を乗り出しました。

「ワン、ということは、ザカラスに戻るんですね!?」

「白さんたちやアイル王と協力して、闇の雲を撃退するんだ!?」

「それがぼくたちにできることだからな。ザカラス城に戻ろう」

 とフルートが答えたので、全員はたちまち張り切りました。

「よぉし、ザカラス城に戻る窓を探すぞ! 確か、あっちのほうにあったよな――!」

 とゼンが窓の並ぶ通路を駆け出そうとすると、フルートに止められました。

「違う、ゼン。ぼくたちは窓から戻るんじゃない」

「窓から戻らねえ!?」

「じゃあ、どうやってザカラス城に行くのさ!?」

 仲間たちが驚くと、フルートは急に、にやりとしました。

「考えろよ。ここは天空城の中だ。天空城は天空の国にある。通れるかどうかわからない窓を探すより、空を飛んで地上に戻ったほうが、早いのに決まってる」

 ああっ、と仲間たちはいっせいに声を上げました。全員が、なんとなく、真実の窓をくぐらなくては地上に行けないような気分になっていたのです。

 フルートは犬たちへ言いました。

「ポチ、ルル、変身だ! この通路を出たら、そのまま一気に地上のザカラス城を目ざすぞ!」

「ワン、わかりました!」

「みんな早く乗って!」

 ポチとルルが風の犬になったので、一行は背中に飛び乗りました。フルートもポチに乗ろうとします。

 

 その時、フルートの胸の上で、きらりと輝きが躍りました。ペンダントが揺れたので、金の石が光を反射したのです。

 フルートは思わずそれを見つめました。二千年前、セイロスの裏切りで砕けた後に、たった一つ、かけらになって残った守りの魔石です。宿っている精霊も、今は小さな少年の姿をしています。

「金の石……」

 と、そっと呼びかけてみましたが、精霊は現れませんでした。急げよ、フルート! とゼンが呼んでいます。

 フルートはペンダントを魔石ごと、ぎゅっと握りしめると、低い声で言いました。

「止めてやるよ――必ずセイロスを止めてやる」

 魔石はやっぱり何も答えません。

 フルートはポチの背中に飛び乗ると、大きな声で言いました。

「行くぞ! 出発!」

 ワン!! と犬たちは応えると、通路の出口目ざして、まっしぐらに飛び始めました――。

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