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第20巻「真実の窓の戦い」

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第32章 竜の宝

95.竜の宝

 「まったく、なんてことだろうね……こんないきさつで初代の勇者が闇の竜になっていただなんて」

 と占いおばばが言いました。目の前にある水晶玉は、もう何も映していません。金の石が砕けて崩れ、最後の小さなかけらが転がって消えた瞬間に、過去の場面も見えなくなってしまったのです。

 ポチは驚いておばばを振り向きました。

「ワン、セイロスがデビルドラゴンになった!? 魔王じゃなくて!? 奴を受け入れると、その人は魔王になるはずですよ!」

 すると、フルートが重い声で答えました。

「セイロスはデビルドラゴンそのものになったんだ。ぼくがセイロスの顔に見覚えがあるように感じた理由が、やっとわかった。賢者たちの戦いのときに、人間の姿で現れたデビルドラゴンが、彼と同じ顔をしていたんだ。ただ、ずいぶん雰囲気が違っていたし、瞳も赤くなっていたから、今まで思い出せなかった」

 ポポロはとまどって頬に片手を当てました。

「ゼンも人間になったデビルドラゴンに会っているわ。だから、セイロスに見覚えがあるって言っていたの? でも、そんな……」

 あまりに意外な真実に、なかなか信じ切れずにいます。

 

 すると、占いおばばは大きな溜息をつき、毛皮の床に座り直して話し始めました。

「セイロスが金の石と一緒に願い石の元へ行った後、砦に残された人々は、ものすごい光の爆発を見たのさ。世界中をおおうようなまぶしい金色の光でね、人々は、自分たちの勇者が闇の竜を倒したんだ、と考えたんだよ。感動や悲しみに泣きながらね――。ところがじきにセイロスがまた姿を現した。大将が無事に帰ってきたもんだから、みんな大喜びさ。いっせいにセイロスの元へ駆け寄っていくと、セイロスはいきなり彼らに闇魔法を食らわした。砦の広場はたちまち血の海になって、多くの光の戦士が死んでいったよ。副官だったロズキや琥珀帝がセイロスを止めようとしたけれど、彼は止まらなかった。その時に、セイロスは自分が闇の竜になったと明言したのさ。琥珀帝が神竜を呼び出してセイロスを追い払わなかったら、その場で光の軍勢は全滅して、光と闇の戦いは決着がついてしまっていただろうね。世界も、あたしたちが生まれるこの時代まで続いていなかっただろうよ」

 水晶玉で過去の戦いを眺め続けてきた占い師は、悲惨な過去の出来事を淡々と語っていました。

 何故!? とフルートは思わず叫びました。

「どうして、あなたは今までそれを話してくれなかったんですか!? 初めてぼくたちと出会ったときに、あなたはもう、この真実を知っていたはずだ! それなのに、何故――!?」

「水晶玉が、今はまだそれを知らせる時じゃない、と言っていたんだよ」

 とおばばは静かに答えました。

「もちろん、あんたたちに真相を黙っていたのは悪かったと思うよ。その気になれば、二年半前にもう教えてあげることはできたんだからね。でもね、考えてもごらん――。一度人に伝えられた真実は、どんなに秘密にしておこうと思っても、人から人へ、口から口へと伝わって世の中に広がっていくものさ。二千年前、光の軍勢の陣頭に立って戦った金の石の勇者は、私欲にかられて世界の王になることを望み、あろうことか闇の竜に自分の体を売り渡してしまった――。そんな噂が広まっていったとき、フルートが新しい金の石の勇者としてやってきても、人々はフルートを信用してくれただろうかね? 二代目の勇者は初代と違って子どもだけれど、初代以上に強力な仲間たちと一緒にいる。その一行が全員闇の側に寝返って、世界の敵に回るかもしれない、と考えられたら? あんたたちはこれまで、本当に大勢の味方を作ってきたけれど、その人たちも、あんたたちを信用しなかったかもしれないんだよ――」

 

 占いおばばの話に、フルートとポポロとポチは顔を見合わせました。これまでに出会ってきた人々を思い出してしまいます。ロムド王やオリバン、セシル、ユギル、四大魔法使いやロムド城の人々……竜子帝、リンメイ、帝の後見人のハンや術師のラクと言ったユラサイ国の人々……エスタ国王、ザカラス国のアイル王、テト国のアクといった同盟国の王や女王たち……それに、ノームのラトムやピラン、北の峰のドワーフたち……。誰もが闇との戦いを通じてフルートたちを信用して、友だちや味方になってくれましたが、彼らが初代の勇者の運命を知っていたら、確かに、今のような関係は築けなかったかもしれません。フルートもいつか闇の竜になって味方を裏切るかもしれない、と疑われたかもしれないのです。

「でも、フルートは絶対にそんなことはしないわ! フルートは闇になんて絶対に負けないもの!」

 とポポロは必死で訴えました。目に浮かべているのは悔し涙です。

 おばばはウサギのような耳を揺らして頭を振りました。

「もちろんそうさ。フルートは本当にまっすぐだし、いい仲間がそばにいるからね。初代の勇者とは違うさ。でもね、人間ってのは先入観を持ちやすい生き物なんだよ。真実があまり早く明らかになっていたら、今ほど大勢の味方は作れなかっただろうね」

 占い師の老婆の声はどこまでも静かです――。

 

 すると、ポチが急に気がついたように言いました。

「ワン、そうか、そうだったんだ――!! フルート、ポポロ、これだったんですよ! デビルドラゴンが自分の力を分け与えたっていう、竜の宝! それって、セイロスのことだったんだ!!」

 ええっ!? とフルートたちはまた驚き、占いおばばは不思議そうな顔になりました。

「竜の宝? なんだいそれは? あんたたちは、あたしの知らないことを知っているようだね」

 そこで、ポチはおとぎ話の形でユラサイに残されていたユウライ戦記のことを、おばばに教えました。

「ワン、戦記の中には、デビルドラゴンは自分の力を竜の宝に分け与えたせいで、光の軍勢に捕まって、世界の果てに幽閉されたって書いてありました。竜の宝がセイロスのことだとしたら――筋が通りませんか、フルート!?」

 フルートは拳を口元に当てて、じっと考え込んでいましたが、そう言われて口を開きました。

「ぼくが闇の中で出会った人間のデビルドラゴンは、足を長い鎖でつながれていた。あの鎖は世界の最果てにつながっていたんだと思う……。確かにそうだな。デビルドラゴンを鎖につなぐことはできないけれど、セイロスならば人間だから、鎖につなぐことだって、きっと可能だ」

「じゃ……それがデビルドラゴンを捕まえた方法ってこと?」

 とポポロが聞き返すと、ポチはうなずきました。

「ワン、セイロスがデビルドラゴンになった後、光の軍勢は再結集して、どうにかしてセイロスを誘い出したんですよ。誘い出した場所は闇大陸。そこでセイロスが捕まって鎖につながれたから、デビルドラゴンも一緒に幽閉されることになったんです。きっとそうですよ!」

 フルートは占いおばばに向き直りました。

「あなたは初めてぼくたちと会ったときに、闇大陸でデビルドラゴンが捕まったことを教えてくれましたよね。実際にそのときの様子を水晶玉で見たんですか?」

 老婆は首を振りました。

「いいや、直接その場面を見ることはできなかったよ。闇大陸って場所で最終決戦が行われたことはわかっていたんだけれどね、そこを見ようとすると、どんな水晶玉でも粉々になっちまうのさ。デビルドラゴンの呪いなんだろうね」

 フルートはさらに考え続けました。

「闇大陸は昔、西の大海にあったけれど、デビルドラゴンと一緒にどこかに封印されて今はない、と渦王と海王は話していた。ということは、セイロスは今もそこに囚われているんだな」

「ワン、そこから影のデビルドラゴンの姿で抜け出して、この世界にやってきていたんですね」

 とポチも言います。

 

 フルートは勢いよく立ち上がりました。

「行こう! ゼンたちのところに戻るぞ!」

「はいっ!」

「ワン、わかりました!」

 とポポロとポチも立ち上がると、占いおばばが言いました。

「後ろをごらん、勇者たち。迎えが来たよ」

 フルートたちが振り向くと、氷と毛皮でできた部屋の中に、細長い窓が浮いていました。周囲には蔦のような銀の飾りが広がり、ガラスがない窓越しに、灰色の絨毯を敷き詰めた通路が見えています。

「よし、戻るぞ!」

 とフルートはさっそく窓枠に足をかけ、その恰好で占いおばばとウィスルを振り向きました。

「いろいろありがとうございました。おかげで本当に大事な真実を知ることができました」

 老婆は厳かに答えました。

「気をつけてお行き。あんたたちは初代の勇者とは違う。あんたたち自身の力を信じて、必ず闇の竜を倒すんだよ」

 ウィスルが、ウーとうなりました。別れを惜しむ声です。

 フルートたちはうなずき返すと、次々に窓枠を踏んで、窓の中へ飛び込んでいきました。たちまちその姿が消え、窓も見えなくなってしまいます。

 それでも窓があった場所を見つめながら、占いおばばは言いました。

「気をつけてお行き。そして、闇の竜の本当の目的に気がついて、阻止しておくれ……」

 フルートたちがいなくなって静かになった氷の部屋に、遠くかすかに地上の風の音が聞こえていました。

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