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第20巻「真実の窓の戦い」

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第29章 水晶玉と鏡

86.氷の家

 北の大地で占いおばばと再会したフルートたちは、二頭のトナカイがひくそりに乗って、ダイトの街へ行きました。

 ダイトは北の大地で最も大きな街で、大勢のトジー族が氷の家を造って住んでいるのですが、夜の闇が大陸全体をおおっているので、フルートには街を見ることができませんでした。時折、家々の間を吹き抜けていく風の音が聞こえるだけです。

 けれども、そんな暗がりの中を、そりは楽々と走り続けていました。少しも危険な感じがしないので、フルートが感心すると、占いおばばが言いました。

「トナカイたちは暗闇でも目が見えるし、ウィスルにはトナカイたちの考えていることがよくわかるからね。ウィスルに手綱を任せておけば、間違いはないのさ」

 すると、うー、と御者席からウィスルが言いました。ことばにはなりませんが、得意そうな声です。

 フルートは納得して、またおばばに尋ねました。

「極夜っていうのは、どのくらい続くんですか?」

「そうさね。場所によって違っているけれど、このダイトだと、四カ月は太陽が顔を出さないね。ただ、太陽が昇らなくても、何時間か空が明るくなる期間はあるから、真っ暗な夜ばかりが続くのはせいぜい二カ月ってところだよ。その間、外出をしないですむように、あたしたちは家の中にたっぷり食料や燃料を貯め込んでおくのさ。昔話もよくするよ。他にすることもなくて退屈だからね。その中には、大昔のエルフ族の戦いや、世界中を襲った大変動の話も残っている。それであたしは光と闇の戦いに興味を持つようになって、研究を始めたのさ」

「ワン、ぼくたちも戦いを伝える昔話に出会いましたよ。ユラサイの国に、おとぎ話になって残されていたんです」

 とポチが言うと、おばばはうなずきました。

「文字の記録はまったく残っていなかっただろう? 世界中に闇の呪いがかけられているから、文字にして残そうとすると、とたんに消滅してしまうからね。口伝えの話だけが過去の出来事を伝えられるんだけれど、人間の記憶力ってのは、かなり当てにならないからねぇ。口から口へと伝えられていくうちに、忘れたり、誤解が入ってきたり、余計な尾ひれがついたりして、最終的には元とは全然違う話になったりするのさ。ところが、その点、トジー族の物語だけは非常に正確でね。長い冬の夜の間、ずっと繰り返し昔話をするし、一言一句も間違わないように互いに注意し合うから、昔のままの形をほとんど失っていないんだよ。トジー族は語り部(かたりべ)の民なのさ」

 なるほど、とフルートたちはまた納得しました。極寒の辺境にある北の大地ですが、その環境だからこそ伝えられたものがあったのです。

 

 やがてそりはぴたりと停まり、掲げたランプが四角い家を照らしました。占いおばばの家に到着したのです。

 馬車から降りたおばばは、ランプを掲げて家に入っていきました。凍りついた雪を削って造った短い通路を通りながら、話を続けます。

「トジー族には本当にたくさんの昔話が伝えられていて、その中には光と闇の戦いについて語った話もいくつもある。あたしはそれを手がかりに、光と闇の戦いについて占ってきたんだよ。昔話の戦いが実際にはどんなふうだったのか、誰が何をして、その結果どうなったのか。あたしの水晶玉はいい仕事をしてくれたよ。光と闇の戦いの場面そのものを、しっかり見せてくれたからね。これからあんたたちに見せてあげるのは、あたしの水晶玉の中でも、一番過去をよく映すやつだよ。ちょっと大きくて、持ち運ぶのは大変だから、いつも家の地下室に置いているのさ。こっちだよ」

 そう言いながらおばばは氷の階段を下りていきました。その反対側には入口があって、壁に毛皮を貼った部屋が見えていました。ランプが明るく燃え、綺麗な布をかけた箱や調理用具などが壁際に並ぶ部屋です。氷でできているのに、意外なほど住み心地よさそうに見えます。

 階段を下りた先にあったのも、上と同じような部屋でしたが、こちらには灯りがありませんでした。そら、とおばばがランプを差し出すと、ウィスルがそれを受けとって天井から下げました。それだけで部屋中がとても明るくなります。

 とたんに、きらりと澄んだ輝きが一同の目に飛び込んできました。部屋の中央に毛皮が敷いてあって、その上に直径一メートルあまりもある水晶玉が置かれていたのです。

「ワン、大きい!」

「天空の国にも水晶で占う人はいるけど、こんなに大きい玉を見るのは初めてよ……!」

 とポチやポポロが驚きます。

「これに過去を映すんですね?」

 とフルートはガラスのボールのような水晶玉を見つめました。こんなに大きいのに、どこにも曇りや傷がありません。

「そうさ。あたしは客にも知りたいことを見せてあげられる占者だからね。さあ、お座りよ。さっそく始めようじゃないか」

 とおばばが言ったので、フルートとポポロとポチは水晶玉の前に座りました。氷でできた部屋ですが、床には干し草を敷き詰めて毛皮を重ねてあるので、寒さは伝わってきません。ウィスルが部屋の真ん中で泥炭(でいたん)の火皿を焚くと、部屋の中はたちまち温かくなってきました。地下の部屋には風の音も聞こえてこないので、とても静かです。

 

 占いおばばが厳かに話し始めました。

「この世界で、光と闇の戦いは二度起こった。最初は三千年前に、古代エルフたちの世界の中で。彼らは非常に強力な魔法使いだったから、ぶつかり合って暴走した魔法は、この世界の陸地を引き裂いて、てんでばらばらな場所へ押しやってしまった。そんな地上の混乱から逃れて空に飛び上がったのが天空の国だってことは、あんたたちももう知っているよね――。次の光と闇の戦いは、今から二千年前。今度は天空の国の中で起きて、やっぱり魔法戦争が始まってしまった。天空の民は光と闇の二つの勢力に別れて戦ったけれど、闇の軍勢が地下へ下りていったために、戦場が地上に移ってしまった。このことも、あんたたちは知っているね? これからあんたたちに見せるのは、九十年間続いた二度目の戦いの終盤さ。そこで何があったのか。誰がどう行動して、どんな結末になっていったのか。自分の目でよく見て確かめるんだよ。おそらく、あんたたちにとっては、信じられないような事実だろうからね」

 警告するようなおばばのことばに、フルートたちは驚きました。いったいどんな過去が映るのだろう、と改めて水晶玉を見つめます。

「それじゃ、始めるよ」

 とおばばは言うと、しわだらけの小さな手を水晶玉の前にかざしました。とたんに、透き通った球体の中に、白い靄(もや)のようなものが湧き上がってきます。

 靄は渦巻き寄り集まり、やがて、一つの場面に変わっていきました――。

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