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第20巻「真実の窓の戦い」

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85.地下

 「天空の国から真実の窓をくぐって、世界中のあちこちにやってきているだと? 驚き桃の木山椒の木。相変わらず、おまえたちはとんでもない冒険をしているな!」

 ジタン山脈の地下に作られた通路で、ノームのラトムはそんなことを言いました。ゼンたちを時の鏡の場所へ案内しながら、これまでのことをゼンたちからざっと聞いたのです。

「フルートたちは別の窓をくぐって、北の大地に行ってらぁ。俺たちは装備が足りなくて北の大地には行けねえから、代わりにこっちに来たんだ」

 とゼンが言いました。そのすぐ後ろにはメールが、さらにその後ろにはルルがついてきています。山の地下に作られた通路は天井が低かったので、ゼンとメールは頭をぶつけないように、前屈みになって進んでいました。ここに住んでいるのは背の低いドワーフと、それよりもっと小柄なノームばかりなので、通路も彼らに合わせた大きさになっていたのです。

「ねえ、鏡の岩屋はまだかい?」

 とメールが尋ねました。進めば進むほど通路が狭くなってきたので、さすがに良い気分がしなくなってきたのです。ただ、灯りが等間隔に掲げてあって、通路全体が明るいのは救いでした。岩壁の窪み(くぼみ)に置かれた灯り石が、柔らかな光を投げかけています。

「時の鏡の広場はめったに使われないから、通路も細いんだ。おまえたちには窮屈だろうが、もう少しだから、がんばって歩け。――で? 窓をくぐってあちこちに行って、何かわかったのか?」

 とラトムに聞かれて、ルルが答えました。

「わかったような、わからないような。私たちはデビルドラゴンがどうやって光の軍勢に捕まったのか知りたいんだけど、肝心のことは相変わらず謎のままよ」

「ははぁ。それで時の鏡でその様子を見ようと思ったのか。だが、さっきも言ったとおり、時の鏡は今はもう何も映しとらんぞ。メイやサータマンと戦ったときだって、願い石の精霊が力を与えたから、鏡が生き返ったんだからな。フルートが一緒にいないんじゃ、それも無理だろう」

「無理かどうか、やってみなくちゃわからねえだろうが。真実の窓が俺たちをここに連れてきたんだからな。絶対ここに何か起きるはずなんだよ」

 とゼンは言い張りましたが、ラトムは信じようとしませんでした。ただ、それでも彼らの案内は続けてくれます。

 

 やがて、一行は見覚えのある場所に出ました。虹色に輝くオパールの扉が、目の前に現れたのです。

 うわぁ、とメールが伸び上がって扉を見上げました。扉の前は天井が高くなっていたので、やっと体を起こすことができたのです。

「懐かしいね、この扉。願い石の戦いのときに、ここをくぐって、時の鏡の岩屋に入ったっけ。あの時にはオリバンも一緒だったよね」

「あら、その後にもここをくぐったじゃない。赤いドワーフの戦いのときに。後ろで通路がどんどん潰れていくから、扉がくぐれなかったら押しつぶされるんじゃないかと思って、ひやひやだったでしょう」

 とルルが言うと、ゼンが肩をすくめました。

「それは覚えてねえだろう。こいつ、あの時にはずっと俺にしがみついて、目をつぶっていたからな」

 メールはたちまち真っ赤になりました。

「な、なにさ――しょうがないだろ! あたい、あの頃にはまだ地下が死ぬほど苦手だったんだからさ!」

「おう、そういやそうだったな。メールはもう地面の下も平気になったのか。よかったな」

 とラトムは言うと、こっちこっち、とオパールの扉の横にある小さな鉄の扉へ彼らを招きました。

「そっちの扉は開かないからな。こっちから広場に入るぞ」

「開かねえのかよ。なんでだ?」

「時の鏡と同じことだ。特別な魔法で作られた扉だから、我々にはどうしても開けられんのさ。なんとか開けてみたくて、ドワーフとノームの魔法鍛冶屋たちが共同で研究してるんだが、魔法の形が違っているからまるで歯が立たない、と言ってるぞ」

 へぇ、とゼンたちは言いました。鏡や扉を作った時の翁(おう)は、非常に特殊な魔法使いだということのようです。

 

 扉をくぐると、中は大きな洞窟になっていました。天井まで数十メートルもの高さがあり、壁は虹色のオパール、床は磨き上げられたような黒い大理石でできています。床の真ん中には石の台座があって、その頂上に明るく輝く石が据えつけられていました。石が放つ光は、洞窟の壁にずらりと並ぶ鏡を照らしています。

 ゼンは光る石をまぶしそうに見上げました。

「ここには太陽の石を置いたのか。でも、よりによって、その場所かよ。願い石はそこに隠されていたんだぞ」

 彼らがオリバンと一緒にここまでやってきて、石の柱を砕いて、中から堅き石や願い石を見つけたのは、今から二年半前のことでした。それからも本当にいろいろなことがあったので、もっとずっと昔の出来事のような気がします。

「確かに鏡は何も映してないわね」

 とルルは岩屋を見回して言いました。人の背丈より大きな鏡が、回廊になった壁の上のほうまで何万枚と並んでいるのですが、どれも表面は灰色の曇りガラスになっていました。鏡が無数の窓のようにも見えるので、なんとなく真実の窓の通路を思い出してしまいます。

「時の鏡! お願いだよ! あたいたちに昔の戦いを見せとくれよ!」

 とメールが声を張り上げました。オパールの壁に並ぶ鏡を見回しながら、懸命に呼びかけますが、鏡はなんの反応も示しません。

 ラトムがあきれたように言いました。

「鏡が映るようになるわけがないだろう。鏡の魔法は、俺たちが知っている魔法とは全然違うんだからな」

「でも、でもよ――」

 とゼンも必死に岩屋を見回しました。どこかに一つくらい、過去の場面を映している鏡があるのではないか、と思ったのですが、やはりそんな鏡は見当たりません。ついに、ゼンも大声を上げました。

「おい、時の鏡、真実を見せやがれ! いや――見せてくれ! 俺たちはフルートが光にならなくてもすむ方法を探してるんだ! 頼むから、俺たちに手がかりをくれよ!!」

 

 すると、ひょうっと風が吹き抜けるような音がして、そのまま、ひゃっひゃっひゃっ、という声に変わっていきました。誰かが笑っているのです。

「やぁれ、まぁ。久しぶりで、岩屋に来てみれば、ずいぶん騒がしく、なっていたものじゃ、の。時の鏡を起こそうとするのは、誰じゃ、な? それは、人にはできんことじゃ、よ」

 人のことばを話しているのに、なんだか吹き抜けていく風のようにも聞こえる、奇妙な声です。同時に、ぷん、と悪臭が一同の鼻を突きます。ルルは思わず顔をしかめ、すぐにあっと叫びました。

「この匂い――! 私、知っているわ!」

「ほい、それでは、わしの知り合いさん、かね?」

 そう言いながら、岩屋の片隅から現れたのは、もじゃもじゃに絡み合った長い髪とひげの老人でした。髪とひげが足元まで垂れ下がり、そこに汚れや垢(あか)がびっしりこびりついて固まっているので、まるで灰色の木の根が自分で動いているようにも見えます。

 ラトムは、突然現れた人物に目を丸くしていましたが、老人が近づいてくると猛烈な悪臭も迫ってきたので、鼻をつまんで飛びのきました。

「おどろぎもののぎざんしょのぎ! あんだ、匂うな! いっだい何者だ!?」

 メールとルルも老人の匂いには顔をしかめていましたが、後ずさったりはしませんでした。

 ゼンは逆に老人の前に飛び出して言います。

「探してたぜ、じっちゃん! 頼む、時の鏡を映してくれ! 俺たち、デビルドラゴンが捕まったときのことをどうしても知りたいんだよ!」

 汚れきって木の根のようになった老人こそ、ゼンたちが最初に探していた時の翁でした。

 フルートたちが北の大地で占いおばばと再会した頃、ゼンたちもジタン山脈の地下で時の翁と巡り会うことができたのでした――。

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