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第20巻「真実の窓の戦い」

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82.最後の窓

 一時間後、通路に残された一行は、とうとう本当に次の窓を見つけました。

 風の犬になったルルがゼンとメールの元へ飛んできて言います。

「あったわ! 最後の窓よ! 早く乗って!」

 と二人を背中に乗せて戻ります。

 それは他の真実の窓とまったく変わりのない窓でした。縦長で上部が丸く、窓枠から周囲の壁へ蔓草のような装飾が伸びています。ただ、ルルが見つけた窓にはガラスがはまっていませんでした。窓の中に見えているのは、ぼんやりと光に照らされた黄色い岩壁です。

 とたんにゼンは、おっと声を上げました。

「これは地下だぞ。本当に時のじっちゃんがいるかもしれねえ」

 地下と聞いて、メールは顔色を変え、そっと窓の中をのぞきました。奥行きのありそうな場所なので、これなら大丈夫かも、と考えます。

 ルルは犬の姿に戻って尻尾を振っていました。

「時の翁は行く先々の洞窟で時の鏡を作っているんだから、地下にいるかもしれないわよね? 行きましょう。私たちも何か知ることができるかもしれないわ」

「ちょっと待て。足元を調べるからな」

 とゼンは言って、背中の弓を一本抜きました。窓の中にかざして何事も起きないことを確かめてから、矢を手放します。すると、すぐに矢が堅いものに落ちる音がしました。窓の向こう側には床があるのです。

 ところが、同時に驚いたような声も聞こえてきました。

「なんだ!? 天井から何かが降ってきたぞ!?」

「あれまぁ、あんた。これって矢だよ?」

 中年の男女の声です。近くに人がいたのに違いありません。

 しまった、とゼンたちは考え、すぐに首をひねりました。先に聞こえた男の声に、なんだか聞き覚えがあるような気がしたのです。

 すると、男の声がまた言いました。

「矢だって? 本当だ! 驚き桃の木山椒の木! どうして洞窟の中に矢が降ってきたりするんだ!?」

「そんなの、あたしにだってわかりゃしませんよ――」

 ゼンたちはいっせいに窓に飛びつきました。そこに誰がいるのかわかったのです。

「ラトム!!」

 と彼らは言いながら、真実の窓に飛び込んでいきました――。

 

 すると、彼らは岩に囲まれた通路に立っていました。くぐってきた窓が、ゼンたちの後ろから消えていきます。

 目の前にはとても小柄な中年の男女が立っていました。男は灰色のひげを胸まで伸ばして、青い上着に赤い帯をしめ、女は灰色の髪を結い上げて、緑のスカートにオレンジの帯をしめています。それは大地の民のノームでした。男がすっ頓狂(とんきょう)な声を上げます。

「驚き桃の木山椒の木! こりゃあいったいどうしたことだ!? そこにいるのはゼンじゃないか! それにメールとルルも! いったいぜんたい、どうなってるんだ!?」

「ゼンにメールにルル? ってことは、ここにいるのが金の石の勇者たちなのかい? あれまぁ、本当に若いんだねぇ。あんたから聞いていたけど、まさか本当にこんなに若いだなんて思わなかったよ」

 と隣の女も言います。

 そのやりとりに、メールはノームの男に尋ねました。

「ねえ、この人ってラトムの奥さんかい? 無事に再会できたんだ。良かったね」

 男はたちまち笑顔になりました。

「おお、そうとも。ロムド王がサータマンとかけ合って、俺の村の連中をみんなこのニール・リー山に連れてきてくれたからな。今じゃ、この山には二百人以上のノームが暮らしているぞ」

「あら、じゃあ、ここは赤いドワーフの戦いがあった、あの山なのね? 私たち、またジタン山脈に来ちゃったんだわ」

 とルルが驚きます。

 

 彼らが出会ったのは、ノームのラトムでした。赤いドワーフの戦いのときに、フルートたちと一緒にジタン山脈まで行き、激戦の末に、魔金の大鉱脈がある山をサータマンとメイの連合軍から守ったのです。

 戦いが終わった後、ラトムは仲間のノームたちと共にジタン山脈に残り、ドワーフの移住団と一緒に山の地下に住むことになりました。サータマン国内に残されていたノームの家族も、山に呼ぶことになっていましたが、どうやら予定通りにいったようです。

 ゼンは、ゆるやかな下り坂になった通路を見回して言いました。

「ジタンの地下に、これだけの道を作ったのか。あれからまだ一年足らずしかたってねえのに、さすがだな」

 すると、ラトムは小さな体で胸を張りました。

「何を言う。通路はもう魔金の鉱脈まで届いていて、魔金の採掘が始まっとるぞ。大きなホールも二つ完成して、ドワーフの村とノームの村ができた。しかし、本当に急にどうした? 来るなら来ると、何故一言連絡をよこさん。それに人数が足りないぞ。フルートとポポロとポチはどうした?」

 えぇと、とゼンは頭をかきました。詳しく説明するには時間が惜しかったので、簡単にこんなふうに言います。

「俺たちは調べたいことがあって、魔法でここに来たんだよ。フルートたちとは別行動だ。ラトム、ここにはまだ時の鏡があるよな? そこに案内してくれ」

 彼らがやってきたのは、時の翁がかつて住んでいたジタン山脈でした。願い石がなくなって、老人は立ち去ってしまいましたが、老人が作った時の鏡は、ジタン山脈の地下に残されているのです。

 ラトムは目を丸くしました。

「時の鏡の広場に行きたいのか? だが、あそこはもう何も見ることができないぞ。鏡は今じゃもう曇りガラスの窓のようだ。昔も今も全然映さんぞ」

「それでもいいのさ! 真実の窓があたいたちをここまで連れてきたんだからさ! きっと何かわかるんだよ!」

「お願い、私たちを時の鏡の岩屋へ連れていって!」

 とメールとルルが熱心に言います。

 驚き桃の木山椒の木、とラトムはまた懐かしい口癖を言いました。

「真実の窓? おまえたちを連れてきた? いったい何のことやら、さっぱりわからんな。だが、どうやら急ぎの用事らしい。おまえたちのご希望通り、時の鏡の広場に案内してやろう。おい、おまえ、ドワーフの村長に教えてこい。ゼンたちが来ているってな」

「あれまぁ、本当になんてことだろうねぇ。ゼンはここのドワーフたちと同じ里の出身なんだろう? みんなも驚くだろうねえ。あれまぁ」

 とラトムの奥さんはあわてて駆け出しました。小太りした後ろ姿が、岩をくりぬいた通路の上のほうへ消えていきます。

「どれ、おまえたちはこっちだ。俺についてこい」

 とラトムは通路を下り始めました。ゼンたちはその後に続きます。

 

 占いおばばに会うために北の大地へ行った、フルートとポポロとポチ。

 時の翁を探してジタン山脈の地下へやってきた、ゼンとメールとルル。

 二つの最後の窓をくぐった勇者の一行は、真実の手がかりを求めて、それぞれの場所を歩いていきました――。

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