真実の窓が現れた! とポチが叫んだので、一同は、ぎょっと後ろを振り向きました。城の中庭に浮かぶ窓を見て、全員が顔色を変えます。
「どうしてだよ!? これからみんなで闇の灰をぶっ飛ばそうとしてるんだぞ! どうしてそこに窓がまた現れるんだよ!?」
とゼンがどなります。
メールも窓に向かって言いました。
「もうちょっと待ってておくれよ! あたいたち、これから大事な作戦に加わるんだからさ! それが終わってからだっていいだろ!?」
けれども、真実の窓は消えません。窓の下には、部屋に置いてあったフルートたちの荷物もひとまとめになっています。
ところが、トーマ王子は不思議そうな顔をしていました。
「急にどうした? 君たちはいったい何と話をしているんだ?」
すぐそばに浮いている真実の窓が、王子の目には映っていなかったのです。
フルートは唇をかみました。くるりと窓へ背を向け、中庭からザカラス城の中へ戻ろうとします。
すると、その目の前にいきなりまた窓が現れました。周囲に銀の蔦のような縁飾りが広がる縦長の窓です。下にはフルートたちの荷物も置かれています。
フルートは向きを変え、今度は左へ歩き出しました。真実の窓を避けて、別の入口から城に戻ろうとしたのですが、その前にまた窓が移動してきました。彼らの荷物も一緒です。
フルートは拳を握り、顔を大きく歪めました。窓をにらみつけ、それでも窓が消えていかないのを見ると、ついに目を閉じました。
「殿下」
とトーマ王子へ話しかけます。
「ぼくたちの迎えがやってきてしまいました。ぼくたちは行かなくちゃなりません――」
トーマ王子は驚きました。
「作戦から抜ける言うのか!? これから闇の灰の雲を撃退するのに!? 何故だ!?」
批難の声に、フルートはますます顔を歪めました。すみません、と言ってから、大きく息をして、また続けます。
「ぼくたちは今すぐここを去ります。ゆっくり話をする暇はないんです。アイル王や白さんたちに、くれぐれもよろしく伝えてください」
「ったく! いいタイミングだよな、真実の窓!」
とゼンは窓枠を殴りつけましたが、とたんに手が窓をすり抜けたので、ゼンはつんのめってしまいました。窓の向こう側へ倒れていって、姿が見えなくなります。
「ゼン!」
「大丈夫かい、ゼン!?」
と仲間たちは駆け寄り、あいたたた、というゼンの声を窓の向こうに聞いて、ほっとしました。
あきらめの表情になってメールが言います。
「しょうがないよ。呼ばれてるんだからさ。行こう」
「ワン、悔しいなぁ!」
「よりによって今だなんて! 真実の窓は意地悪よね!」
と犬たちが文句を言いながら窓枠を飛び越え、メールとポポロも自分たちの荷物を持って、窓をくぐっていきました。
フルートは目を開けて、またトーマ王子を見ました。王子は、勇者の一行が次々に目の前から消えていくので、非常に驚いていました。フルートと視線が合うと、また厳しい声になって言います。
「どこへ行くつもりだ、金の石の勇者!? ぼくたちを見捨てて行く理由は、いったいなんだ!?」
「見捨てるわけじゃありません」
とフルートは答えました。声が震えます。
「だけど……行かなくちゃいけないんです。呼ばれているから。もしも間に合うなら、またここに戻ってきて……」
フルート、早く! とメールたちが窓の向こうから呼んでいました。ポポロも心配そうに見ています。
フルートはまた唇をかむと、王子に背を向けてそちらに向かいました。窓枠へ足をかけ、力を込めて飛び越えていきます。ひるがえったマントが、ザカラス城の中庭から消えていきます――。
後に残されたトーマ王子は、呆然と立ちつくしていました。目の前に勇者の一行はもういません。彼らが真実の窓と言っていたものを、ついに王子は見ることができませんでした。
そこへ王子の身辺警護の兵士が駆けつけてきました。
「殿下、ご無事ですか!?」
「勇者の一行が突然消えました! ここは危険です! 城内にお戻りを!」
「騒ぐな! 彼らは元の場所に戻っていっただけだ!」
とトーマ王子は兵士たちを叱りつけると、勇者たちが消えていった場所をにらみました。雪の上にはたくさんの足跡だけが残されています。
「まったく、無礼な連中だ!」
吐き捨てるようにそうつぶやくと、王子は父王たちに知らせるために、城の中へと戻っていきました。