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第20巻「真実の窓の戦い」

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68.対立・1

 ザカラスの王と領主とロムドの四大魔法使いが話し合いをしている部屋に、突然、新たな魔法使いが姿を現しました。壮年の男と若者と老婆という組み合わせで、全員が黒っぽい長衣を着ています。壮年の男は今朝、散歩中だったポチをさらっていった人物ですが、アイル王や四大魔法使いは、そんなことは知りませんでした。

 三人を呼び出した領主のハラウン卿が、胸を張りながら言いました。

「ご存じのように、この城は強力な魔法に守られているので、魔法使いであっても、魔法で城内を移動することは非常に困難です。ですが、彼らはご覧のように、やすやすと城内の別の場所からやって来ることができます。このことだけでも、彼らがどれほど優秀な魔法使いか、ご理解いただけることでしょう」

 それを聞いて、青の魔法使いが心話で仲間たちへ言いました。

「魔法での移動なら、つい先ほど、私もやりましたぞ。確かに場が少々重いですが、別に飛ぶのに困難というほどのものではありません」

「ワ、ラ、ノ、カモ、ダ」

 と赤の魔法使いも言ったので、白の魔法使いはそっとうなずきました。

「そうだ。我々が連れてきた部下だって、昨夜、この城から外へ飛んで調査をしてきた。彼らが自慢するほどの守りではない」

 四大魔法使いの間のやりとりは、ずっと心話のままなので、他の者たちにはまったく聞こえません。

 アイル王が言いました。

「こ、この三人が、修復に半年はかかる崖崩れを、た、たった一晩で元通りにした、と言うのか……? ハ、ハラウン卿は以前から、優秀な魔法使いを多く抱えていたが、そ、それにしても大変な力だ。ど、どこからこのような人材を得たのだ?」

「新たに雇い入れたのではありません。以前から我が城で働いていた魔法使いたちです。この二カ月ほどの間に、めきめきと力を伸ばしてきて、今では大陸でも指折りの魔法使いに育ちました。それがこうして三人も揃っておりますし、城に残っている三人も、それぞれに力を伸ばしてきているので、これで充分ではないかと存じますが」

 ハラウン卿は自分の魔法使いを使うように、王に強く勧めていました。同時にロムドの魔法使いたちをザカラスから排除しようとしています。

 そ、それは……とアイル王は言いました。迷う気持ちがストレートに顔に表れるので、痩せた体とも相まって、ひどく頼りない印象を家臣たちに与えてしまいます。領主たちは失望の表情になりました。中には、おおっぴらに頭を振る領主までいました。

 

 白の魔法使いは立ち上がって言いました。

「強力な魔法使いが多ければ多いほど、事が早く進められてよろしいと思います。我々はザカラスの方々と協力するために来ています。彼らか我々かではなく、双方が一つの目的のために協力するのが得策と思われますが」

「いや、その必要はない。範囲こそ広くても、灰とはごくごく軽いもの。ここにいる三人だけで充分対応できます」

 とハラウン卿は言い返しました。黒い長衣の魔法使いたちも、あざ笑うような目で四大魔法使いを見ています。

 白の魔法使いは溜息をつきました。国中をパニックに陥れかねないので、やってくるのが闇の灰だとは言わずにいたのですが、やはり彼らにははっきり教える必要がありそうでした。できるだけ不安にさせずにすみそうな説明を、頭の中で探し始めます。

 すると、アイル王が先にその事実を口にしました。

「そ、それは不可能だ、ハラウン卿……。や、やってくるのは、ただの火山灰ではない。や、や、闇の力を含んだ、危険な闇の灰なのだ。ど、どれほど強力な魔法使いでも、さ、三人やそこらで処理できるものではない」

 闇の灰? と領主たちは繰り返し、白の魔法使いたちはあせりました。王があまり無造作に事実を伝えたので、諸侯が恐怖にかられて会議室から逃げ出すのではないか、と心配します。

 ところが、領主たちはいっせいに笑い出しました。黒衣の魔法使いたちまでが、声を上げて大笑いをしています。

 ハラウン卿が言いました。

「闇など今さらどうして恐れましょう、陛下。ザカラスは昔からあらゆる魔法を利用してきた国です。もちろん闇魔法も大昔から取り入れてきています。闇であっても恐れることなく、制御しながら利用していくのが、我々ザカラスのやり方です」

 すると、青年の魔法使いが四大魔法使いたちに言いました。

「いいことを聞かせてやるよ、隣国の同業者。俺たちはな、もともと闇魔法を使う魔法使いなのさ。この世の闇の力をうまいこと捕まえて、思い通りに操るんだ。飛んできてる灰が闇の力を持っているだって? それならば、俺たちにはなおさら好都合だ。俺たちはもっともっと強力になるからな」

 なんと、と青の魔法使いは心話で言いました。

「彼らは闇を利用する魔法使いでしたか。ザカラスには、神々の前に顔を出すことができない魔法の使い手が多い、とは聞いておりましたが。なるほど、そういうことならば、彼らの魔法が急に強力になったのも納得です。飛来した闇の灰に影響を受けたんですな」

「ガ、ダ!」

 と赤の魔法使いは顔をしかめて言いました。それは危険だ、と言ったのですが、やはり心話なので、仲間以外には聞こえません。

 

 青年の魔法使いに続いて、壮年の魔法使いが話していました。

「今、仲間が言ったとおり、我々は闇に負けることなく上手に利用することができます。闇を忌み嫌って恐れるだけの、軟弱な神の信者などとは違うのです」

 こちらも青年に劣らず傲慢な口調でした。急激に魔力が強くなったために、うぬぼれてしまっているのです。ユリスナイ神を侮辱されて顔色を変えた白の魔法使いを、青の魔法使いがあわてて抑えます。

 険悪になってきた場を収めるように、アイル王が言いました。

「ロ、ロムドの魔法使いたちを侮辱するような発言は、つ、つつしむように。か、彼らは、ザカラスを救うために駆けつけてくれた友人だ。そ、それに、闇の灰を甘く見てはいけない。は、灰は我が国に恐ろしい被害をもたらすのだ……」

 はてさて、とハラウン卿がまた口を開きました。

「陛下はすっかり臆病風に吹かれておいでのようですな。先ほどから、我々にお任せいただければ大丈夫だ、と申し上げておるのですが。我々は、あの大量の灰を処理する、うまい方法も思いついているのです」

「その方法とは?」

 と尋ねたのはアイル王ではなく、他の領主たちとザカラス城の宰相でした。自分たちの王を無視して、ハラウン卿へ身を乗り出しています。

 卿はますます得意そうな様子になると、説明して差し上げろ、と部下の魔法使いに命じました。三人目の老婆が、背中の丸くなった体で、ぼそぼそと話し出します。

「火山灰はね、空にあれば巨大な雲のようになっているけれどね……ものは灰だからね、実際には軽くてちっぽけなもんさね。それをこう、ぎゅうっと……魔法で縮めてやればね、メラドアス山地の谷一つに全部落ち着かせることだって、できるのさね」

 それを聞いたとたん、四大魔法使いたちは顔色を変えて立ち上がりました。

「それはいけません! とんでもないことが起きますぞ!」

「ダ! ゾ!」

「闇の灰を一箇所に集めるなど危険すぎる! そんなことをすれば、そこからすぐに――」

 口々に止めようとしますが、他の領主たちは耳を貸しませんでした。

「なるほど! 灰を散らすのではなく、集めて捨ててしまうのですか! それは思いつかなかった!」

「メラドアス山地は人の住まない場所ですからな。灰を集めたところで、誰も困らない!」

「だが、火山灰はだいぶ拡散していますよ。それを一箇所に集められますか?」

「むろん、この者たちならばできます」

 とハラウン卿はいっそう胸を張って、自分の魔法使いたちを示して見せました。他の領主たちが感心したようにうなずきます。

 ロムドの魔法使いたちはますますあせりました。そんなことを実行すれば、集められた灰から闇の怪物が生まれてきてしまいます。

 ところが、それを説明しようとすると、王の隣から宰相が言いました。

「ここはザカラスです、お客人。ザカラスのことはザカラスの人間が取り決め、対応していくのが当然。これ以上の口出しは内政干渉です。――左様でございますね、陛下?」

 困惑した顔で口ごもっている頼りない国王に代わって、そう言い切り、さらに王へ客人を追い返すよう迫ります。領主たちも、そうだ、そのとおりだ、と賛同します。

 

 そのとたん、アイル王はいきなり声が出せなくなりました。あ――あ、あ、あ――と甲高い奇妙な声を上げ、顔を歪めて自分の胸や咽をかきむしります。

 これには、宰相も領主たちも、魔法使いたちも驚きました。以前のアイル王は、感情が高ぶるとヒステリックな発作を起こすことがあったのですが、最近はそんなこともなくなっていたのです。心臓発作でも起こしたのではないか、とあわてて王へ駆けつけます。

 すると、そんな彼らの背後から、いきなり少年の声が響きました。

「控えろ、宰相! ハラウン卿! 主君である国王に対して、なんて口のききようだ! 無礼だぞ!」

 それは皇太子のトーマ王子でした。その後ろにはフルート、ゼン、メール、ポポロ、ルルの四人と一匹がいます。

 扉が開いた気配はしなかったのに、王子と金の石の勇者の一行が会議室に姿を現したのでした――。

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