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第20巻「真実の窓の戦い」

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63.話し合い

 ザカラス城の中に準備された部屋で、アイル王とフルートたちと四大魔法使いたちは話し合いを続けました。

 アイル王が思い出す顔で言います。

「こ、今年の新年の日に、ロムド王は伝声鳥を通じて、カ、カルドラが海から我が国を攻めてくる、と知らせてくださった。結果として、カルドラ海軍がやって来ることはなかったが、お、同じ時期にクアローの軍勢がエスタに攻め込み、サータマンの軍勢がミコンを越えてロムドを攻めようとした。す、すべては同盟の切り崩しを狙うサータマンが、陰で糸を引いていたのだ――。こ、今回のこの闇の灰も、サータマンには好都合に映るのではないだろうか? 一刻も早く、は、灰をなんとかしなくてはならないだろう」

 と王は両手を神経質に握ったり離したりして考え始めましたが、じきに、何かに気がついたように、それをやめました。また少し考えてから、フルートたちに向かって言います。

「そ、そういえば、そなたたちは先ほど、あ、赤の魔法使い殿と一緒に南大陸へ渡った、と言ったな……? こ、この冬、南大陸への船が出られる港は限られているし、カ、カルドラのセイマ港は数少ないそのひとつだ。わ、我が国を攻めるはずだったカルドラの軍艦は、セイマ港で、つ、津波に襲われそうになって引き返した、と聞いている。だが、その津波も途中で消えてしまって、り、陸には届かなかったとも。ど、どうも奇妙なことだと、ずっと思っていたが、ひょっとすると、あ、あれはそなたたちのしわざだったのではないか、勇者たち……?」

 非常に鋭い読みをするアイル王に、へぇ、と勇者の一行は感心しました。

「当たりだぜ。俺たちが軍艦も津波も止めたんだ。フルートがマモリワスレの罠にかかっていたから、本当に苦労したけどな」

 とゼンが答えると、メールも肩をすくめて言いました。

「ホント、けっこう大変だったよねぇ。十隻もの軍艦を、沈めないように苦心して追い返さなくちゃいけなかったし、デビルドラゴンがタコ魔王なんかを送り込んできたしさ」

 や、やはり! とアイル王は言いました。

「わ、我が国は気づかない間に、また、そなたたちに助けられていたのだな……! あ、ありがとう、勇者たち。そ、そなたたちの無償の協力には、本当にことばもない……!」

 フルートたちは思わず笑顔になりました。礼を言われたくてやったことではありませんでしたが、こんなふうに感謝をされると、やはり嬉しく思えます。

 トーマ王子は目を丸くしました。

「十隻の軍艦を止めた――津波も? 軍隊も使わずに? 金の石の勇者っていうのは、そんなすごい力を持っているのか?」

 青の魔法使いが笑いながら言いました。

「勇者殿たちには、我々四大魔法使いと魔法軍団が全員で束になってかかっていっても、とても太刀打ちできません。それほどの実力をお持ちなのですよ」

 トーマ王子はいっそう目を丸くすると、自分といくつも歳の違わない一行を、まじまじと見つめました――。

 

「サータマン王に余計な手出しをさせないためにも、一刻も早く闇の灰を撃退することが肝心だと思われます」

 と白の魔法使いがアイル王に言いました。話を元に戻したのです。

「闇の灰はミコン山脈で止められていて、その南にあるサータマンまでは及んでいません。このままでは、必ずサータマンがまた攻め込んできて、同盟の切り崩しを始めるでしょう。現在、闇の灰の調査に我々の部下を向かわせています。今夜中に戻ってまいりますので、明日早々に作戦会議を開き、部隊を編成して灰の撃退に向かわなくてはなりません」

「わ、わかった。こちらからも、魔法使いたちを参加させよう」

 とアイル王は即答しました。闇の灰を散らす作業は、通常の軍隊には不可能だったのです。

 フルートが言い添えました。

「闇の灰を散らす方法もよく考えなくちゃいけません。地上に落ちれば闇の怪物に変わってしまうし、空中でも、一定量以上に集まれば、やっぱり闇を呼んでしまうんです」

「じ、実にやっかいな代物だな」

 とアイル王は溜息をつきます――。

 

 彼らはさらにもう少し打ち合わせをすると、極秘の話し合いを終了しました。アイル王とトーマ王子が、また秘密の通路を通って戻っていきます。

 帰り際、トーマ王子は振り返ってフルートを見ました。何かを言いかけて、すぐにそれをやめ、父王と一緒に通路の階段を下りていきます。その後を動いてきた暖炉がふさいで、通路の入口を隠しました。

「皇太子は何か言いたそうにしていたね。なんだろう?」

 とフルートはポチに尋ねました。

 人の感情をかぎわける小犬は、頭をかしげて言いました。

「ワン、そうですね……トーマ王子はさっきまでけっこう怒っていたんだけど、だんだん自信をなくしちゃう感じになりましたね。最後にフルートを見たときには、心の中で、いいなぁ、って考えていたんですよ。なんだか悲しそうだったし、ちょっと気になりますね」

「こいつのどこがいいんだよ! すぐ絶体絶命になるし、自分のことなんか忘れて、いつも危険に飛び込んでいくしよ! こんなヤツに憧れてたら、命が何百あっても足りねえぞ!」

 とゼンが言ったので、魔法使いたちは苦笑してしまいました。確かにそのとおりだと思ったのです。

 

 青の魔法使いが言いました。

「さて、皆様方、難しい話はひとまず終わりにして、もっと楽しい話とまいりましょう。皆様方は東で殿下やユギル殿たちとお会いになったんですな? 殿下たちはお元気でしたかな?」

「そういえば、ゴーラントス卿も陸路でこちらへ向かっていますよ。西部の大寒波の視察に出ていらっしゃったのですが、陛下のご命令でこのザカラス城へおいでになることになったのです」

 と白の魔法使いも言います。

「ゴーリスがここに来るの!?」

 とフルートは目を輝かせました。ゴーリスことゴーラントス卿はロムド城の重臣で、フルートに剣を教えてくれた師匠です。いつ頃!? どうやって!? と矢継ぎ早に質問を重ねます。

 赤の魔法使いは、急に嬉しそうな様子になったフルートに笑いながら、細いハシバミの杖を振りました。とたんに、彼らの前でカップが湯気を立て始めます。黒茶が冷めてしまったので、熱いお茶に淹れ替えてくれたのでした。小さな焼き菓子なども出てきます。

 お茶を飲み、菓子をつまみながら、彼らはようやく普通の友人としての話を始めました――。

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