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第20巻「真実の窓の戦い」

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第20章 五つめの窓

58.五つめの窓

 五つめの窓の向こう側の景色を、フルートたちは見つめました。降りしきる雪の中に険しい山がそびえ、その麓に大きな街が広がっています。一帯は雪におおわれていますが、山の中腹の絶壁に建つ城だけは、壁が赤いので遠くからもはっきり見ることができます。それがロムド国の西隣にあるザカラス国の王城でした。赤い壁が朝焼けに染まっているように見えるので、暁城とも呼ばれています。

 フルートたちは、一年あまり前に起きた薔薇色の姫君の戦いの際に、このザカラス城を訪ねていました。当時のザカラス王が、ロムドのメーレーン姫を誘拐していったので、それを取り戻しに、道化間者のトウガリと一緒に乗り込んでいったのです。フルートが初めて女装したのも、この時のことでした。

 

 そうか、とゼンが腕組みして言いました。

「そういや、こんな城だったな。お姫さんを連れて脱出するのに、えらく苦労したっけなぁ」

 フルートも思い出す顔になりました。

「あの時にメーレーン姫を誘拐したザカラス王は、報いを受けて死んでしまったし、デビルドラゴンと通じていた魔法使いのジーヤ・ドゥも、消滅してしまった。ザカラスは、皇太子だったアイル殿下が即位して、新しい道を歩き出しているんだ」

 すると、ポポロが涙ぐみました。

「あたしは、ザカラス城が元通りになっているのが嬉しいわ……。噂には聞いていたんだけど、本当に直っているんですもの」

 薔薇色の姫君の戦いで、ポポロは策略にはまって、ザカラス城に捕らえられました。そこから脱出しようとして魔法を暴走させ、もう少しで城を完全に破壊しそうになったのです。

 メールは肩をすくめました。

「あんなお城、すっかり壊れちゃえば良かったのにさ――と言いたいところだけど、今じゃ悪人たちもいなくなったんだから、もうそんな必要はないよね」

 ポチがそれにうなずきました。

「ワン、ザカラスは赤いドワーフの戦いでぼくたちがやられそうになったときに、助けに駆けつけてきてくれたんですよ。もう、れっきとした盟友なんです」

「だから、ロムド王もザカラスと協力して闇の灰の雲を追い払うことにしたんでしょう? 大切な友だちの国だから」

 とルルも言います。

 

 窓の向こうで雪は降り続けていました。間もなく三月が訪れるというのに、何もかもが雪と氷に閉じこめられていて、まるで北の大地の風景を見ているようです。この寒さは火の山が吹き出した火山灰のしわざでした。闇の怪物を生む灰ですが、同時に日の光をさえぎって、地上に大寒波を招いています。

「行こう」

 とフルートは仲間たちに言いました。

「窓がぼくたちの前に道を開いているんだ。この先に、ぼくたちのすることが待っているはずだし、真実の手がかりもきっとあるだろう。行って確かめるぞ」

「でもさぁ、なんか真実捜しって言うより、闇の灰退治って感じがするよねぇ、やっぱり」

 とメールがぼやきましたが、フルートは無視して進み出ました。銀の縁飾りの窓をつかみ、窓枠に足をかけて、乗り越えようとします――。

 

 すると、いきなり目の前の景色が、ぐるりと回りました。薄墨で描いたような雪景色と赤いザカラス城が流れるように動き、色と形が入り混じります。

 フルートはすでに窓を乗り越えていたので、とっさにその場にしゃがみ込みました。目眩(めまい)を起こしたのだと思ったのです。

 けれども、それはフルートのせいではありませんでした。かがみ込んだ膝と手が、紺色の分厚い絨毯に触れます。雪はどこにもありません。

 フルートが驚いて顔を上げたとたん、周囲から怒声(どせい)が起こりました。

「何者だ!?」

「どこから侵入してきた!?」

「捕らえろ! くせ者だ!!」

 剣を鞘から引き抜く音がいっせいに響き、フルートに向かって黒い兵士たちが殺到してきました――。

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