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第20巻「真実の窓の戦い」

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第19章 占い

55.命がけ

 空に日が昇り、明るくなった野営地を、オリバンとセシルは歩いていきました。フルートたちが寝ている天幕までやってくると、中へ声をかけようとします。起きろ、おまえたち。朝だぞ――。

 ところが、彼らが呼びかけるより早く、天幕の入口の布がぱっと跳ね上がり、中からゼンと犬たちが飛び出してきました。

「ったく! あの馬鹿、どこ行きやがったんだ!?」

「ワン、寝ていたところにぬくもりがあるから、そんなに前のことじゃないと思います!」

「でも、近くに匂いがしないわよ!?」

 ゼンたちが血相を変えて騒ぐので、オリバンたちが驚いていると、メールも出てきて言いました。

「あっ、オリバン、セシル! フルートを見なかったかい!?」

「いないのか?」

「うん。いつの間にか中から消えてたんだよ! 一緒に寝てたはずなのにさ!」

「ったく。一言声をかけていけよな!」

 ゼンのことばは、オリバンたちではなく、フルートに向かって言っている文句です。

 オリバンとセシルは周囲を見回しました。朝の光が射す野営地では、朝食の支度と同時に、出発の準備も始まっていました。あちこちで天幕がたたまれ、武具や装備の点検が行われていますが、その中にフルートの姿は見当たりません。

「私たちはおまえたちの隣の天幕にいたが、フルートが抜け出す気配は感じなかった。出ていったのは、それほど前のことではないはずだぞ。遠くへは行っていないだろう」

 とオリバンが言ったところに、天幕からポポロが這い出してきました。仲間たちへ言います。

「いたわ、南側の丘の向こうよ! 金の石の精霊と話しているの!」

 金の石の精霊と? と一同はまた顔色を変えました。

 ゼンが聞き返します。

「金の石だけか!? 願い石はいねえんだな!?」

 ポポロは遠いまなざしを南側へ向けました。

「ええ、金の石の精霊だけよ。フルートと何かを話して――」

 そこまで言ってポポロも顔色を変えました。跳ね起きて叫びます。

「出たわ!! 願い石の精霊よ!!」

 仲間たちも飛び上がりました。フルートと金の石の精霊と願い石の精霊。この三人が仲間たちの知らないところで集まっていたら、それは本当に危険なサインです。全員がいっせいに南の丘目ざして駆け出します。

 

 真っ先に丘を越えたのはポチとルルでした。丘の裾野にフルートと精霊の少年と女性を見つけると、夢中で斜面を駆け下りてフルートに飛びつきます。

「ワンワンワン、だめだ! だめですよ!」

「やめてったら、フルート! 行っちゃだめだって、何度言えばわかるの!?」

 そこへ他の仲間たちも駆けつけてきました。先頭を走ってきたオリバンが、フルートのマントの襟元をつかんで引き寄せます。

「馬鹿者! こんな場所に精霊たちを呼び出して、何をしようとしている!? 勝手な真似はさせんぞ!」

 フルートは仲間たちの剣幕に驚いていましたが、そう言われて目を丸くしました。

「何をって……闇の灰を消す相談をしていたんだけれど」

 フルートの答えに、今度は仲間たちが目を丸くします。

「闇の灰を?」

「ワン、相談って?」

 フルートは苦笑いしました。

「君たちを置いて光になったりしない、ってあれほど約束したじゃないか。いいかげん信用しろよ――。この一帯の闇の灰は、金の石と願い石の力で浄化することができたけれど、その外側にはまだまだ闇の灰が降り積もっているからな。それを聖なる光で消すことができないか、って精霊たちと相談していたんだ。そんなに大騒ぎすることじゃないよ」

 フルートがあまり落ち着いているので、ゼンは腹をたてました。オリバンからフルートをひったくってどなります。

「るせぇ! おまえは前科があり過ぎなんだよ! しかも、こんな場所に精霊たちを呼び出しやがって! 心配させるのもいい加減にしろ!」

「そんな、しかたないだろう! 野営地にはユラサイ兵が大勢いて、精霊たちが出てきてくれなかったんだからさ!」

 フルートが言い返して、言い合いが始まります。

 

 オリバンは溜息をつくと、太い腕を胸の前で組みました。

「ゼンたちでなくても、おまえのこういう行動は寿命が縮む。一言声をかけてから出ていくようにしろ」

 と重々しく言ってから、で? と続けて尋ねます。

「聖なる光で闇の灰を消すことは、可能なのか? できるとすれば、どの程度の範囲のことだ?」

 フルートは口論をやめると、真面目な顔で答えました。

「もちろん、狭い範囲なら、金の石で照らしただけで闇の灰を消せるよ。ただ、闇の灰は本当に広い範囲に降ったし、風に吹き寄せられたり、雨水に流されたりすると、寄り集まって闇の怪物に変わってしまう。ここで沼に流れ込んで、カエルの怪物や骸骨戦士を生んだみたいにな……。だから、できるだけ広い範囲に聖なる光の力を広げて、灰を消すことはできないだろうか、って精霊たちと相談していたんだ」

「レコルの街でやってきたみたいにか」

 とゼンが言うと、ポポロは顔色を変えました。

「またあれをやるのは危険よ……! あたしが地上から空へ闇の灰を追い出したら、灰が空で渦巻いて、デビルドラゴンが出現しそうになったじゃない! また同じことが起きるかもしれないわ……!」

 フルートはうなずきました。

「うん、あれと同じやりかたは、もう使えない。危険だからな。ただ、あの時に君は地面に魔法を流し込んで、闇の灰を追い出した。あんなふうに聖なる力を地面に送り込んだら、直接灰を消すこともできるんじゃないか、と思ったんだ」

 

 すると、フルートの横に立っていた金の石の精霊が口を開きました。

「それはできない、と言っている。あまりにも大がかりすぎる」

 願い石の精霊も言いました。

「守護のは小さい。フルートが考えていることを実行すれば、力をすべて失って消滅してしまうだろう」

 いつもなら、こんなことを言われれば、侮辱だ、ぼくはそんな非力な石じゃない、と怒り出す金の石が、この時には何も言いませんでした。また口を結んで黙り込んでしまいます。一方、願い石の精霊のほうも、だから私が守護のに力を貸そう、とは言いませんでした。無表情のままで立っています。

 そんな精霊たちに、メールは首をひねりました。

「なんか、絶対にそれができない理由があるみたいだね? なにさ? 例の理(ことわり)ってやつかい?」

 それに答えたのは願い石の精霊でした。

「近頃のフルートはずる賢い。今回も理の隙間を縫って、私に守護のを援助させようと企んでいる。だが、理は必ず追いついてくる。フルートが言うように広範囲に守護のが力を流し、私がそこに力を貸せば、間に立つフルートに膨大な力が流れ込む。人の体はその力に耐えることはできない。私と守護のの間で、フルートの体は破壊されてしまうだろう」

 精霊の女性の口調は淡々としていましたが、一同は真っ青になりました。ポポロが引き止めるようにフルートの腕に飛びつきます。

 フルートのほうは、自分の体が破壊されるかもしれない、と言われても、特に動揺する様子はありませんでした。すでに精霊たちから聞かされていて、それでも闇の灰を消したい、なんとかできないのか、と言い張っていたのです。

 そんな親友の頭に、ゼンが一発食らわせました。

「ったく、相変わらずだな、おまえは! 天空の国でリューラをぶっ倒そうとして、願い石の力で体がばらばらになりそうになったのを忘れたのかよ!?」

 フルートは兜をかぶっていなかったので、げんこつの直撃に顔をしかめました。

「そう言うけどな! それじゃあ、降り積もった闇の灰をどうするんだ!? 放っておいたら、必ずまた闇の怪物が生まれて、また誰かが襲われるんだぞ!」

 本気になって反論するフルートを、いい加減にしろ! とゼンがもう一発殴ります。

 オリバンはまた大きな溜息をついてしまいました。かんで含めるように、ゆっくりと言い聞かせます。

「いいか、フルート。人の力には限りがあるし、一人の人間にできることは限られている。自分の力の限界を超えたことに無謀に挑戦すれば、その行動は必ず自滅を招くだろう……。おまえがしようとしていることは、願い石にデビルドラゴンの消滅を願うのと同じなのだ。何もかも自分一人でなし遂げようとするな、フルート。世界というものは、誰かひとりの力で変わっていくものではない」

 だけど――! とフルートはまた言いました。こうと思ったことはなかなか変えない、頑固なフルートです。

 

 すると、ポポロが急に、ぎゅっとフルートの腕を抱きました。同時にフルートの手に自分の手を重ねて握りしめたので、フルートは驚いて振り向きました。思わず顔が赤くなります。

 ポポロはとても真剣な顔をしていました。フルートを見上げながら言います。

「あたしが力を貸してあげるわ、フルート……。あたしの魔法を二つ同時に使って、あたしのすべての力を金の石にあげる。それでも世界中の闇の灰を消すことはできないと思うけれど、あたしの全部の魔法と命を力に変えれば、きっとかなりの場所の灰を消せるはずよ。それならいいでしょう?」

 フルートは仰天しました。ポポロの手から腕を引き抜き、彼女の両肩をつかんで言います。

「全部の魔法と命を力にって――そんなことをしたら、君は死ぬじゃないか! 馬鹿なことを言うな!」

「馬鹿はどっち、フルート?」

 とポポロは言い返しました。大きな緑の瞳は、熱を帯びたようにきらきらと輝いているだけで、涙はまったくありません。思わず絶句したフルートに、はっきりと言い続けます。

「あたしは、あなたがやろうとしていることを、代わりにやるって言っているだけよ。あなたがやるのは良くて、あたしがだめだなんてこと、あるはずがないもの。そうでしょう?」

 ポポロの強い声に、フルートはますます何も言えなくなりました。あなたが命を捨てて世界を助けるというなら、私が代わりに命を捨てるわ。緑色の瞳が、ことばよりも雄弁にポポロの気持ちを伝えてきます――。

 とうとうフルートは根負けしました。ごめん、と言って、ポポロを抱きしめます。

 すると金の石と願い石の精霊が見えなくなっていきました。フルートが闇の灰の消滅をあきらめたことを知って、消えていったのです。

「ったく……。この阿呆を停められるのは、やっぱりポポロだけかよ」

 とゼンがぼやきました。メールや犬たちも、オリバンとセシルも、安堵の息を吐きます。

 フルートの腕の中で、ポポロが泣き出しました――。

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