四つめの窓の向こうは土砂降り（どしゃぶり）でした。
強い風も吹き荒れているので、風向きが変わるたびに雨音が強く弱く変化し、窓の向こうで雨が波打ちます。
雨のカーテンの向こうで戦闘が起きていました。大きな人影が、マントをひるがえしながら、窓のすぐ近くで剣を振るっています。
「馬鹿者、逃げろ！」
誰かをどなりつけるような声も聞こえてきます。
「オリバン！！」
とフルートたちは叫びました。窓に飛びつき、土砂降りの中へ飛び込んでいきます――。
すると、彼らは沼のようなぬかるみの中に着地しました。たちまち足がくるぶし近くまで泥に埋まります。
「ちきしょう、湿地かよ！」
とゼンは悪態をつきました。フルートも剣を抜いて周囲を見回します。
すると、その目の前にいきなり剣が降ってきました。
「新手か！？」
とフルートに切りつけてきます。フルートは、とっさにそれを剣ではね返し、雨音に負けずに声を張り上げました。
「ぼくたちだ、オリバン！ そこにいるんだろう！？」
なに！？ と雨の向こうで声が言いました。大きな人影が剣を下ろして近づいてきて、青年に変わります。見上げるように大柄な美丈夫で、くすんだ銀の鎧兜を身につけています。
オリバン！！ とフルートたちが思わず歓声を上げると、青年は驚いた顔をしました。
「フルートか！ ゼン、メール、ポポロ――ポチとルルもいるのだな！？」
「おう、俺たちだぜ！」
「久しぶりだね、オリバン！」
とゼンとメールが応える一方で、ポポロは土砂降りの中を指さしました。
「あっちから怪物がくるわよ！」
「ほんと、ここもすごい闇の匂いだわ！」
「ワン、妙な音も聞こえる！」
と犬たちも言っているところへ、雨の中から人のようなものが飛び出してきました。先のオリバンのように、フルートたちへ切りかかってきます。
フルートはまた剣で受け止め、はね返して目を見張りました。振り下ろされてきた剣は、白い骨になった手に握られていたのです。
カラカラカラ、と雨音の中に、乾いたものがぶつかり合う音が響き、次の瞬間、骨を鳴らして襲いかかってくる骸骨（がいこつ）に変わりました。骨の体に古びた鎧を身につけ、剣を握っています。
「骸骨戦士か！」
とフルートは叫んで、剣でなぎ払いました。骸骨は脚の骨を切断されて泥の中に倒れ、たちまち火に包まれました。炎の剣で切られたので、燃え上がったのです。強い雨がすぐに火を消しますが、その後に骸骨戦士の姿はもうありませんでした。
すると、雨の中からまた人影が現れて、今度は白い鎧兜に身を包んだ若い女性に変わりました。
「オリバン、今の火はなんだ！？」
と駆けつけてきて、勇者の一行に目を見張ります。
「フルート！？ それにみんなも――！ どうしてここにいるんだ！？」
戦姿（いくさすがた）をして男ことばを話していますが、雨に濡れたその顔は絶世の美女です。
「セシル！！」
とフルートたちはまた歓声を上げました。雨の中で戦っていたのは、ロムド国の皇太子のオリバンと、その婚約者でメイ国の王女のセシルでした。二人ともフルートたちの本当に大切な友人です。
そこへ、ケーン、と鋭い声がして、巨大な獣が姿を現しました。彼らの目の前で身をひるがえすと、数体の骸骨が跳ね飛ばされて、泥の中へガシャンと倒れます。
「ありがとう、管狐（くだぎつね）！」
とセシルは言いました。彼女の身を守る大狐が、襲いかかってきた骸骨戦士を体で防いだのです。こちらもフルートたちには懐かしい相手ですが、久しぶりの再会を喜んでいる余裕はありません。
フルートは剣を構えながら尋ねました。
「敵はどのくらいいますか？ それと、ここはどこです？」
オリバンとセシルも身構えていましたが、そう聞かれて意外そうな顔になりました。
「ここはどこだか、だと？」
「あなたたちはどうやってここに来たんだ？」
「ちょいと魔法でな」
とゼンは言って身をかわしました。雨の中からまた骸骨戦士が切りかかってきたからです。空振りしてつんのめった骸骨に、ゼンが拳をたたきこむと、骸骨はばらばらになって崩れます。
けれども、散らばった骨はすぐに寄り集まり、またつながり合って、元の姿に戻りました。立ち上がって再び切りつけてきたので、ゼンは急いで飛びのきます。
オリバンが自分の剣で骸骨を切り捨てました。
「こいつらは闇の怪物だ！ 通常攻撃では倒せんぞ！」
オリバンの剣がリーンと鳴ると、骸骨は煙のように消え失せました。オリバンが握っているのは聖なる剣なのです。
セシルが言いました。
「動く骸骨はかなりの数がいる！ だが、それ以上にやっかいな敵が出てきているんだ！」
「やっかいな敵？」
とフルートは聞き返し、別の方向から襲ってきた骸骨戦士を切り倒しました。こちらは切られた瞬間に火を吹いて、燃えながら消滅していきます。
すると、たたきつける雨の向こうから、奇妙な響きの声が聞こえてきました。
「ボゥ、ボゥ、なンだか人数が増えたヨウな気配だゾ。ダレがやってキた？」
闇の怪物の声でした。フルートたちが反射的に身構えると、急に雨が弱まって、あたりが明るくなってきました――。
