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第20巻「真実の窓の戦い」

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48.疑問

 フルートたちは街道の上の真実の窓をくぐって、天空城に戻ってきました。灰色の絨毯を敷き詰めた通路の両脇には、たくさんの真実の窓がずらりと並んでいます。

 自分たちが出てきた窓を振り向くと、いつの間にか現れたガラスの向こうで、シルの町の人々が驚きあわてふためいていました。彼らに真実の窓は見えません。フルートたちが突然姿を消したように見えたのに違いありません。

 すると、メールが言いました。

「ねえ、ロキにはまだ見えてるみたいだよ」

 幼児の姿で母親に抱かれていたロキが、じっとこちらを見つめていました。窓を挟んで彼らの顔を見ています。

 フルートたちは思わずほほえみました。

「またな、ロキ。元気でいろよ」

 とゼンが片手を上げると、ロキのほうでも小さく手を振り返しました。声は聞こえてきませんが、バイバイ、またね、と返事をしたのが、唇の動きでわかります。

 すると、町の人たちが窓に向かって駆けてきました。フルートたちが消えた場所を確かめに来たのです。大勢の人が窓に迫ってきたので、ロキもフルートの両親も見えなくなってしまいます――。

 フルートは窓の前から離れると、ゼンから受けとった自分のマントをはおって、仲間たちに言いました。

「さあ、また窓を探そう。きっと次の窓がどこかにあるはずだ」

 仲間たちはそれを追いかけました。

「あっという間だったわよね。フルートもポチも、もっとゆっくりご両親と話したかったでしょうに」

 とルルが言ったので、ポチは答えました。

「ワン、今は真実の窓から手がかりを探すほうが先だから。話はまた次の機会にゆっくりできるよ。ねえ、フルート?」

「うん。それに、おばあさんの指輪をお母さんに渡すことができたからね。これができただけでも良かったよ」

 フルートの返事に、仲間たちは思わずうなずきました。シルの町に続いていた窓が遠ざかります。

 

 通路に次の窓を捜しながら、ゼンが話し出しました。

「なあ、真実の窓って言うけどよ、なんとなく、真実って言うより、今の世界の様子を俺たちに知らせてるような気がしねえか? 世界のあっちこっちの様子を俺たちに見せてよ」

「あ、それはあたいも思った。闇の灰のせいで怪物に襲われてる場所に、あたいたちを連れていってるような感じだよね」

 とメールも言ったので、ルルが目を丸くします。

「なぁに? じゃあ、窓が私たちに怪物を退治するように言ってるってこと? じゃあ、真実の窓じゃなくて、怪物退治の窓じゃない」

 すると、フルートは首を振りました。

「それは違うだろう……。ぼくたちにデビルドラゴンを倒す手がかりを教えることは、本当は理(ことわり)によって禁止されている。窓はその禁止の裏をかくような形で、真実を伝えようとしているんだよ。ちょうど、願い石がぼくたちを助けてくれるときみたいにね――。願い石も、直接ぼくたちを助けることはできない。それはぼくの願いを聞いてしまうことになるから。だから、代わりに金の石を助けてくれる。相手が魔石ならば、願い石も理に縛られずに助けることができるからな。真実の窓も、きっとそれと同じなんだよ」

 けれども、ゼンは、うーんと頭をひねりました。

「ったく、その理(ことわり)ってヤツは、どうしてそう面倒くさいんだ? 相変わらず、どんなものなのか、さっぱりわからねえしよ」

「ゼンに理解して説明しろ、なんて言わないから、安心しなさいよ。そんなの誰も期待してないわ」

 とルルが遠慮なく言ったので、ゼンは口を尖らせました。

「なんだよ、それは。人をどうしようもねえ馬鹿みたいな言い方しやがって」

「でも、馬鹿は間違ってないだろ?」

 とメールが茶化(ちゃか)したので、なんだとぉ!? とゼンが怒ります。

 

 フルートは苦笑しながら話し続けました。

「理ってのは、世界が生んだ決まりのことさ。どんなものでも、理に違反することはできないんだ。人も魔石も、デビルドラゴンもね。もちろん、真実の窓も理には従わなくちゃいけない。でも、窓は天空王に言われて、ぼくたちにこっそり真実を見せようとしてくれている。だから、わかりづらいのはしかたないんだ。よく見て、よく聞いて、どんな小さな手がかりでも見逃さないようにしなくちゃいけない」

「ワン、ユラサイ、レコル、シルの町と行ったわけだけど、フルートは何かつかんできましたか?」

 とポチが尋ねたので、フルートはまた考え込みました。

「窓がぼくたちを案内した場所は、どこも闇の灰の影響を受けていた。だから、闇の灰が関係していることは確かなんだと思うんだけれどね。あとは、どの場所でもデビルドラゴンと結びつくものが現れた。ユラサイには二千年前の壁画があったし、レコルでは闇の灰の渦からデビルドラゴンが現れかけたし、今回も、ぼくは闇の花畑から闇の結界に行って、昔のデビルドラゴンに出会った――。闇の灰と、デビルドラゴン。この二つだけは、どの窓にも共通しているキーワードだ」

「だが、それがどんなふうに手がかりになるのか、って言われたら、俺には全然わかんねえぞ。なにしろ俺は頭が悪いからな」

 先ほど馬鹿呼ばわりされて怒ったゼンが、真面目な顔でそういいました。

「ワン、ぼくたちだってわかりませんよ。でも、フルートはもう何か気がついてきてるんじゃないですか?」

 とポチに聞かれて、フルートは首を横に振りました。

「まだ無理だよ。これだけではわからない。だから、次の窓がある、って言っているんだ。そこもやっぱり闇の灰の影響を受けているんだろうし、デビルドラゴンの気配もあるのかもしれない。でも、きっとその中に、また新しい手がかりがあるんだ」

「そっか。でもさ、行く先々であいつに出会うかもしれないと思うと、なんか気が重いよね。ポポロはまだ魔法が使えないんだろ?」

 とメールに言われて、ポポロはたちまち涙ぐみました。シルの町でも夜にはならなかったので、彼女の魔法はまだ復活していなかったのです。

「金の石と願い石が頼りね」

 とルルが言います。

 

 その時、彼らがいる場所から五つほど先にある窓から、ざぁっと急に音がして、激しい雨が吹き出してきました。

 一同は飛び上がりました。

「次の窓だ!」

 と叫んで、雨が吹き出す窓枠へ駆け寄ります。

 すると、強い風が剣と剣のぶつかり合う音を運んできました。緊迫した声も聞こえてきます。

「そちらへ回ったぞ! 注意しろ!」

「わかっている! あなたこそ気をつけてくれ!」

 男二人が言い合っているようですが、後の声は若い女性のものです。フルートたちは思わず、えっと立ち止まりました。自分たちの耳を疑ってしまいます。

 すると、また別の男の声が聞こえてきました。

「前方にご注意を! 新しい敵でございます!」

 ざざざっと雨が激しく降る音に、リーン、と鈴を振るような音が混じります。

 すると、最初の男の声が叫びました。

「逃げろ、セシル! 早く!」

 また剣のぶつかり合う音。そして、女性の悲鳴――。

「オリバン! セシル!」

 フルートたちはいっせいに叫ぶと、窓に向かって殺到しました。

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