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第20巻「真実の窓の戦い」

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47.束の間(つかのま)

 やがて、フルートの両親は落ちつきを取り戻しました。

 お父さんがフルートへ言います。

「おまえたちが、おじいさんやおばあさんのところに行ってくれて、本当に良かった。ぼくたちは、家出同然にしてここに移り住んできたからね。もう二度と許してもらえないだろうと思っていたんだよ」

「ありがとう、フルート……。暖かくなったら、お父さんと一緒にレコルへ行ってみるわ。指輪も、預かってきてくれてありがとう」

 とお母さんもまたフルートを抱いて言います。フルートはうなずきました。

「おじいさんもおばあさんも、きっととても喜ぶよ……。おばあさんは、すぐにはお母さんたちとはわからないかもしれないけど、でも、きっとわかってくれるような気がする」

「ワン、そうですね。だって、あんなにお母さんたちを想ってくれているんだもの」

 とポチも足元で尻尾を振って言いました。

 フルートの仲間たちは、そんなやりとりを笑顔で見守ります。

 

 すると、町の人たちが彼らに声をかけてきました。

「さあ、ロキも見つかったことだし、いつまでもこんなところで立ち話をしていないで、町の中に戻ろう。ヤーンの店に集合だ。暖かいところで、ロキを見つけたときのことをゆっくり聞かせてくれ」

 フルートたちは思わずロキのほうを見ました。幼児の姿になったロキも、母親の腕から彼らを振り向いていました。目と目で、どうしよう? と言い合います。ロキが荒野で闇の少年の姿になっていたことを、町の人たちに話すわけにはいきません――。

 そのとき、ポポロがフルートの腕を引きました。

「見て……」

 ポポロが示すほうを振り向くと、町の出口に続く街道の上に、銀の蔦が絡まったような窓が浮いていました。ガラスがはまっていない窓枠の向こうには、たくさんの窓が見えています。

「どうしたんだ? 何かあるのかい?」

 とお父さんが不思議そうに尋ねてきました。お母さんもフルートたちの様子に、怪訝(けげん)そうな顔をしています。真実の窓は、お父さんたちには見えていないのです。

 フルートはちょっと考え、すぐに言いました。

「ごめん、お父さん、お母さん。ぼくたちはもう行かなくちゃ。用事の途中で立ち寄っただけだったんだよ。でも、これだけは聞いて――。西のほうから、火山灰がロムドに流れてきて、荒野にも降り積もっているんだけれど、この灰には闇が含まれているんだ。闇の灰は吹きだまりで怪物に変わってしまう。だから、町の外に出るときには用心して、怪物から身を守ってほしいんだ」

 その話に、お父さんたちはびっくりしました。

「秋口にお城の使者が来て、火山灰が風に乗ってザカラスのほうから飛んできているから、これから天気が悪くなって寒くなる、と知らせてくれたんだが、それが闇の灰だったと言うのか?」

 フルートはうなずきました。

「荒野の窪地には、闇の花畑ができていたよ。それはぼくたちで退治してきたけれど、他の場所でも同じように闇の生物が生まれてきているかもしれない。くれぐれも気をつけるように、他の人たちにも伝えてほしいんだ」

 お父さんは真剣な顔で考え込みました。

「確かに、この冬は荒野で闇の怪物が目撃されることが多い。町の中まで入ってくることはなかったんだが……。わかった、町のみんなに知らせるし、隣町のラトスにも知らせて、協力して荒野から怪物を駆除することにしよう」

 ロムド国の西部は開拓地なので、住人の独立心が強い土地柄です。危険が迫っていると知れば、自分たち自身で身を守るために動き出すのでした。

 フルートはうなずきました。

「怪物は闇に属しているから、火が有効だよ。動けなくして、油をかけて一気に焼き尽くすんだ」

 とアドバイスを伝えます。お父さんはいっそう真剣な顔でうなずき返し、それからすぐに表情を変えました。少し淋しそうな笑顔になって言います。

「おまえたちはもう、行ってしまうんだな」

「うん。まだぼくたちは戦いの途中なんだ。でも、必ずまたみんなを連れて帰ってくるから。だから、お父さんもお母さんも、体に気をつけていてね」

 とフルートは微笑を返しました。優しいけれども、揺らぐことのない強い意志を秘めた笑顔です。

 お父さんは黙ってまたうなずきました。お母さんは目をうるませて息子たちを見つめています。

 

 じゃあ、とフルートたちは言って、両親に背を向けました。街道の上に浮かぶ窓へ歩き出します。

「おぉい、君たち、どこに行くんだ? ヤーンの店はこっちだよ」

 とロキの父親が不思議そうに呼びかけてきました。ロキの母親も彼らを振り向きます。

 その腕の中から、小さなロキはずっとフルートたちを見つめていました。フルートたちの姿が街道の上から消えていき、町の人たちが驚きの声を上げても、騒ぐこともなく、そちらを見つめ続けます。

 と、ロキは小さな手を振ってつぶやきました。

「バイバイ、兄ちゃんたち……またね」

 フルートのお母さんが、お父さんの胸の中で声を上げて泣き出していました――。

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