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第20巻「真実の窓の戦い」

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44.邂逅(かいこう)

 影の中に見える別の場所へ、フルートは飛び込んでいきました。その中で一人の少年が助けを求めていたからです。闇に絡みつかれたまま、こちらへ手を伸ばしています。

 フルートは少年のほうへ走りました。周囲から雪原や闇の花畑が消えて暗闇になっても、まったくためらいません。

 少年は長身でしたが、ひどく痩せていて、フルートより少し年下のように見えました。顔に乱れかかった輝く銀髪が、暗闇の中でも目を惹きます。その体や首には、ひときわ濃い闇が大蛇のように絡みついていました。少年は必死でそれを引きはがそうとするのですが、手は闇を素通りしてしまいます。

 フルートは走りながら素早くあたりを見回しました。少年に絡みつく闇は彼らの周囲にもよどみ、暗闇をなお暗く染めていました。その輪郭は曖昧(あいまい)ですが、すさまじい悪意が伝わってきて、心の奥底の恐怖をかきたてます。それはフルートが何度も経験してきた感覚でした。デビルドラゴンが、ここにいるのです。

 

 すると、少年がフルートに気がつきました。助けて、と唇を動かしますが、首を絞められて息が詰まりそうになっているので、声を出すことができません。

 フルートは心に絡みつく恐怖を振り切って、少年に駆け寄りました。身を沈め、光の剣を斜め上へ切り上げて、絡まる闇を一刀両断にします。

 けれども、周囲の闇から切り離されても、少年の体から闇はまだ消えませんでした。蛇のように絡みついたまま、鎌首を持ち上げてフルートを見つめます。その先端には赤い二つの目がありました。地の底から響くような声が聞こえてきます。

「キサマハ誰ダ? 我ノ邪魔ヲスルノハ何者ダ?」

 それは確かにデビルドラゴンの声でしたが、何故か、やってきたのがフルートだとは気づいていないようでした。フルートは何も言わずに、返す刀を少年の頭上へ振り下ろしました。少年ごと、絡まる闇を真っ二つにします。

 少年は悲鳴を上げる顔で立ちすくみ、次の瞬間、驚いたように目を見開きました。フルートに切られたはずなのに、まったく怪我をしていなかったからです。切り裂かれたのは闇だけでした。彼らの周囲から悪意と恐怖の気配が消えていきます……。

 

 少年は立ちすくみ、あえぎながらフルートを見つめました。顔におおいかぶさった銀の髪の間から、青い右目がのぞいています。

 フルートは、にこりと笑ってみせました。

「無事で良かったね」

 と話しかけますが、少年には聞こえていないようでした。この人は誰だろう、というように、いぶかしそうにフルートを見つめ続けています。

 その顔が、ふと、誰かに似ている気がして、フルートは改めて少年を見つめてしまいました。フルートが手にした光の剣は、少年の浅黒い肌を淡く照らしています――。

 

 すると、急に少年の姿が薄らぎ始めました。

 闇も同時に薄くなり、あたりが明るくなって、周囲にまた闇の花畑が広がります。

 首に金のペンダントをかけたポチとルルが、一緒に駆けてきてフルートに飛びつきました。

「ワンワンワン、フルート! フルートだ!」

「ああ、良かった! 戻ってきたのね! 良かった――!」

 二つの首をひとつのペンダントでつながれた不自由な恰好で、フルートの足元に絡まります。

 そこへゼンとメールもやってきました。フルートが闇の花を消した場所をたどって、やっとここまで駆けつけてきたのです。ゼンもフルートに飛びつき、両肩をつかんで言いました。

「おい、無事だな!? ったく、一人で闇ン中に飛び込んで行きやがって!! 心配かけるのもいい加減にしろ!!」

「真っ黒な闇が見えたよ! いったいどこに行ってたのさ!?」

 とメールも青ざめて尋ねます。

 フルートは少年がいた場所を振り向きましたが、その時にはもう、別な場所へつながる闇も銀髪の少年の姿も見当たりませんでした。

「デビルドラゴンがいたんだ。奴に捕まっていた子を助けたんだけれど……」

 あの少年が、やっぱり誰かに似ているような気がして、フルートは首をひねってしまいました。

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