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第20巻「真実の窓の戦い」

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42.蔓(つる)

 荒野の彼方から押し寄せてきた風は、猛吹雪になってあたり一面を閉ざしました。

 フルートとポチが闇の花を消していく様子を見守っていた仲間たちも、あっという間に吹雪に包まれて、何も見えなくなってしまいました。両手を顔の前にかざしますが、それでもたたきつける風と雪は防げなくて、息が詰まりそうになります。

「ポチ、フルート――!」

 とルルは低く伏せながら叫びました。吹雪が激しすぎて、彼らの様子がわかりません。

 すると、雪の中で金色の光が輝きました。吹雪を染めながら暖かく広がっていきます。ああ、あれは金の石の光だわ、とルルは考えて、少しほっとしました。金の石がフルートとポチを守っているのに違いありません。

 

 ところが、その時、いきなり風向きが変わりました。フルートたちのいるほうから吹いていた風が、急に逆になったのです。

 風が後ろから吹き始めたので、仲間たちはすぐに顔を上げました。乱れた風と雪の間に、高く燃え上がる炎の柱を見ます。先にフルートが放った火は、吹雪にあおられて、消えるどころか逆に大きく燃え上がり、激しい上昇気流を起こして風向きを変えたのでした。

 すると、魔法使いの目を使っていたポポロが、悲鳴を上げました。

「聖なる光が消えたわ! フルートとポチが落ちた――!」

「闇の花の真ん中に!?」

 とロキも叫びました。助けに駆けつけたいのですが、風と雪はまだ吹き荒れていて、彼らはそこから動くことができません。

 すると、風が弱まってきました。横殴りだった雪が、また上から下へ降るようになります。

 その中に、彼らは、ぽっかりと穴の空いた花畑を見ました。雪の中に不気味に赤く咲き乱れる闇の花ですが、その一部分が丸く綺麗に消えていて、むき出しの地面がのぞいていたのです。その中心にいるのはフルートでした。ポチの姿はそこからは見えませんが、フルートが片腕に抱いているようです。

 仲間たちは本当にほっとしました。

「金の石の光で闇の花を消して、その中に下りたんだね」

「けっこう広範囲に花が消えてやがる。あれなら花も襲ってこねえか」

 とメールとゼンが話し合っていると、ポポロは青ざめて首を振りました。

「ポチが怪我をしてるわ! それに毒の花粉も吸ってしまったみたい……!」

 なんだって!? と仲間たちは仰天しました。

「金の石はどうしたのよ!? 怪我も毒もすぐ治せるはずでしょう!?」

 とルルがどなったので、ポポロは涙ぐんで言い続けました。

「ペンダントが離れたところに落ちているのよ! フルートが闇の花の蔓に捕まってるわ!」

 一同は息を呑みました。窪地の底にいるフルートを改めて眺め、そのすぐ近くに血の色の花が群れ咲いているのを見つけて、真っ青になります。

 

 すると、フルートが背中から炎の剣を抜きました。横になぎ払い、次に上から下へ勢いよく振り下ろします。とたんに炎が湧き起こりました。フルートが、左腕に這い上がってきた炎を払って飛びのきます。

「よし! 闇の花と蔓を焼き払ったな!」

 とゼンは歓声を上げましたが、ロキが言い返しました。

「闇の花を近くから攻撃しちゃだめだったら! そんなことをしたら、花が――!」

 そのことばが終わらないうちに、花畑全体が、ざわりと大きく動きました。次の瞬間、血の色の花の間から、長い蔓が空に向かって飛び出してきます。何千本、何万本という数です。

 ロキは半狂乱で叫び続けました。

「闇の花は火には特に反応するんだよ! 焼かれるのを恐れてさ――! いっせいに兄ちゃんに襲いかかるぞ!」

 ロキの言うとおり、大量の蔓は花が消えた穴の真ん中へ先端を向けていました。その中央に立つフルートへ狙いを定めています。

「逃げろ、フルート! ポチ! 引き裂かれるぞ!」

 とゼンは叫び、丘を駆け下り始めました。フルートたちを助けに向かったのです。その後を追って、メールとルルも駆け出します。

「もうっ! どうして冬なのさ! 花さえあれば、すぐ助けられるのに!」

 とメールはわめいていました。ルルはうなりながら走っています。ちょうどその時、また風が出てきて、吹雪になってしまったのです。ルルは風の犬に変身できません。

 ロキは丘の上に立ちすくんだまま、両手を顔に当てていました。

「ああ、どうしよう、どうしよう!? 無理だよ! 闇の花に素手や剣で勝てるわけがないんだからさ! みんな闇の花に食われちゃうよ!」

 と叫びながら涙を流します。

 いっせいに蔓を伸ばした闇の花は、どっとフルートに襲いかかっていました。太いロープのように絡み合った蔓が、がんじがらめにしたフルートを、高々と持ち上げます。フルートは左腕にポチを抱き、右手に炎の剣を握っていましたが、腕の上から蔓が絡みついているので、手を動かすことができませんでした。そこへまた蔓が飛んできて、フルートから剣を奪い取ってしまいます。

 ああっ、とロキは思わず目をつぶりました。

「もうだめだ! 兄ちゃんもポチも、花に引き裂かれて殺されちゃう――!」

 ロキの泣き顔を、吹雪が容赦なくたたきます。

 

 丘の上には、ロキと一緒にポポロも立っていました。先ほどまで彼女もフルートたちを透視して泣いていたのですが、不思議なことに、今はもう涙を流していませんでした。赤いお下げ髪を吹雪になびかせながら、闇の花に捕まったフルートたちを見つめて言います。

「ううん……きっと大丈夫よ。だって、地上にこれだけの闇があったら、それに釣り合うだけの光も地上へ来ることができるんですもの……!」

 何かを確信している強い響きの声でした。すぐに両手を祈るように握り合わせると、目を天に向けて呼びかけます。

「天空王様、天空王様! フルートとポチを助けて下さい! お願いです――!」

 天空王!? とロキはびっくりして目を開け、ポポロが空を見たまま、にっこり笑ったのを見て、また驚きました。一緒に空を見上げても、ロキの目には何も映りません。

 けれども、ポポロはほほえんだまま言いました。

「ありがとうございます、天空王様」

 と感謝をしてから、ほら、とロキに闇の花畑を指さしてみせます。

 蔓にがんじがらめにされたフルートの右手に、何か光る長いものが見えて、ロキは目を丸くしました。先ほどまで、あんなものはなかったはずです。

「あれは?」

 と尋ねると、ポポロは言いました。

「あれは光の剣よ。天空王様がフルートのところへ送ってくださったの。もう大丈夫。きっとフルートが勝つわ」

 その声が聞こえたように、フルートは光る剣を握りしめ、また襲いかかってきた蔓をきっとにらみつけました――。

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