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第20巻「真実の窓の戦い」

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第14章 雪中花

40.雪中花(せっちゅうか)

 雪が降る荒野の中を、フルートたちは白い息を吐きながら歩き続けました。先頭に立って彼らを案内しているのは、黒髪の少年の姿になったロキです。

 やがて、その行く手にまた雪の丘が現れました。丘の麓からシルの町の方角へ、長い棒が規則正しく立てられているので、メールは首をひねりました。

「あの棒は? 何か表してるのかい?」

 フルートがそれに答えました。

「あそこに西の街道があるんだよ。棒は丘の向こう側にもずっと続いているんだ。荒野に雪が積もると、街道の位置がわからなくなって迷子になるから、街道の横に目印を立てるのさ」

「おいらは街道を馬そりで通りながら見たんだ。闇の花があったのは、あの丘の向こうだよ」

 とロキは言って、丘の上に登っていきました。フルートたちもそれに続きます。

 

 やがて、丘の上にたどり着いた一行は、麓を見て、あっと声を上げてしまいました。

 足元から行く手に伸びる丘の裾野(すその)に、毒々しいほど赤い塊があったのです。それは血の色をした無数の花でした。雪の中の窪地に群れをなして咲いています。

「闇の花が地上にこんなにあるなんて――」

 とフルートは言って、絶句しました。血の色をした花畑は雪を溶かし、何十メートルにも渡って広がっています。何千何万という花の数です。

 すると、メールが、ぶるっと身震いしました。

「やだな……あの花たち、歌ってるよ。ものすごく気味の悪い歌だ」

 花使いの姫は花のことばがわかるので、闇の花の歌声を聞き分けることができたのです。それは延々と続く呪いと恨みの歌でした。聴き続けていると気が変になりそうで、メールは思わず耳をふさぎました。

 ルルは今はゼンの肩に乗っていましたが、そこから鼻をひくひくさせて、顔をしかめました。

「本当にひどい闇の匂い! 闇の国と同じくらいだわ!」

「ワン、闇の灰が窪地に溜まったせいで、そこに闇の花が出現したんですね。闇がすごく濃いから、地上にあっても花が消滅しないんですよ」

 とポチはフルートの肩の上から言います。

 ロキは一行を振り向きました。

「闇の花は攻撃されると、必ず攻撃したヤツに仕返しをしてくる。長い蔓で花畑に引き込まれて食われるから、うかつに攻撃はできないんだ。でも、あのまま放っておいたら、闇の花はどんどん増えていくし、花の歌を聞きつけて闇の怪物たちも集まってくると思う。なんとかして、あの花を退治しなくちゃいけないんだ。どうしたらいいかな、兄ちゃんたち?」

 うぅむ、と一行は考え込んでしまいました。ゼンが渋い顔で言います。

「もっと数が少ないなら、火をかけて焼き払うのが一番いいんだが、あれだけあるとな……。思い出したぜ、闇の国であの花とどんな戦いをしたのか。フルートの炎の剣で切って燃やしても、数が多すぎて歯が立たなかったんだよな」

「ワン、一度シルの町に引き返して、油をたくさん準備した方がいいかもしれませんね」

 とポチが言います。

 

 すると、ポポロが花畑を指さしました。

「見て! 花が煙を吐き始めたわ!」

 煙を? と一同はまた目を凝らしました。窪地に咲く赤い花は、確かに、急に靄(もや)のようなものに包まれて、かすみ始めていました。闇の灰が煙になっているのかとも思いましたが、花を包む靄は赤い色をしています――。

「花粉だ! 闇の花が種を作ろうとしてるんだよ!」

 とロキが言ったので、勇者の一行はまた驚きました。

「種ができるのに、どのくらいかかる!?」

 とフルートが尋ねます。

「あっという間だよ! 花粉が飛ぶと、闇の花はすぐに種をつけて、それをまわりに散らすんだ! 闇の花がもっと増えるよ! 急いでなんとかしないと、本当に手遅れになっちゃうぞ!」

 とロキは言いました。気は急くのですが、どうしたらいいのかわからないので、雪の中で地団駄(じだんだ)を踏んでいます。

 フルートはポポロを振り向きました。

「君の魔法だ! あの花を焼き払おう!」

 ポポロはたちまち顔色を変えました。

「だめよ……。さっきいたレコルの街からここに来るまでの間に、夜がなかったから、あたしの魔法はまだ回復していないの。だけど……」

 ポポロはさらに何かを言おうとしましたが、フルートは即座に作戦を変更しました。

「よし、それじゃ金の石を使うことにする! ポチ、降る雪に気をつけながら、風の犬に変身してくれ!」

「ワン、花の上に飛べばいいんですね? 前に闇の花と戦ったときには、二度とも金の石が使えなかったけれど、今回は大丈夫だし、風がやんで吹雪の心配もなくなったし。空から闇の花に聖なる光を浴びせてやりましょう!」

 とポチが張り切ります。

 

 ところが、ルルはゼンの肩でしょんぼり尻尾を垂らしました。

「ごめんなさい、私はだめみたいだわ……。闇の匂いがすごすぎて、ここにいても気分が悪いの。これ以上、あの花には近づけないわ」

「ワン、大丈夫。あそこへ行くのはフルートだけだから、ぼく一人で充分だよ」

 とポチはフルートの肩から身を乗り出して、ルルをなめました。

 ゼンは腕組みをしてフルートに言います。

「充分気をつけて行けよ。花に捕まったら、ただじゃすまねえんだからな。充分距離を取れよ」

「わかった。君たちこそ、安全な場所にいてくれよ」

 とフルートも大真面目で言います。自分のことより仲間たちを心配するあたりは、やっぱりフルートです。

 すると、ロキが言いました。

「鼻と口をふさいだほうがいいぞ、フルート兄ちゃん。闇の花の花粉には毒があるから、吸い込むと体がしびれて、動けなくなっちゃうんだ」

「ぼくには金の石があるから、毒は平気だよ」

 とフルートは言いましたが、仲間たちが心配したので、リュックサックから布を取りだして、鼻と口の上に巻きました。兜と布の間から青い瞳をのぞかせて、仲間たちへ言います。

「これでいいだろう? さあ、急がないと闇の花がまた増える。行くぞ、ポチ!」

「ワン、いつでもいいですよ!」

 とポチが元気に答えて変身しました。とたんに雪原に風が巻き起こり、降ってくる雪が巻き込まれて吹雪のようになります。思わず心配した仲間たちへ、ポチは言いました。

「ワン、ぼくが起こしている風だから大丈夫ですよ。じゃ、行ってきます!」

 ポチの背にはすでにフルートが乗っていました。よし、行け! というフルートの合図で、ポチは空に舞い上がり、赤い花畑目ざして飛んでいきます。

 ゼン、メール、ポポロ、ロキ、そしてルルの四人と一匹は、雪の丘からそれを見送りました――。

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